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美少女選抜優勝者の彼女に俺だけ塩対応してたのに、なぜか興味をもたれてめちゃめちゃ甘えてくるようになりました  作者: 遥風 かずら
第三章 恋と争う二人

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第54話 よりにもよって同居人


 幼馴染の新葉が、意味も無く意味深なことを言った翌日。


「やっほー! 翔輝く~ん。おひさ~!」

「……は?」


 昨日、新葉の部屋の物が減っていることに気づいた俺だったが、肝心の俺の家の方も変化があった。


 よりにもよって日頃から留守がちな親が、さらに長期に渡って帰って来ないことが発覚したことだ。それもメールだけで事後報告とか、適当過ぎる。


 それによると、新葉が住んでいるマンションが建て替えをするということらしく、可能な限り実家に戻る、あるいは知人の所で過ごしてもらうといった通達が出たらしい。


 ――で、下着姿でうろうろしているこいつは何なんだ?


 しかも恥ずかしがることもなく堂々とストレッチを始めている。


「いやぁ、暑いね~。思わず新葉さんは脱いじゃったよ~!」


 わざとらしくぽいぽいと上着を脱いで、下着姿な自分を俺に見せつけまくりだ。


「あのなぁ……俺がその気にならないのをいいことに無防備すぎないか?」

「だって暑いし」

「……あからさまに胸を揺らしまくりなお前を襲わないとでも思ってんのか?」

「襲っちゃう? いいぜ~? あたしはいつでもカモンヌ!」


 ……ちっ、それが出来ないことを分かっててやるからタチが悪い。


「言っとくが、みっともない真似をしたって俺は何とも思わないぞ」

「ほぅ? ほほぅ? それは翔輝なりの照れ隠しなのかな? 分かる、分かるぞ~」

「……ちっ」


 こんな奴を受け入れた親のメールにはこうも書かれてあった。


 夫婦仲良く海外旅行に行く代わりに俺の身の回りやら何やらを、全て新葉に頼んでおいた――という衝撃的文面。さらには、自分たちの部屋を片付けておいたからそこにしばらくいてもらう――とも。


 それだけで判断すると、旅行というより長期滞在なのではないだろうか。


「ん~……新葉わかばさん、汗かいちゃったよ~。シャワー借りるよ~」

「勝手に汗かいといて勝手に浴びるのかよ」

「…………ふむ」

「何だよ?」


 さすがに俺がいる前で全裸になることは無さそうだが、何か言いたそうだな。


「そ・れ・と・も……一緒にシャワーを浴びる~?」


 ……などと言いながら、新葉は俺の背後を取って胸を押しつけてくる。これは院瀬見がしてきたことの真似だと思われるが。


「ふざけてんの?」

「いんや~、あたしは至って真面目だよ。なんならお背中お流ししましょうか~?」

「意識してないからってそれはまずいだろ!」


 俺の家に上がり込んでから早速俺のことをからかい始めるとは何て奴だ。


「……意識してますよ? こう見えてあたしは恥ずかしがり屋さんなので!」


 嘘つけ。その割に全然顔を赤くしてないくせに。


「シャワーの場所は分かるだろ? 一人で行ってさっぱりしてこい」

「な~んだ、意気地なしめ! あたしの胸を背中に押しつけられてその気になっているかと思いきや、このヘタレめ!」


 今まで俺の部屋に上がり込んでいた時は少しは気を遣われていたと思っていたが、そんな考えは捨て去ることにする。せめて七石先輩がいれば遠慮も生まれたはずなのに何でこいつだけなんだよ。


「どうとでも言え」

「あ、そうそう。荷物が来るからお部屋に運んで整理整頓よろしく~!」

「荷物は分かるが、何で俺がお前のを片付けないと駄目なんだよ!」

「むふふ。うっかり下着とか触り放題だよ? 何も見てないお姉さんは何も言えないんだぜ~。とにかく任せた! あたしはさっぱりしてくるぜ!」


 何がうっかりだ。今さら俺が下着、それも新葉ごときの下着で興奮するとでも思ってるのか。


 しかし建て替えは仕方が無いにしても、何で新葉なんだよ……。そういや、建て替えってことは院瀬見も退避して困ってるはずだよな。


 ふとそんなことを思っていたら、チャイムが鳴った。どうせ新葉の荷物を運びに来た業者だろうけど。


「はいはい、今開けますんで」


 玄関ドアを開けると、想像以上の段ボール箱が積み重なっているだけで業者の人の姿がまるで見えない。


「――は? 誰もいない? 冗談だろ? 荷物だけって……」


 荷物を運んで来ただけってそれはあんまりだろ。


「……わたしを荷物扱いとは性格悪すぎませんか?」

「え?」


 引っ越し業者らしき姿は無く、てっきり段ボール箱だらけの荷物だけかと思いきや、頬を膨らませた子が俺の前に立っていた。


 淡い色の作業帽子を深々とかぶっていることで長い髪が隠れ、ダボッとした作業着を着ているせいですぐに気付けなかった。


 だが俺の目の前に立っているのは間違いなく、

 

「つ、つらら……!?」

「院瀬見です。今は院瀬見とお呼びください! それより、これ伝票です。サインお願いします」

「…………はい?」

「あなたは南さんですよね? 東さんじゃないですよね?」


 まさか院瀬見が引っ越し業者なのか?


 それにしたってこの量の段ボール箱を一人で運ぶとか考えられないんだが。


 俺よりも腕っぷしが強くて庭いじりもサマになっていると思っていたが、単なるお嬢様じゃなかったりするのか。


「……じゃあこれで」


 伝票をよく見ると、院瀬見グループと記載されている。もちろんそれだけで判断出来ないのでとりあえずサインしておく。


「はい、サイン頂きました」

「え、あれ、家の中に運ばなくていい感じ……?」

「運びたいんですか?」

「そりゃあまぁ……俺のモノじゃないけど、このまま外に出しておくわけにもいかないし」


 俺がそう言うと目の前の院瀬見は少し首をかしげた後、小さく頷いてみせた。そして何故か姿勢よくしだした。


「うん? あれ、荷物は?」

「ですから、わたしを先に運んでください。どんな運び方でもいいので優しく運んで欲しいです」


 院瀬見を荷物扱いしたつもりなんて無かったのに、まさか本気にしてその気になったのか?


「抱っこでいいですから、早く運んでください!」

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