片道3時間の旅
セミがしゅわしゅわと鳴いている。
木の青い葉が風に吹かれてさわさわ揺れて気持ち良さそうにしている。
湿気でねっとりとした暑い空気が肌にまとわりついてくる。
携帯のゲーム機を自転車の前かごに入れて嬉しそうにしている小学生たちもみえた。
後ろにいる子は自転車を持っていないのか一生懸命追いかけている。
「すごい生命力だなぁ……」
ぽそりと呟くと、
「ホームに電車がまいります」
床に置いていたボストンバックを手に持つ。
電車なんて何年ぶりだろうか。
今から片道3時間の旅が始まる。
◇
「着いたぁ…」
さすがに3時間は疲れる。
自分が座る場所に間違えて人が座っていたりして余計に疲れた。
「でも…」
片道3時間で来たのは見渡す限りが緑で自然豊かな場所だった。
ホームは柵などはなくよろけたら落ちそうである。
「こんな所にも電車とおってるんだな…」
少し失礼なことを思いながら、階段を下りる。
階段はあまり整備されていないのか端っこの方は欠けたりしているところがある。
「はぁ…はぁ…」
階段もろくに登れなくなったのか。
息切れがひどい。
階段の頂上に着くと、息を整える。
「やはり無人駅」
改札に切符を通す。
切符が吸い込まれていく音がなんだか歓迎されているような気分にさせてくれる。
「約束の場所はここでいいのかな…」
スマホをポケットから取り出して、マップアプリを開く。
青い三角マークの周りを2本の指でひょいひょいと動かす。
しばらく画面とにらめっこしていると、突然目の前が砂ぼこりで何もみえなくなった。
「ごほっ何だっ!」
砂でむせまくっていると、耳をつんざくような高い声がきこえてきた。
「あなたが例の人?」
声が聞こえる方に目を向けると小さい顔を軽トラックから覗かせている女の子がいた。
「え、えっと」
「ふーん、話で聞いてたよりも若くみえるわね」
上から下まで嘗め回すようにみられている。
ヘビに睨まれているカエルの気持ちが分かる気がする。
しばらく何も言わずに立っていると、女の子が沈黙を破ってきた。
「ほら、早く乗って!会わせたい人がいるの」
「は、はい!」
勢いに流されるまま軽トラックに乗るのであった。
初めて投稿します。色々拙いところはあると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。