第51話 美少女選抜大会のススメ
「あ~~疲れた~翔輝くーん! そこの冷蔵庫からミルク出しておくれ~」
「え? 何で俺が……」
「固いこと言うでない! 新葉さんは今とってもミルクを欲しているのだ~!」
新葉に連れられた先は、彼女が暮らす女子寮だった。寮といっても立派なマンションタイプで、ここにはごくごく限られた女子しか住めないのだとか。
そんな彼女の部屋に入った直後、新葉はまるで重圧から解放されたかのように途端に態度をガラッと変えた。
学校にいた時とまるで態度が違いすぎるくらいに。
「学校での新葉さんって別の人格なの? 猫かぶりっていうか」
「ノンノン! それは違うぞ。今のあたしの態度は翔輝くんの前とか、ナナちゃんの前だけだよ。あたしってばこう見えて美少女な優等生ですから! さすがに学校とかで素は見せないのさ」
その割には七石さんが現れた途端、教室であるにもかかわらず素が出ていたけど。
「どうして嘘をついてる……んですか?」
「ぷはー! 美味し!」
冷蔵庫で冷やしまくったミルクを腰に手を当てて一気飲みする新葉は、やっぱりどこかおっさんくさい。
「こらこら、何だいその疑いの眼差しは? 嘘じゃないってばー!!」
「素を出した方がもっと親しみが増すと思うんだけど……」
「今はこれでいいのっ!」
素を隠さなきゃいけない理由でもあるのか?
「ぬぅ……仕方がないなぁ。可愛い翔輝くんには特別に教えてあげよう!」
「……何を?」
「実はもうすぐ美少女選抜大会の選考が始まるのだよ。その大会で選ばれるには条件があって……それはそれはすごい厳しいものなんだよ」
美少女選抜大会?
何だそれ。
ふざけて言ってるわけじゃなさそうだけどどっちだろうか。ぶっちゃけあまり興味も無いけど、俺に聞いて欲しいのかさっきからチラ見の連続だし聞いてあげるしかなさそう。
「新葉さん。美少女選抜大会って何?」
俺には関係が無さそうだが一応聞いておこう。
「ふふ~ん! 翔輝くん、あたしを見て! あたしを!!」
そう言いながら新葉はお色気ポーズを取って、自分アピールをしている。
「目の前にいるから見てます」
「そうじゃなくて! ほらほら、あたしのことを綺麗なお姉さんって呼んでくれたでしょ? しか~し別の言い方も出来るじゃない?」
よっぽど俺の口から言われたいようで、前のめりになって答えを待っている。
「――美少女?」
「正っ解!! なでなでしてあげる~」
「い、いいってば!」
「よぉしよしよしよしよし!」
抱きしめられることがこんなにも苦痛だとは。
てっきり頭を撫でられるだけかと思っていたのに、新葉は俺を引き寄せて力一杯に俺を抱きしめてきた。
このままでは新葉の胸で窒息死するおそれがある――ということで、手を伸ばして突き飛ばしを実行する。
「こらこら、お姉さんはそこまで下心に寛容じゃないぞ? 少なくとも翔輝くんからあちこち触られるのは許してないんだな~」
「そうじゃなくて、俺を解放してくださいっ!!」
「おおぅ!?」
ようやく気づいてくれたようで、新葉は俺を離してくれた。
それにしたって正直言って愛情の注ぎ方が間違っているとしか思えないんだが?
別に狙って触ろうとしたわけじゃないし、勘違いされても困る。
「それよりも、美少女選抜大会が新葉さんの態度と何か関係が?」
「うむっ! 霞ノ宮は翔輝くんが気づいたように綺麗な女の子が多くいるんだよ。あたしの友だちのナナちゃんもその一人! それでね――」
――かなり説明が長かったが、簡単に言えば全国の女子高で美少女を選抜する大会らしい。
全国と言ってもどこかに集まって決めるものじゃなく、学校近くのショッピングモール――このエリアだとるるポートになる。そこでステージショーのようなものでお披露目して、人気投票で集計した結果を元にネット投票で決定するのだとか。
全国とはいえ全ての学校ということじゃなく、私立とか校則が比較的緩やかな女子校や芸能部がある学校が対象になっているようだ。
「優勝すると何かもらえる……とか?」
「ん~? それは学校によるんだけど、うちの学校はタレントマネジメントをしてるからそれのサポートを受けられるのだ~」
俺が通う古根は至って普通の男子高だが、隣に位置する霞ノ宮はお嬢様学校のようなものなうえ、タレント養成スクールに近いことをしていると聞いている。
「サポートって具体的には?」
「ここに住める! 食べるのに苦労しない! 実家に戻らなくていい!!」
「……だから美少女選抜大会に出たってこと?」
「それだけじゃないけど~……実はまだ迷っているのだよ。あたしが優勝出来るのかなって……。なんたってライバルは身近にいるからね」
同じ学校からも何人か参加するってことだろうか。しかしこんなに愉快な幼馴染が弱気になるほど厳しい大会だなんて。
再会したばかりの幼馴染に俺が気安く言葉をかけていいのか迷うが、
「新葉さんなら大丈夫だと思うよ。実際、綺麗だし」
「えう?」
「それに、別に優勝じゃなくても準優勝でもいいんじゃないかな。気持ちの問題かもだけど、俺は新葉さんの綺麗さを大会関係者に勧めてやりたいって思ったよ」
「そ、そうかい?」
「別に幼馴染びいきじゃなくて本心だから、気落ちする必要なんて――」
おっと、調子に乗っていいすぎたか?
「翔輝くんの気持ちは分かった!」
「……うん」
落ち込みそうなタイプじゃないが、迷っている新葉はらしくないしここは元気づけてあげなければ。
「それなら! 優勝だろうと準優勝だろうと、あたしは翔輝くんを思いきり可愛がることを約束してあげようじゃないか!」
「――はっ?」




