第49話 思い出に浸って過去に戻る!?
二学期が始まるまで一週間を切ったこの日――俺は幼馴染の新葉によって取り調べを受けていた。
新葉は今にもはちきれんばかりの胸をわざと俺に見せつけ、足を組んで無駄な色気を出しながら俺を睨みつけている。
「フラれた理由を聞かせてもらおうじゃないか!」
……などと、新葉は駄菓子屋でゲットしたらしいココアシガレットを口に咥え、おっさんのような仕草を見せつけて怒り心頭状態だ。
「理由は俺にじゃなくて、つららに――」
「シャーラップ!! シャー!」
「猫か、お前は」
夏休み終盤に男子棟と女子棟を結ぶ渡り廊下がつながり、俺と院瀬見はお互いの気持ちを口にした。
だが結果は俺の惨敗。
いや、正確には予想よりも手強い奴だったと言うべきか。甘えを見せてきた院瀬見をその部分だけで判断した俺の油断に尽きる。
嫌われているわけではなかったものの、単なる告白では足りないし全てを受け入れてくれないと駄目です――というのが院瀬見の答えだった。
俺と院瀬見が上手くいくことを確信していた新葉は俺の報告の直後、どこからか持ってきた椅子に座って説教を始めた。
「はぁ~……あたしは悲しいよ。絶対に上手くいくと確信していたからこそ素直に引いてやったというのに……どうしてこうなった!?」
「知らん!」
七石先輩がいてくれたらこいつにここまで言われることは無かったし、そもそもフラれたわけでもないのに何でこんなに言われなきゃならないのか。
元をただせばいつもこれと一緒にいたのが原因なのでは?
七石先輩しかり、草壁新葉しかり……。美少女慣れしすぎたからこその恋愛下手につながったのではないだろうか。
「どうもこうも、お前が無駄に綺麗すぎるからこうなったんだぞ! 自覚しろよ!」
「――ほぅ……ほほぅ? つららちゃんという子がいながら、まだあたしのことが気になるというのかね?」
ちっ、変なスイッチが入ったな。
「このままではついつい思い出してしまうじゃないか。一年前あたしが言われたあの言葉を! あぁ、あたしってば何て罪深い女なの!!」
変なキャラになってしまったが、こんなでもれっきとした幼馴染だ。
しかし年がら年中一緒にいたわけじゃなく、俺が高校に上がるまでは疎遠だったと言っていい。
高校に上がっても別学だったから特に顔を合わせることもなく気楽だった。それだけに嬉しさのあまり気を許して、俺から新葉にしょっちゅう会いに行っていた。
今思えば、それがきっかけだったかもしれない。今はただの惜しい幼馴染に成り下がっているが、一年前はそうじゃなかったことを思い出す。
「忘れていいぞ、昔のことなんて」
「おっと、そうはいかねえぜ! あたしにとってはとても大事なことだったんだよ?」
「本当か?」
「そんなわけだから、一年前にタイムスリップしちゃおうじゃないか!」
「過去に行くのは無理だから思い出話として聞いてやるよ」
院瀬見との関係をどうにかする前に、まずは幼馴染のこいつの問題を何とかしないと駄目だな。
「よしよし。新葉さんが翔輝の心の友になってやろうじゃないか!」




