第66話 思わぬ味方?
院瀬見と朝の一悶着があってから数分後。
続々と登校してくるクラスのみんなとはまるで違う冷えた空気感が、俺と院瀬見との間にほんの少しだけ流れた。
しかしそんなことなど知る由も無い彼らが、俺のことなどお構いなしに院瀬見に声をかけてくる。
「おはようございます。院瀬見さん!」
「おはようござまっす!」
「……お早うございます。下道さん、鈴原さん」
これは意外だ。
今まで俺以外の男子なんて見えてもいなかったし名前を呼ぶことなど無かったはずなのに、隣の院瀬見はごく自然に彼らの名前を呼んでいる。
呼ばれた彼らもすぐに名を覚えてもらえると思って無かったのか、口を開けたまま唖然としているようだ。
そんな彼らと院瀬見の反応に俺は特に気にするそぶりを見せてはいなかったが、何となくの視線を感じたのか、隣の院瀬見が何故か嬉しそうにしていた。
生徒会長を推す裏切りな彼らを許すわけじゃないが、院瀬見の気分を変えてくれたことには感謝しかない。
それはそうと、この日は学期が変わり、共学となってから初めて行われる全校集会の日だ。
「よし、体育館に移動だぞ~! 速やかに開始しろ~」
せおり先生の指示に従い、教室から次々と人がいなくなっている。隣の席の院瀬見は俺をちらりと見つつ、見知らぬ女子たちと移動を開始していた。
俺はというと、お調子者の下道が声をかけてきたのでそのまま奴と移動することに。
「翔輝さん、調子はどうっすか?」
「普通だ」
「そりゃあ何よりっすね。オレは朝から最高の気分なんで、何か申し訳ないっす」
下道は元から自分にとって得となる人間にくっつくタイプだからどうでもいいが、鈴原はまだ表面上の性格しか掴めていない。他の男子と違って院瀬見本人に臆していないのも注意すべきところだ。
「気にするな。何とも思ってない」
「それは良かったっす。それはそうと、今日は久しぶりに話が出来そうっすね!」
「だな」
「夏休み中は謹慎してたみたいなんで、オレも会ってないんすよ~」
集会自体は大した話にはならないが全校の集まりということもあって、普段は交わらない校舎が分かれてしまった連中と顔を合わせるいい機会だったりする。
そうなると必然的にアレとも遭遇する羽目になるが、下道と俺が気にしていたのはアレではなく奴のことだ。
「……や、やぁ、翔輝」
そんな中、全校集会を終えてほんのわずかな時間に俺に話しかけてきたのは校舎が別になってしまった北門だった。
下道も北門と話したそうにしていたくせに、女子の近くを離れずに俺から離れたようだ。
「久しぶりだな、純」
しでかしたことで動揺しているようだが、顔色は良さそうに見える。さすがに反省はしているようだし、俺は特にそのことについては言わないでおくことに。
なんたってよりにもよって新葉への執拗なつきまといをした勇者なわけで、むしろある意味で新葉を寄せ付けない盾になる。
「う、うん」
「上田と同じクラスなんだって?」
「そうなんだよ。えっと、僕のクラスには十日市聖菜さんと、二見さんもいて……」
「へぇ~」
何とも言えない個性的なクラスなのは違いないな。
「そういえば聞いたよ」
「あん?」
「院瀬見さんと生徒会選挙で争うんだってね。しかも下道くんが裏切ったとも聞いてるよ」
そういう話は早いのか?
まさかどこかで誰かが――もしかして聖菜じゃないだろうな。院瀬見も警戒していた女子だしなくは無い話だ。
嫌な予感があった直後、
「南、元気そう」
予想通りの女子が北門の隣に立っていた。
「あっ、十日市さん。そうそう、さっきの話のことは彼女から聞いたんだよ。でも彼女から聞いた直後に割と早くに広まったんだよ」
「古根校舎の方でか?」
「校舎は分かれているけど同じ学校だからね。翔輝は霞ノ宮校舎にいるから分からないかもだけど、そういう話は古根校舎に入ってきやすいんだよ」
ウワサ好きな奴が多いとも言うが。
「南が必要としてるのは知ってる。だから聖菜は喜んで協力する」
……というより、聖菜が影響を与えていると言った方がいいだろうな。
「何の話だ?」
「生徒会選挙。院瀬見つららと戦うって話。聖菜は南の味方。だから喜んでる」
俺としてはかなり厄介な味方になり得る。ただでさえ院瀬見と聖菜は敵対関係なわけだし。
「僕も喜んで協力を――」
「いや、お前は駄目だ。悪いが俺の方には草壁新葉がいるからな。純が加わると聞けばアレが暴走しかねない」
「あぁ……うん、そうだよね。ごめん……それなら僕は陰で支えることにするよ! あっ、そろそろ時間だね」
そんなに多くは話してないものの、生徒会選挙での思わぬ味方を得た。聖菜に関しては何とも言えないけど。
北門と聖菜との雑談後、特に何の問題も無く教室に戻った。
彼らとの話に何も問題は無かった――そう思いながら昼休み時間が迫る間際になって、隣から尖端がシャープなペンが俺の脇に突き刺さる。
「…………何ですか? つららさん」
「まだあの子に気があったんですか? 正直に答えないと突き刺すことになります」
もう刺さってワイシャツに穴が開きそうなんだが。
「あの子?」
「気づいていないとでもお思いですか?」
全校集会後のわずかな隙間時間に、俺の視界上に院瀬見の姿は確認出来なかった。北門のことはおそらく見えなかったに違いないとしても、一体どこから目撃していたというのか。
「十日市聖菜のことか? 話くらいはするだろ」
「好きじゃなくてもですか?」
「それは仕方ないことだな。俺からじゃなくて向こうから話しかけてきたら逃げようがないしな」
「もぅっ――!」
まだ一応授業中なのに相当頭にきているようだ。
「お昼休み、わたしに付き合ってもらいますからね?」
「そうする」
「うんうん、そうこなくっちゃ!」




