第53話 ライバル宣言!?
「どういうことなのか、きちんとわたしに説明してください!! どうして気がない彼をたぶらかしたりしているんですか!」
「たぶらかすだなんて言葉が悪いなぁ~」
「そうやってはぐらかすのはやめて欲しいんですけど!! わたしは今、草壁先輩に怒っているんですっ!」
……てっきり院瀬見の怒りと言葉は俺にくるかと思っていた。しかし、どういうわけか院瀬見の怒りの矛先は俺ではなく、わざわざ部屋に入れてくれた新葉の方に向いた。
新葉の方もまさか自分に向かってくるとは思っていなかったようで、俺が怒られる姿を余裕めいた表情で眺めていたからタチが悪いうえ、思ってもないことを言ったことで現状の原因を作り出した。
◆
――数分前。
「なぁ、俺への噂って何だ?」
「……南生徒会長さんはご自分で気づいてないくらい鈍重男子なのかもしれませんけど、霞ノ宮の女子はみんな同じ目で見ているんです。これだけ言ってもまだ分かりませんか?」
真面目に分からん。
俺が好きなのは目の前にいる院瀬見つららであって、ちょっかいを出してきた聖菜ではないのは明らかだ。
告白をしての結果は保留という名のしょうもないものだったわけだが、ソレを言い渡した院瀬見が何故ここまで怒りを露わにするのか。
それに引き換え、俺と院瀬見とのやり取りを壁に寄りかかりながらにやついている新葉は何なんだ?
ムカつくが、院瀬見と話す機会を与えてくれたから文句は言えない。
「悪い、俺にはさっぱり……」
「答えなんてすぐ目の前にあるのに!」
「へ?」
俺に怒りを思いきりぶつけてきているようで不完全燃焼な感じがあるのは何でだろうか?
「はぁ……はぁぁ~……もうっ!!」
……などと、俺の理解力の無さにため息をつく院瀬見だったが、正座で反省する俺から目を逸らし、視線を後ろの方に切り替えて新葉に文句を言い出した。
「何を余裕ぶって眺めているんですか! 原因は草壁先輩にあるのに!!」
「はへっ? あ、あたし!?」
「そうですっ!!」
◆
――といった感じで、院瀬見と新葉との妙なバトルが開始されている。
しかも新葉が言い放った、
「いやぁ、つららちゃんは気まぐれでこの子をその気にさせたんだろうけど、あたしにとっては可愛い幼馴染だから見捨てられなくてさ~」
「――は? 何ですか、それ!!」
「つららちゃんが要らないみたいだから、あたしが代わりに翔輝の面倒を見ようかな~って思ってるんだよね~」
多分本人としては冗談半分で言ったと思われるが、笑いながら誤魔化したせいでさらに院瀬見の逆鱗に触れた。
「……それが草壁先輩の本音だったんですね?」
「可愛いのは本当だし、翔輝のことを気にしてるのは事実なんだよ~」
「…………草壁先輩の言ってることはよく分かりました」
「うんうん、つららちゃんなら理解してくれると思っていたよ~」
いやいや、待て待て。理解の意味が違う気配がするぞ。
「翔輝さん」
「え、はい」
南生徒会長さんから少し好感度が戻ったか?
「わたし、帰ります。二学期が始まったら、負けるつもりはありませんので!」
「……え?」
「今日はこれで失礼します」
「お、おぉ……二学期からもよろしくな」
俺を見る院瀬見の目からは特に敵意は感じられない。だが、何かの企みが上手くいったかのような得意気な笑みを俺に見せた。
嫌われたわけじゃなさそうだが何なんだ一体。
「じゃあね、つららちゃん。怒らせちゃったみたいで反省だよ~」
「――いいえ、草壁さん。あなたのお気持ちはよく理解しましたので、今後あなたはわたしの敵です!」
「えっ!? ど、どうしちゃったの? あたしがつららちゃんの敵って……な、何の?」
……ん?
院瀬見が俺を見たってことはもしや。
「恋敵です!! ですので、先輩としてじゃなくそのつもりで呼ばせて頂きますので! それに――じきに油断も隙も生まれなくなるはずですので、幼馴染だからと安心するわけにはいかないんです! では、失礼します!!」
油断も隙も生まれない?
俺の知らぬ間に新葉の奴が院瀬見を刺激したのだろうか。
勢いよくドアを閉めるかと思いきや、静かに閉めて院瀬見は新葉の部屋から出て行った。しかもどういうわけか、新葉のことをライバルとみなしたらしい。
「いやぁ、つららちゃんの思い込みの激しさはすごいね~」
「お前も大概だけどな。一応聞くが、お前は流れてる噂のことを知ってたのか?」
「あたしと翔輝の噂のことならかなり前から流れてたよ。それこそ、あんたが初めて霞ノ宮に来た時からね」
ちっ、俺の記憶から抹消してた思い出なのに思い出させやがって。
「……どんな噂だ?」
おそらくロクなもんじゃないと思うが。
「年下の可愛い男の子があたしに夢中すぎる件」
「――あ? ふざけんなよ、おい! 大体にしてお前は俺を弟としてしか見てないだろうが! 何でそんな怪しい噂が流れてんだよ! しかも噂を放置とかありえないぞ」
まるで反省がないかのごとく、新葉は舌をぺろっと出している。
だからなのか?
いくら何でもあんな短いやり取りで院瀬見が怒るのはおかしい話だったが、放置されていた噂が生きていての怒りだったとは。
「あ~くそっ……最悪のタイミングで二学期が始まるのかよ」
俺に対しての好感度が少しだけマシになったと思ったのに、まさか幼馴染が原因で新たな勃発になるとは思わなかった。
「オッホン、オホンホン……」
「何だよ?」
「こうなったら既成事実にしとく?」
「アホか!! お前こそ後で院瀬見に謝っとけよ? そうじゃないと……」
……そういや部屋に入った時から違和感があったが、
「お前、引っ越しでもすんのか?」
「どうしてだい?」
「ごちゃごちゃしてる部屋がいやに片付いてるなと思って……七石先輩の私物も見当たらないし……」
「ふふん、それは――明日分かることだぜ!」
何を思わせぶりなことを言うんだこいつは。
そもそも七石先輩とこいつは一応同室だったはずなのに、いつからか七石先輩の私物が減って今は新葉の物ばかりになった。
芸能活動が多忙な先輩だから別の部屋に移った可能性が高いが、新葉の物まで片付いているのが謎過ぎる。
「ん~。ま、翔輝とはこれからマジでそうなってもいいかもね。そうでもしないとあの子は動きそうにないし……」
「何をぶつぶつ言ってんだ? 院瀬見の件が微妙になったからここにいても仕方がないから俺は家に帰る。だけど、明日俺に答えを教えろよ?」
「おけおけぇい! 確実に分かっちゃうんだぜ~!」




