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第9話 帰還

 王城に一緒に付いてきたメイド長と数名は城に残り、私と私の付き人は馬車に乗って王都の別邸に一度戻った。その後、直ぐに準備をして本邸へと帰路に就いた。まだ日は高いが、戻る頃には夕方位になっているだろう。帰り道は王都に来る時に護衛をしてくれた騎士達と、一緒に来た彼女達とは別の三人のメイドに守られ、帰り道を辿っていった。馬車の中では私に気を遣ってか、メイド達は静かにしていてくれた。それでも、少しばかり緊張感の様な、ピリピリとした感じの空気が流れている。静かなら静かで嬉しかったのだが、この空気が悪いのは気になる。仕方がないとはいえど……。

「(また暇な時間がー……。)」

(一言言っておくけど、その姿の状態で動かないでよ。)

「(えぇー……。)」

 ゼクラスは退屈そうに文句を言い続け、私はそんなゼクラスに呆れていた。今度はペンダントに姿を変えてしまったせいで、来た時みたいにウロウロと出来ない。何処かで元に戻れれば良かったが、そんな時間もなかったし。ま、そんな姿になってでも私に付いて来ようとしたんだし、ある意味自業自得ということだろう。

「フアァ……。」

私は小さく欠伸をしてしまった。私は私でようやく一息落ち着いたからなのか、ドッと疲れと眠気が突然襲って来た。そっとメイド達を見ると、私の方を見て微笑んでいた。私はそれを見て何だか安心し、更に強まる眠気に瞼が重くなり始める。私はその重さに任せて目を瞑り、そのまま馬車の座席に身体を預け、静かに眠りに入った。


……


「……様。お嬢様。」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえ、私はそっと目を開けた。霞んだ目を擦り、起こしてくれたメイドへ顔を向けた。

「おはようございます、お嬢様。もうじきお屋敷に到着致します。」

メイドはそう言って微笑んだ。私はいつの間にか横たわって寝ていた様で、身体を起こして身体を伸ばした。そして、馬車の外へ目を向けた。馬車は大通りをゆっくりと進み、私が住む街が良く見えた。外は夕暮れ時になって暗くなり始めており、街の街灯が灯りを灯していた。それでも街は、昼時の様に賑やかで活気に溢れている。通り過ぎる人達皆、笑顔で楽しそうにしている。私はそれを見て、心の底からある想いが込み上がってきた。

(あぁ、本当にとんでもない事をしでかしたなぁ……。)

 私は王城での出来事を思い返してしまった。ベルドラルド様に……。いや、もうこの際、あの王子に様なんて付けなくても良いだろう。……暴言王子とでも呼ぼうかな。

「(不敬罪の上乗せですよ。)」

ゼクラスがそうツッコミを入れてきた。私は溜息を吐きたくなったが、それを我慢して窓に膝を当てて頬杖を付いた。

(別に、聞かれていないなら良いでしょ。どうせ、二度と会う事もないだろうし。)

「(まだ怒ってます?)」

(当然。)

 私はイライラを隠しながら、外を歩く人達を眺めた。街の人達は本当に楽しそうで、皆幸せそうに感じる。あんな事を仕出かさなければ、私もお父様やお母様、お兄様達と一緒に守っていけた筈なのに。そう考えていると、余計にあの暴言王子に対しても、手を出してしまった私にもイライラしてしまう。けど、やってしまった事を変える事は出来ない。これからの処罰を、ゆっくりとその時が来るまで待たなければならない。

「……あっ。」

外を眺めていると、私と同じ位の歳の子供達の集団が見えた。その中の一人の少女が、馬車に乗っている私に気が付いた。すると、その子は私に向けて手を大きく振ってきた。周りに居た子供達もそれに気付き、私へ手を振ってきた。私は頬杖を止めて、その子達へ微笑みながら手を振り返した。子供達は私が返してくれた事に喜んだ様で、満面の笑みを浮かべて更に大きく手を振ってきた。それを見ていると私のイライラが収まり始め、気持ちも落ち着いてきた。私は微笑みながら、子供達が見えなくなるまで手を振り続けた。

「(これから、どうしようかな……?)」

私は無意識に、ボソッとそう一言を言った。やがて子供達が見えなくなり、私は手を振るのを止めて姿勢を正した。メイド達に向き直すと、皆心配そうな表情をしていた。

「お嬢様……。」

一人のメイドが、消え入りそうな声を出した。私は彼女達に、

「大丈夫よ。皆には少し迷惑を掛けるけど、私が仕出かした事はちゃんと責任は取るから。」

そう微笑み掛けて安心させようとした。けど、彼女達の表情は暗いままだった。なんとも言えない空気が、私達の間に流れていく。私は気まずさのあまり、作り笑顔を崩さないまま外を眺め続けた。

 暫く馬車に揺られ、ようやく我が家の前まで辿り着いた。襲撃やら婚約話やらで慌ただしかったせいもあり、三日程経っている筈なのに日帰りで帰ってきた気分だ。馬車が屋敷の門の前で止まると、門番が慌てた様子で出てきた。そして直ぐに、

<キィー……>

という音が鳴りながら、門がゆっくりと開き始める。門が開き切ると、馬車が再び動き出して玄関へと進んで行った。私は屋敷の庭園を眺めながら、玄関まで辿り着くのを待っていた。

 するとその時、外に居る騎士達がざわつき始めたのが聞こえた。馬車に乗る私とメイド達は、不思議そうに顔を見合わせた。私は馬車の窓を開けて、窓から顔を出して玄関の方へ向いた。そこには見覚えのある乗り物が、二匹の馬に牽かれて玄関の前に止まっていた。その乗り物の形状は私が乗っている馬車とは大きく違い、雨風を凌ぐ天井も壁はなく、頑丈そうで大きな二つの車輪が付いている。その特徴的な乗り物は、明らかに普通の客人が乗ってきた様ではない。すると、

「(はえ~。もしかしてあれ、チャリオットですか?初めて見ましたよ。)」

ゼクラスがチャリオットを見て、驚きながら言った。外を歩く騎士達も、驚きと困惑の声が出ている。

「もしかして!」

 私はあのチャリオットと騎士達の様子を見て、誰が来たのか分かった気がした。私は直ぐに馬車の中へ戻り、到着を心待ちにしていた。すると、メイドの一人が開けた窓から、私と同じ様に玄関の方へ顔を出した。しかし、直ぐに顔を戻して慌てていた。そして、他のメイド達へ耳打ちをして伝えると、他のメイド達も慌ただしくなった。そして、一人が私の方へ声を掛けてきた。

「お、お嬢様。もしかして、あのチャリオットは……。」

そう、困惑した声で問い掛けてくる。私とのテンションに大きく差が出ている。私は微笑みながら、

「うん。きっとそうだよ。」

私がそう言うとメイド達も慌ただしくなり、既に整っている服装を正していた。私はそれを見て、可笑しさのあまり笑ってしまった。

「(お知り合いでも来たんですか?)」

(知り合いじゃなくて、もっと親しい人だよ)

ゼクラスは不思議そうに、私の事を見ている気がした。当の私は、早く会いたいという気持ちが高鳴っていた。

 そうして直ぐに、玄関の前へ馬車が止まった。私はメイドに馬車の扉を開く前に、自分で扉を開いて出た。馬車を降りて、ドレスで転ばない様に早足でチャリオットの傍を通る。すると、チャリオットに繋がれている二匹の馬が、近付く私に気が付いた。その途端、二匹が尻尾を高く振り、その場で足音を出しながら足踏みをし始めた。更に近付くと、首を私に伸ばしてきた。私が両手を馬の口元に差し出すと、それぞれ手の匂いを嗅いで舐め始めた。私はそのまま、二匹の馬を撫で始めた。

「久しぶりだね。」

二匹は嬉しそうに、私の手や顔に擦り寄ってきた。整えられた毛並みは気持ち良く、いつまでも触っていたい程だった。けれど、私はそれを我慢して、

「ゴメンね。また後で会いに来るから。」

そう言って、二匹の顔に自分の顔を摺り寄せた。気持ちの良い毛並みを堪能したかったが、直に離れて二匹に小さく手を振って玄関の方へ歩いていった。そして、勢い良く玄関の扉を開いた。

 ロビーに入ると、いつもと違って慌ただしく賑やかになっていた。お母様もお兄様達も、使用人達も、大勢がこのロビーに居た。その賑わいを起こしている大柄で白髪の人物が、ロビーの中央で笑って立っていた。私はその人に向けて走り出した。

「お爺様!!」

 私がそう呼ぶと、お爺様は私の方へ向いた。

「おぉ!ミリア!!」

お爺様は私に気が付くと、両手を広げて屈んだ。私は勢いのまま、お爺様の胸に飛び込んだ。お爺様は私を受け止めてくれて、そのまま軽々と抱き上げた。

「随分と大きくなったなぁ、ミリア。」

そう言って、お爺様は私の頭を撫でてくれた。私はお爺様に会えた事を喜びつつも、お爺様に問い掛けた。

「お爺様、どうして今日はこちらにいらっしゃったんですか?」

そう聞くと、お爺様は真剣な眼差しへと変わった。私はそれを見て、少しだけ変な予感を感じた。お爺様は真剣な眼差しを変えないまま話し始めた。

「当然であろう。私の大切な孫娘が、盗賊に襲われたと聞いたのだ。それを駆け付けぬ者が居るであろうか?」

「お爺様……。」

「ミリア、本当に無事で良かったぞ。」

お爺様はそう微笑み、私を抱き締めた。私は抱き締められながら、回りを見渡した。お母様達や使用人達も、ホッと安心した表情を浮かべ、中には涙を流す人達も居た。

「ありがとうございます。それと、心配を掛けてごめんなさい。」

私はそう言い、目を瞑ってお爺様に抱き返した。お爺様は静かに、優しく私の頭を撫でた。鍛え上げられてゴツゴツした手が、心地好く気持ちが良い。私はその感触を味わっていると、お爺様は撫でるのを止めた。私は目を開けようと思ったその時、お爺様が話し始めた。

「それに、私の可愛い可愛いミリアが、何処の馬の骨も分からぬ狼藉者と結婚するなど、そんな知らせを聞いたら阻止すべく駆け付けるしかなかろう!」

 ……私はお爺様が何を言ったのか、一瞬理解出来なかった。いや、何かとんでもない事を言ったのは分かった。私はそっと目を開け、お爺様の後ろに居るお母様の顔を見た。お母様の表情は先程と違い、ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。ついでに、ヨルネスお兄様も……。私の婚約相手が誰だったかは、お爺様には伝わっている筈だろう。私はお爺様から離れ、お爺様の顔に目を向けた。こちらもいつの間にか、満面の笑顔に変わっていた。使用人達に目を向けると表情は笑顔のままではあるも、先程まで喜びの空気はなくなっている。事情を知らぬ人が見れば、微笑ましい光景かもしれない。けれど、ピリピリとした雰囲気に包まれているのは確かだ。唯一、この空気の中で平静を保っているのは、お爺様達に呆れているバルドお兄様だけだ。

「(ミリアさんのご家族って、癖がよく似てますよね。笑って怒る所が。)」

 ゼクラスがそう語りかけてきた。確かにこの光景を見ていると、その癖はお母様やお爺様の遺伝としか思えない。何とも言えない空気の中で、私は咳払いをした。

「その件についてですが、色々とありまして……。詳しくご説明をしたいのですが、この場ではなくて人払いの済んだ静かな場所でお話をしたいのです。――それと、王都から帰ってきたばかりでお腹も空きましたし、お着替えも致したいのです。お爺様も一緒にお食事を致しますよね?」

 私はこの空気を取り払う様に、笑顔を作って話した。お爺様は嬉しそうに、

「あぁ、一緒に食べよう!ミリアの誕生日に来れなかったし、今日は盛大に食事をしようではないか!!」

と大きな声で言った。私はそっと、使用人達の方を見た。使用人達は平静を保っている様だが、小さく手を動かして慌てている。流石に色々といきなりだ。そんな準備は出来ていないだろう。私はそう考え、皆の負担にならない様に返事をした。

「お爺様。今日は私も疲れていて、普通のお食事が良いですわ。私のお祝いはまたの機会に致しませんか?」

「……う、うむ。それなら仕方がない。また近い内に祝おう。」

お爺様は残念そうに言いながら私を下ろした。

「それでは、お着替えをして参ります。また後程。」

 私は少し後ろに下がり、お爺様達に軽く一礼をした。お爺様達は私に微笑みかけ、使用人達は一礼を返してくれた。私は自分の部屋に向けて歩き出そうとすると、

「お嬢様、お着替えのお手伝いを致します。」

と、二人のメイドが近付いてきた。

「お願いするわ。」

私は微笑みながら言い、二人のメイドは静かに会釈をした。そして部屋に向けて歩き出した。その途端、ロビーは再び慌ただしくなった。私はそれを横目で見届けながら、二人のメイドとヨルネスお兄様と共に部屋へと向かった。

「……」

 何かおかしいのが混ざっていた気がする。私はそっと横を見ると、メイドの隣にヨルネスお兄様が付いてきていた。ヨルネスお兄様の表情は、この上なく満面の笑みを浮かべいる。一言も喋っていないが、「僕も一緒に行くのは当然です。」なんて言っているのが、その表情だけで伝わってくる。私は前を向き、咳払いをした。そして、

「バルドお兄様。」

「――ッ!ミリアー……」

私がバルドお兄様の名前を呼んだ途端、後ろからヨルネスお兄様の悲しげな声が聞こえてきた。一言も言ってはいないが、きっとバルドお兄様が捕まえてくれたのだろう。ヨルネスお兄様のあのシスコンは、いずれどうにかしなくてはいけない。私はヨルネスお兄様の方を振り返らず、その場から早足で去っていった。

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