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第5話 一難去ってまた多難

 目を覚ますと、見覚えのないベットの天蓋が目に映った。私は怠い身体を起こし、頭がクラクラしながらも周りを見渡した。周りはかなり華やかで、豪華そうな家具が揃えられている。見覚えがない部屋の様に思えたが、徐々に頭がスッキリとして、なんとなくここが何処だか分かった気がした。そして、自分の身に起きた事を思い出した。

(あれ?確か……。)

うろ覚えの記憶を辿っていると、

「おや、目を覚ましましたか。」

 ゼクラスがピョンと視界に飛んできて、私の顔の前に立った。

「ここは?」

「さあ?どこかの立派なお屋敷なのは分かりますけど。」

私はゼクラスを手で払い除け、ゆっくりとベットから立ち上がった。そして、ベランダの方へと歩いていく。外の眩しい日差しを手で遮りながら、外の光景を目にした。屋敷の下は整えられた庭園が広がり、遠くには大きな街と城が見えた。そこで、ようやくここが何処だか確信した。

「ここ、王都だ。王都の私達の屋敷だ。」

 私はベランダの手すりに手を置き、王都の綺麗な光景を見渡した。どうやらあの後、王都のこの屋敷まで連れて来られた様だ。静かにその光景を眺めていると、私はハッとして大事な事を思い出した。

「って!!そんな事より、あのメイド達や騎士達はどうなったの!!」

 私はベランダから離れ、のんびりと浮かんでいるゼクラスに迫った。ゼクラスは淡々と答えた。

「無事ですよ、皆さん。騎士達も、あの死にかけたメイドも。まあ流石にあのメイドさんは、あの後ずっと部屋で休み続けてますけど。」

「そう……、良かった……。」

私は安心し、力を抜いてベットに仰向けで倒れ込んだ。ゼクラスは私の顔近くまで飛び、

「ちなみになんですけど、ミリアさん。貴方は三日ほど寝続けてましたよ。」

と、呑気に言った。私は少しイラっとし、嫌みっぽく、

「アンタが現れてから、沢山睡眠が取れていて嬉しいねー?」

そう睨んでいった。しかし、ゼクラスは満面の笑みを浮かべた。そして、照れている様に頭を手で掻いた。

「いや~、そう褒めなく――」

<ムギィー!>

 ゼクラスの言葉に、私のイラつきが限界を迎え、身体を起こして全力でゼクラスの頬を引っ張った。

「褒めてなーい!!」

いひゃーい(イターイ)!!」

グリグリと頬を回し、更に引っ張って離した。

<パチンっ!>

という音が鳴り、ゼクラスの頬が赤くなる。ゼクラスはベットの上に落ち、そのまま頬を押さえて寝転んだ。私は呆れながら、ゼクラスの隣に倒れ込んだ。そして目を瞑り、あの日の事を思い出した。

「全く、あの盗賊達のせいで、またアンタと契約する羽目になるとは。」

 私は溜め息を突きながら、目を開けてゼクラスを見た。確かに、ゼクラスが居なければ誰も助からなかっただろうけど、契約はしたくなかった。

「僕は全然構わないんですよ?」

ゼクラスは肘枕をして、私の方を向いた。その表情は、今すぐデコピンを喰らわせてやりたい位ウザい。……だけど、ゼクラスと付き合うのもここまで。一時の契約だけでも満足しただろうし、私の目の前から消えてくれる。

「それより、約束通り契約を解除しなさい。」

「……」

 ゼクラスは静かになり、肘枕をした体勢のまま浮かび上がる。そして、今の言葉が聞こえていないかの様に、私から視線を逸らしていった。その様子はもう、明らかに逃げようとしているのが分かる。私は身体を起こし、ゆっくりと静かに、ゼクラスに迫った。

「いやー、良い天気ですねー……?」

ゼクラスはチラッとこちらを見て、作り笑いを浮かべていた。私はニコニコと笑顔を見せ、ゼクラスに顔を近付けた。

「ゼ~ク~ラ~ス~?……まさか、約束を破るつもりじゃないでしょうね?」

私は低く、優しい口調で怒った。ゼクラスは、

「ハ、ハハッ……。そんな訳……ないじゃないですか……ね?」

そう困った声で返事し、私から離れようとゆっくりと飛んでいく。私は逃がそうとせず、ゼクラスを捕まえた。

「じゃあ、さっさと契約を破棄しなさいよ?」

「え、えぇ。流石の僕も、約束は守ろうと思いましたよ?……ただ……。」

ゼクラスは途中で言葉を詰まらせた。私は更に問い詰めた。

「何かしら?気が変わったとかじゃないよね?」

「あ、あのですね。その……。」

ゼクラスは困った顔を浮かべ、静かに黙った。私はゼクラスが喋るまで、ゼクラスを強く握り締めていた。そして、少し時間が経ち、ゼクラスは重い口を開いた。

「……………契約解除の仕方、僕知らないんですよね。アハハ……。」

 その言葉が聞こえた途端、頭の思考が停止し、私の中の時間が止まった。外から聞こえてくる鳥のさえずりが、私の耳に響く程、辺りに静寂とした空気が流れる。私はもう一度、ゼクラスに聞いた。

「ちょ、ちょっと?もう一度、もう一度だけ今の言葉を言って?」

「(契約解除の仕方が分かりません!)」

ゼクラスは小声で、しかも早口で言った。私は少しずつ思考を再起動させ、ゼクラスの言葉を頭の中で反芻させた。言葉の理解が出来た時、私はワナワナと怒りが満ちてきた。

「ア、アンタ。今までの契約者達と、どうやって契約解除していたのさ?セルフィーネやジョニー達と。アンタの身体の事でしょ!?」

ゼクラスの身体を握り締め、ゼクラスに詰め寄った。ゼクラスは諦めたかの様に、話し始めた。

「いえ、彼等とは契約解除していた訳ではなく、契約を『上書き』していただけなんですよ。前の契約者を登録したままにして、新しい契約者が出来たら登録を上書きして……。だから、契約を解除した事がないんです。――一度たりとも。」

「……」

 私の頭が眩み、呆れて言葉が出なかった。呆れすぎて力が抜け、ゼクラスを手放してベットに倒れ込んだ。つまり、コイツと契約を解除するには、別の契約者を見付けないといけない。そういう事なのか……。

(まさか……。まさかこんな事になるなんて……。)

私は両腕を顔の前に持ってきて、頭を抱えた。最早これは、また騙されたと言っても過言ではない。いくら非常事態とはいえ、いくら皆を救う為とはいえ、容易に契約したのは私とはいえ、まさかこんな事になるなんて……。

(詐欺師に騙された気分…………。いや、アレは詐欺師ではあるか。)

 ふと、前世の契約した時の事を思い出し、頭が不思議とスッキリとし始めた。両腕をベットの上に降ろすと、ゼクラスが私の目の前に来た。その様子は、どことなく申し訳なさそうにして、私の様子を見ていた。私が無言で睨んでいると、ゼクラス何か諦めたかの様に胸を張った。そして、胸に手を置き、

「もうこうなったら仕方がありません!我々はこれより、再び運命共同体としてやって――」

<ムギィー!>

「この大馬鹿野郎!!!」

ごめんにゃひゃーい(ごめんなさーい)!!!」

ゼクラスの頬をこれでもかという位、思いっきり引っ張り上げた。全ての怒りを、この馬鹿ゼクラスにぶつけようと……。するとその時、

<コンコン>

「「ッ!」」

「ミリアリスお嬢様?お目覚めでしょうか?」

 ゼクラスを鷲掴みにし、ベットへと慌てて戻る。布団の中にゼクラスを隠した。

「え、ええ。起きているわ。」

「失礼いたします。」

そう言って、初老のメイド長と数人のメイドが入ってきた。あのメイド長は確か、ここの屋敷の管理を任されている人だった筈。

「ミリアリスお嬢様、ご気分はいかがでしょうか?」

「だ、大丈夫よ。」

「そうですか。先程、何か叫び声みたいな声が聞こえてましたが。」

メイド長は心配そうに私の元へと歩いてきた。

(あれだけ騒いでたら、当然聞こえているよね。)

「えっと……、ちょっと嫌な夢を見ていたから……。」

そう、苦し紛れの言い訳を言った。すると、

「お嬢様、もう大丈夫で御座います。」

メイド長は同情する様に、私の手を握り締めて言ってくれた。

「えぇ、分かっているわ。」

私は笑顔でそう返し、メイド長の手を握り返した。メイド長は少し驚いた表情を浮かべたが、直ぐに微笑み返してくれた。後ろで並んでいたメイド達も一安心したか、笑ったり泣いたりし始めた。その光景は、なんだか見覚えがある気がした。

 皆が落ち着き始めた頃、私は大切な事を思い出して、メイド長に聞いた。

「あの、お父様はいらっしゃる?私に用事があるって聞いているのだけど?」

そう聞くと、メイド長は静かになって考えこみ、口を開いて話し始めた。

「旦那様は今、王城にいらっしゃいます。仕事が立て込んでおり、ご帰宅は数日後になる予定で御座います。ご用件はお手紙に書かれていた筈ですが、お聞きになされていないのですか?」

私は首を横に振る。すると、少し困った表情を浮かべ、

「もしかして、奥様がお怒りの余りに伝え忘れてしまわれたのでしょうか?」

「あぁ……。」

やはり、あの時のお母様は怒っていた様だ。メイド長は私の様子を見て察してくれた。

「どうしましょうか……。旦那様から、お嬢様の体調が戻り次第、急ぎで王城の方へお越し頂くようにお願いされているのです。ご用件の方は……私めの口から申し上げてもよいのでしょうか……?」

メイド長はそう言って悩んでいた。私は、

「言って良いよ。私も気になっていたから。」

そう言うと、メイド長は息を飲み込んで、意を決した様に話し始めた。

「実は旦那様がお嬢様に、『婚約』のお話をお持ちになられたのです。」

 それを聞いて頭の中が真っ白になり、静寂が訪れた。私はもう一度、聞き間違いだと思いながら、メイド長が何を言ったのか聞いた。

「ごめん。今……何て言ったの?」

「はい。お嬢様の『婚約』のお話です。」

やはり、聞き間違いではなかった。私は頭に人差し指を置き、頭の整理をしようとした。

(婚約って何?まだ成人も迎えてないんだけど!?)

そう悩んでいると、

「(おや、おめでた話じゃないですか。)」

(ゼクラスは黙ってて!)

 いや確かに、貴族ならこの年齢で婚約自体はおかしくはない。とはいえ、先日に誕生日を迎えて十歳になったばかりだ。この短い期間に色々と起きてばかりだし。……いや、その原因はゼクラスのせいなのだが。

「ちなみに、お相手はどなた?」

「お相手様はラザベルト第一王子、『ベルドラルド・オウル・ラザベルト』様で御座います。」

「…………はっ?」

 私は驚きと困惑で頭が一杯になり、布団の上に突っ伏して頭を抱えてしまった。まさか、婚約自体驚きなのに、その相手が王族……。それに何故、そんな人との婚約の話が出てくるんだ?確かに私は貴族だし、年齢は近かった筈だけど、そんな会った事がない相手といきなり婚約だなんて……。

「お嬢様、いかがしましょうか?」

「……」

そう聞かれたが、婚約を拒否する事は出来ないだろう。というか、したらヤバい気がする。……ここで悩んでいても仕方がない。

「ハァ……、行くわ。行くしかないもの。」

 私は覚悟を決めて身体を起こし、ゆっくりとベットから降りて立ち上がった。

「お嬢様、今からですか?まだ病み上がりですので、もう少しお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか?」

「いいえ、今から行くわ。どうせ休んでも、いずれは行かないといけないもの。行くのを伸ばしても、余計に行きたくなくなる気がするし。……それに、ちょっとお父様とお話をしたいですし?」

 私はそう微笑みながら言った。何故か、メイド長も周りのメイド達も、引きつった笑顔を見せていた気がしたけど、きっと気のせいだ。

「(怖っ。)」

ゼクラスがそう言い、私はベットの方へ顔を向けた。ゼクラスは布団の隙間からこちらを見ていた。私はゼクラスを、表情を変えずに見つめながら、

(ゼクラス、アンタも終わり次第、お話をしましょうね?)

そう静かに頭で語った。ゼクラスは怯えた様に、布団の中へと戻っていった。私はそれを見届け、再び前へと向き直した。

「さあ、行くわよ!王城へ!!」

 私は大きな声で言った。周りのメイド達は驚いていたが、メイド長は真剣な表情へと変えた。そして、

「お食事は馬車にてご用意致します。――では、皆さん。」

<パンッ!>

 メイド長が手を叩いた瞬間、メイド達は一斉に動き始めた。皆の表情は、先程と違って真剣な眼差しをしていた。すると、私の元にも三人のメイドが来た。そして、

「お嬢様、お風呂へ行きましょう。」

そう言いって、私をお風呂に連れて行かれ、湯船で休まる事無く全身を洗われた。魔法を使って身体を乾かし、直ぐに部屋へと戻ってくると、様々なドレスやアクセサリーが用意されていた。そして、

「お嬢様にはこちらのドレスの方がいいのでは?」

「では、メイクは……」

「お嬢様、髪のセットをさせて……」

「……」

 メイド達は続々と私を着付け始め、一瞬で着替えが終わった。鏡で私の姿を見てみると、いつもとは違って上品な感じになっていた。前世の時は、こんなお洒落とかやる暇がなかったけれど、実際にここまでしてもらうと、少し恥ずかしさがあった。

「ではお嬢様、馬車の方へ。」

メイド長にそう言われ、部屋の外へと出ようとする。するとその時、

「(ちょ、ちょっとミリアさん?待ってくださいよ!)」

 ゼクラスに呼び止められ、私は止まった。私はそっと、ゼクラスの居るベットへ向いた。

(駄目。貴方はお留守番してなさい。貴方を連れていくと、また厄介な事が起きそうな気がするし、貴方が誰かに見られても嫌なの。)

そう言うも、ゼクラスは食い下がってきた。

「(いやほら、僕達契約してますし。いざっていう時に、必要になるかもしれませんよ?ねぇ、ミリアさん。)」

ゼクラスは目をキラキラさせながら、猫撫で声で言う。見られたら厄介なのだが、あれはどう断っても無視して飛んでくるだろう。でも、ゼクラスが見られる事は避けたい。

(じゃあ、見られない様にしてくれるなら良いよ。出来ないなら無理。)

「(それなら良いアイデアがありますよ。ほら、こっちに来てください。)」

 私とゼクラスが頭の中で語っていると、メイドの一人が不思議そうに話し掛けてきた。

「お嬢様、如何なされましたか?」

「いえ、ちょっとだけ待ってて。」

私はベットに戻り、布団の中のゼクラスを掴んで出す。すると、ゼクラスの姿はあのデバイス形態ではあるものの、大きさは一回り小さく、ネックレスの様にチェーンに繋がれ、首から下げれる様になっていた。

「(これなら問題ないでしょう?)」

(……ハア、そうね。仕方がないから連れていくよ。ただし、静かにしてなさいよ?)

私はそう語り、首にゼクラスを下げた。そして、再び部屋の外へと向かった。

「ごめんなさい。行きましょう。」

「はい?では、馬車の方へ。」

 部屋に居た大勢のメイドに見送られ、私とメイド長含む数人のメイドは馬車へと乗り込んだ。私が座席に座ると、メイド長が目の前に食事の用意をし始め、それと同時に馬車が動き始めた。用意してくれた食事は、手軽に食べれるサンドイッチと、赤い色の飲み物を用意してくれた。私はサンドイッチを手に取り、窓から遠い空を眺めた。

 ゼクラスとの契約もそうだし、この婚約もそうだけど、どうしてこんな波乱が起きる?余りにも、この短い間で厄が振りかかり過ぎだ。私は雲一つない青空に、せめてこれから起きる事がどうか、何事もなく終わる様に……。そう心の中で祈った。

「(人生楽しい方が良いですよ~)」

(やかましい!!!)

「(アダダダダダダ!!)」

 ネックレスとなったゼクラスを、静かに強く握り締め、食事を摂り始めた。

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