天使のような死神は、今日も愚か者を狩っています。
夏休みに仲の良い友達と海水浴に行ったときの話し。
毎日うだるような暑さが続く昼下がり、友人の青木から「明日、海に行かね」と連絡がきた。「うん、好いね。それじゃ古森も誘われね」青木「あいつ面白いから連れて行こう」と云うことでいつもの神社に9時集合することに。
青木は体育が得意でクラスでもリーダー的な存在、青木は何時もダジャレを言っては皆を笑わせているムードメーカー、そして私はと云うと例えるなら雇われ社長?みんなが手を上げているから釣られて手を上げたら、みんなは一斉に手を下げていて気が付いたら学級委員に選ばれていた。
『浜辺のひと時』
翌朝、ぼくら三人は神社に自転車を置いて海水浴場へ歩いて行った。
海水浴場に着くと、青木くんの親戚がやっている海の家に立ち寄ると、店の奥から叔母さんが表れて「なに、今日は友達を連れてきたのかよ」そう言うと、おもむろに冷蔵庫からコーラを三本取り出して「ほら、コーラでも飲んでいき」とテーブルに並べた。気前の良い叔母さんだ「いただきます」僕らはコーラを飲み干すと、海水浴場を仕切る浮きのついたロープ沿いに泳ぎだした。
僕は泳ぎがあまり得意ではなかったので、ロープに摑まりながら20メートルほど沖へ歩いて行った。砂浜の海水浴場と言っても少し沖へ行っただけで砂利になっていて、水泳用のゴーグルを通して水中を見渡すと海底を小魚が泳いでいるのを見ることが出来た。
『出会ってしまった』
海中を観るのに夢中になりいつの間にか足の届かない沖まで来ていた、これはヤバイ少し岸に戻ろうと海水浴場のロープに手を掛けようとしたとき波にさらわれてしまった。急いで海水浴場へ戻ろうと海中でもがいていると、「だいじょうぶ」と云う声が聞こえるて誰かが僕の手をつかみ海水浴場へと連れて行ってくれた。誰なんだ助けてくれたに礼を言おうと振り向くと、同い年ぐらいの髪の長い少女だった。
『お礼』
彼女は近くに住んでいて良くこの海水浴場にも遊びに来ているとか。
今日も遊びに来ていて、近くで僕が溺れかけているのを観てすぐに助けに来てくれたらし。僕は「さっきは僕を助けてくれてありがとう」と言おうと振り向くと、彼女は澄んだ瑠璃色の瞳で僕の目を見つめて「助けただなんて」そう言うと恥ずかしそうにうつむいた。なんて可愛い仕草なんだ、ヤバイ惚れてしまうではないか「君は命の恩人だよ一生忘れないよ」と云うと、彼女は僕の手を取り砂浜より少し高い場所にある公園のベンチへと連れて行った。
『気が付けば』
僕たちはベンチに並んで座り海を眺めていると、大きな打ち上げ花火がドーン!バチバチバチと大輪の花を咲かせていた。
いつの間にか日が落ちてすっかり暗くなっていたことに気付いた。
そうだ、青木と小森が海の家で僕の帰りを待っているはず、彼女に「あの、悪いけど、友達が海の家で待っているから僕はこの辺で帰るよ。必ず連絡するからまた会おう」彼女にそう告げると、彼女は奇異な顔をして僕に「帰る、何処へ」話が聴こえていないのだろうか「だから、友達が待っている海の家に」すると、彼女は真剣な眼差で「はぁ、あんた帰れないわよ。周りをよく見てみて」彼女が小ばかにしたように言うので周りを見渡すと、真夏の海水浴場だったのに海の家も海水浴で遊んでいる人達もいない。
『天使は死神の裏返し』
彼女はいったい何を言っているんだ、まるで狐につままれていうるような気がした「えっ!どういうこと」戸惑っている僕を観て、彼女は両手を上に押し上げるように背伸びをして「あーッと、分からないみたいだから教えて上げるね」白いワンピースの裾を広げるようにクルッと回り僕の顔を覗くようにして「君はね、溺れて死んだの」そんな馬鹿な、現にいま僕はこうしているではないか。もしかして、こいつ僕をからかっているのか。
苛立ちを隠せず「死んだ、僕はこうして君の前にいるじゃないか」と彼女に詰め寄ると、彼女は笑いをこらえるような仕草で「私が助けたのは君の魂さ。君の体は三日後にテトラポットの隙間に浮いているのを発見されて、すでに葬儀も済んでいるわよ」尚も留めを刺すように彼女は「あ、そうそう、君のご両親のことだけど、君が亡くなったあと一悶着あってね、離婚してた後は別々の人生を全うしたから安心して」ちょっとおいおい!
こいつは何を言っているんだ。と云うことは僕は死んだのか、両親が離婚って安心してってできるか「なんだよ今の話、僕を元居た世界に返してくれ」こいつ、物わかりの悪い奴だな、と云う顔して「まだ分からない、君の帰る道なんて何処にも無いの。君の両親も友達もみーんな、とっくの昔に亡くなっているの」僕は彼女の両肩をつかみ「それじゃ教えてくれ、僕はこれからどうなるんだ」
彼女は僕の両手を振りほどき、僕の体を両手で抱きしめ耳元で「諦めて、君の魂は私の獲物、この海は私の魂の狩場なの」そう囁くと彼の魂を一飲みして、彼女は深い深い海の底へと消えていった。