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第4話 再び魔法少女に

<ドンッ!>

 ドアが壊され、外の景色が見えた。そして、外から一人の男が馬車に入ろうとしてきた。

「へへへっ。お嬢様、ご機嫌うる――」

「フンッ!!」

私はその男の顔面を、思い切り蹴り飛ばした。

「げふっ!?」

私よりも大きい男は、そのまま馬車から吹き飛び、地面へと倒れていった。

「痛ッテーー!!」

男は鼻から血を垂らしながら、顔を両手で押さえて痛みに悶え始めた。すると、周りの盗賊達がそれを見て笑い出す。

「オイオイ、どうした?」

「だ、誰かに顔を!――クソッタレが!!」

外が耳障りな程、五月蠅い笑い声が聞こえてくる。私は大きく息を吸い、静かに声を出した。

「クソッタレはどっちよ。」

 そう言い放ち、私はゆっくりと馬車から降りた。外の日が私へと射し、私の姿が露となった。私のこの身には、着ていた可憐な服の上に、身体を不完全に守っている白と青色の鎧を身に付け、右手には大きな機械で形作られている剣を持っている。身の丈程に大きいが、その大きさに対してかなり軽く、頑丈な剣だ。そして、身体の底から不思議なモノが湧き上がってくるのを感じる。私は左手を広げ、手の平を見た。

(セルフィーネ……。)

それは暖かく、時に冷たく、誇りのある力。私は力強く、左手を握り締めた。すると、

『良いですね!久しぶりの変身は。』

 ゼクラスが私の頭に話し掛けてきた。そして、右手の機械の剣に付いているパーツが動き始め、大きな機械の音を鳴らし始めた。その様子を見て、ゼクラスが随分と喜んでいるのが伝わってきた。そう、ゼクラスは今、この大きな機械の剣に姿を変えているのだ。まさか、再びこの力を使うとは思ってもみなかったが、今はこの力に感謝している。――これで、皆を救う事が出来るから。

「ゼクラス、喜ぶのは後にして。さっさとこの盗賊を倒すよ!」

 私は一歩踏み出し、馬車から離れて盗賊達に近付いた。盗賊達は出てきた私に注目し始める。すると、嘲笑い始めた。

「フッハハハハ!オイお前、あんな小娘に蹴られたみたいだな。」

「クソ!引き渡す前に遊んでやる。」

「ミリアリスお嬢様、そんな危ない物を持っていちゃ駄目ですよ。はっはっはっ!」

目の前に居る盗賊達は、全員が下品に笑って油断しきっている。

(言いたい事を散々と言ってくれるね。)

『ま、見た目は少女ですから。ですけど、舐めていると痛い目に逢いますよ。』

盗賊の一人がニヤニヤと笑いながら、私へ手を伸ばしながら近付いてきた。

「ほら、さっさと大人しく、その玩具を捨ててこっちに来な。」

私は大きく息を吸い込み、右手に力を込めた。そして、

「フー……。ハアァ!!」

<スパンッ!>

 私に近づけた盗賊の手を、下から上に剣を大きく振るった。盗賊の手はいとも容易く斬り落とされ、空高く宙を舞った。盗賊は何が起きたか分からず、斬られた腕から血が噴き出してから、腕を押さえて痛みに悶え始めた。

「アアアアアアアアアッ!!!!」

目の前で、盗賊は耳障りな絶叫を上げる。

「五月蠅い!!」

私はそのまま首を斬り裂く。盗賊の首は宙を舞い、地面へと落ちていった。そして、胴体は血を吹き出して、後ろへと倒れていった。

「「ッ!?」」

その光景を見ていた他の盗賊達が、一瞬で驚愕の表情へと変わり、全員が剣を構えて向けてきた。私は剣を振るい、剣に付いていた血を地面へ振るい落とす。そして、盗賊達を睨みつけた。

『だから言ったじゃないですか。舐めていると痛い目に逢うって。』

「ゼクラス、貴方の声は聞こえてないでしょ?」

『そうなんですけどね~。……ま、さっき僕の事を玩具扱いしたのは、ばっちし聞こえてましたけど。』

 ゼクラスが再び動き始めた。どうやら怒っている様子。私も同じ気持ちだ。私は剣を盗賊達に突き出す。

「今なら逃げてもいいよ。でも、来るなら手加減も容赦もしない。」

そう盗賊達に忠告した。しかし、

「このガキが!!」

 一人の盗賊が、忠告を無視して私へ走ってきた。私は剣を降ろし、左手の平を盗賊へと向けた。そして、

「【エクスバースト】」

そう魔法を唱えると、左手から火の矢が現れ、高速で走ってくる盗賊へと飛んでいく。盗賊は躱す事も出来ず当たり、燃えながら後ろへと吹き飛んでいく。それを見て私は、左手をそっと見た。何故なら、いつもより明らかに威力が大きい事に驚いてしまっていたから。すると、

『あれ?セルフィーネって魔法が使えましたっけ?』

 ゼクラスが不思議そうに聞いてきた。私は心の中で答えた。

(詳しい事は後で言うけど、元々、『私が』使えるんだよ。)

『え?そんな事、聞いてませんけど!』

(言うタイミングを逃してたからね。それよりも、コイツ等を片付けるよ!)

 私が目を再び前へ向けると、次々と盗賊が迫ってきた。私は剣を構え直し、迎え撃つ。

「この野郎、よくも仲間をやりやがって!!」

一人の盗賊が私へ剣を振るう。

「フッ!」

<キンッ!!>

私はそれを防ぎ、盗賊の剣を弾き飛ばした。そして直様、ガラ空きになった胴を横に真っ二つに斬る。更に迫ってくる盗賊達の剣を、捌いて防いでいく。

(昔みたいに意外と身体が動く。)

『それはそうですよ。セルフィーネの戦闘経験もリンクしてますから。』

(そういえばそうだっけ?)

 戦いながら頭で、ゼクラスと話せる程余裕があった。それだけ、セルフィーネに力があるのだ。私はその力を使い、目の前の盗賊達を剣で振り払って、後ろへ吹き飛ばした。すると、別の盗賊達がまとまって襲いに掛かってきた。

「「「うおおおお!!」」」

同時に武器を振りかかり、私は上へと大きくジャンプして避けた。

「何!!」

盗賊達は私を顔で追う。私は盗賊達を見下ろしながら、剣を頭の上に大きく構えた。そして、

「『戦技:三爪裂鋼刃(サンソウレッコウジン)』」

私の斬撃が三つの爪へとなり、攻撃してきた盗賊達を同時に斬り裂いた。死体が斬られて地面に倒れるのと同時に、私も地面へと着地した。そして、盗賊達を睨む。

「お、おい……。話が違うじゃないか!?俺らこんなの事、聞いてねぇぞ!」

「ど、どうする!?」

 目の前の盗賊達に動揺が走っている。私は再び剣を突き立てた。

「最後の警告だよ。今から剣を置いて逃げるなら見逃してあげる。……けど、まだ向かってくるなら容赦はしない。」

「「ヒィ!!」」

<カランッ、カランッ……>

 盗賊達の数人が武器を捨てて逃げていった。盗賊の一人が、逃げていく人達へ向いた。

「お、おい!お前ら、待て!!?」

静止する声を掛けるも、武器を捨てた盗賊達は足を止めず、森の奥へと逃げていった。私は残った盗賊達へ、何も言わずに剣を向ける。盗賊達は怯えた表情を浮かべた。そして、

「――クソ!おい、合流するぞ!!」

「おう!!」

残った盗賊達は馬車を回り込んで、反対側へと逃げていった。私も追おうと、後ろへ振り向いた。すると、馬車に居るメイドと目が合った。

「お嬢……様……。」

 メイドは泣きながら驚いた表情を浮かべ、倒れている彼女を抱き抱えていた。空いている手で彼女の傷口を押さえているも、流れた血は赤黒く固まっている。私は彼女達に近付いた。

「お嬢様……、サーシャが……もう……。」

メイドはそう言い、彼女へ視線を移した。私は彼女の頬に触れた。確かに既に肌は冷たく、生気は殆どない。――けれど、まだ間に合うかもしれない。

(そうだよね、ゼクラス。)

『ええ。奇跡さえ起こせば良いんですから。』

ゼクラスがそう言い、私はメイドの方へ見た。メイドは私に視線を向け、私は彼女の手に触れて微笑んだ。

「大丈夫。皆、絶対に私が助けるから。約束するよ。」

 私は穏やかな口調で言い、彼女達から離れた。そして、馬車の屋根の上に飛んだ。そこから見えたのは元気そうな盗賊達と、傷だらけになって倒れている騎士達だった。そして、その騎士達の傍に盗賊達のリーダーらしき大男と、先程逃げた盗賊達が話していた。

「オイ!例の令嬢は捕まえたのか!?」

「そ、それが、俺達、その令嬢にやられて。」

「ハァ?何言ってんだお前は。」

「は、話と全然違くて――ヒィ!!アイツです。あの屋根に居る奴です!!」

私に盗賊が気付き、情けない悲鳴を上げた。私は剣を構える。すると、

「オイオイ、あんな小娘にやられたのか?お前ら。情けないなぁ。はっはっはっ!!」

騎士達の相手をしていた盗賊達が、私の事を見るなり笑い出した。それと、逃げた盗賊達を馬鹿にし始める者も居た。

「ち、違うんだ!あの女、話に聞いていた事と全然違――」

「黙っとけ。」

<ズバンッ!!>

 男は手に持つ斧で、その盗賊を斬り殺した。そして私の方へと向き、礼儀正しそうに話してきた。

「ミリアリスお嬢様。大人しくその玩具を捨てて、俺達に付いて来てくれないかな?」

男は騎士の真似事の様にお辞儀をし、顔を上げた。その笑みは、不愉快になる程に気味が悪い。その気味悪さで、表情を崩さない様にしていると、

『あの男!僕の事をまた玩具って!!』

機械の剣が激しく動き始め、ゼクラスがまた怒った。私も怒りに満ちているも、落ち着いて言い返した。

「断る。」

私がそう言うと、男は騎士の真似事を止めて、やれやれとした表情を浮かべた。そして、

「じゃあ優しいお嬢様。これならどうだ?」

 そう言って、男は近くに居る騎士を踏み付け、その騎士の首上に斧を持ってくる。他の盗賊達も同じ様に、他の騎士達に剣を突き付ける。

「俺は優しいんだ。コイツ等の命の引き換えに、大人しく捕まってくれよ?」

「お、お嬢様……お逃げ……下さい……。」

「(……ッくっくっく)」

他の盗賊達が小声で笑っている。すると、

『大概こういう場合って、捕まっても見せしめに殺すんでしょうね。』

 ゼクラスがそう言った。私もそう思った。けれど、私があの男に抵抗した途端、他の盗賊が騎士達を殺すだろう。セルフィーネの力を借りてでも、流石に皆を助けるには難しい。……それならば、一気に助ければいい。私は構えを解いて、剣を下に下げた。男はそれを見て、ニヤッと口元を上げた。

「フッ、理解が早くて助かるよ。それじゃあ――」

「いつ、私が捕まってあげるって言った?」

「あ?」

 私は男を睨んだ。男は呆気に取られている。

「今の私なら皆を助けれる。貴方達全員を跪かせる位、容易く出来る。」

私はそう強く言った。

「オイオイ、あんまり生意気な事を言っていると、つい手が滑ってコイツの首を刎ねちまいそうだぜ。はっはっはっ!!」

男は大声で笑い、他の盗賊達も笑い出す。

「笑っていられるのも今の内だよ。」

『さあ!百発百中の弾丸を喰らわせてやりましょう!!』

私は剣を握り締めて、顔の前へと持って構える。そして、

「『リンク・オン ジョニー』!!」

 灰色の煙と砂埃が私を被う。身体に砂埃が当たるのを感じ、鼻から独特の硝煙の匂いがした。そして煙が消えた時、私達の姿が変わる。

「何だあれは?」

ゼクラスはリボルバーの様な機械の銃へと変わり、私の身体には着ていた鎧は消え、代わりにガンマンの様なマントと帽子を被っていた。私はそっと銃を下に向けた。この光景を見ていた男は、少し静かにした後に笑い出した。

「おいおい、面白い仮装衣装だな。でも、お嬢様にはもう少し似合う衣しょ――」

<ドンッ!>

 私は即座に銃を男に向け、引き金を引く。鈍い銃撃音と共に、弾丸は有り得ない軌道を描いて、斧を持つ男の手を吹き飛ばした。斧は勢い良く宙を飛び、後ろへと飛んで地面へと刺さった。

「ッア?アアアアアァァ!お、俺の手が!?」

男は失った手を押さえ、痛みで叫んだ。そして、

「この糞餓鬼が!オメェら、騎士達を全員ぶっ殺せ!!」

後ろの盗賊達に顔を向け、指示した。盗賊達は慌てて、剣を騎士達に向けて振りかぶった。

「させないよ。」

 私は直ぐに銃を腰の位置に移動させ、左手を撃鉄へと添える。

『残り五発でーす。』

「問題ない!」

<ドドドドドンッ!!>

 左手で撃鉄を上げ、引き金を引く。その動作を五回、難なくこなして五発の弾を撃った。全ての弾が再び有り得ない軌道を描き、騎士達を人質に取っていた盗賊達全員へと当たっていく。撃たれた盗賊達が倒れ、その光景を見ていた盗賊達が呆気に取られていた。私は直ぐに左手に弾丸を作り出し、弾を込めて静かに盗賊達へと向けた。盗賊達はようやく何が起きたのか理解した様で、騒ぎ始めた。

「じょ、冗談だろ!?」

「ヒッ!に、逃げろ!!逃げるんだ!!」

 盗賊達が、武器を捨てて森へと逃げていく。

「お、お前ら!?俺を置いて逃げるな!!」

リーダーの男が、盗賊達と遅れて逃げようとする。けれど、私はこの男だけは逃そうなんて事はしない。

「貴方は逃がさない。」

<ドンッ!ドンッ!>

「――グッ!?」

二発の弾が男の脚へと当たり、前のめりに倒れた。男は身体を腕で起こし、私の方へ顔を向けた。その表情は恐怖で怯えている。そして、叫びながら腕で這いずって逃げようとする。

「お前ら、俺を助けろ!おい!」

 男の助けを求める叫びは、逃げた盗賊達に聞こえずにただ一人、撃ち殺した死体と共に残されていった。私は馬車の屋根から降りて男に近付く。それに気付いた男は、仰向けになって私に命乞いをし始めた。

「ま、待ってくれ。悪かった、許してくれ。俺達は依頼されただけなんだよ。アンタを連れ去れって。」

男は気になる事を言い出した。私を誘拐する事を依頼されたと。私は男に聞き返した。

「誰に言われたの?」

そう言って、近付きながら銃の弾を全て抜き取り、新たに作った弾丸を一発入れた。そして男に向けると、男は白状し始めた。

「し、知らない男だ。アンタを誘拐すれば、一生を遊んで暮らせる金を貰える程の依頼で受けただけだ!前金だって貰った。」

「そう……。」

 私は周りで倒れている騎士達に目を向けた。皆、私を守る為に傷付いて倒れている。彼等だけじゃない。馬車に居る彼女達もそうだ。私は再び男へ目を向ける。男は私に命乞いを続ける。

「知っている事は全て話す!だから――」

「だからって、許す訳ないでしょ。」

「まっ――」

<ドンッ!>

私は引き金を引き、一発の弾丸を放った。弾丸が男の胸に撃ち込まれ、男は意識をなくして倒れた。

「次に目を覚ますのは、王都の牢獄だよ。」

 私は銃を下ろした。するとその時、激しい目眩に襲われた。身体がフワッと地面に倒れそうになるも、何とか踏ん張って地面に座り直した。

「ハァ……ハァ……。」

身体中に重りを付けた様に重く怠くなり、意識が朦朧とし始めた。息をするのも辛く感じる。

『流石に、もう身体が限界を超えてしまってますね。』

ゼクラスが頭に語り掛けてきた。最早その声ですら、頭が痛くなる程に響いてくる。けれど、

「(まだ……、まだ倒れる訳にはいかない。)」

『いけますか?』

私は銃を握り締める。

「約束……したんだ。絶対に助けるっ……て。だから……やるよ、ゼクラス。」

私は最後の気力を振り絞り、立ち上がった。そして、両手で銃を持って構える。

「『リンク・オン フィリア』」

 光と暖かな風が私を包み、私達の姿を変えた。ゼクラスは大きな杖へと変わり、私の服は白い修道服の様な綺麗な服へと変わる。私は杖を両手で持ち、地面へ突き立てた。そして、杖に身体を預けながら、頭に浮かぶ魔法の詠唱を始めた。

「[母なる女神よ。我等へ救いの光を照らしたまえ。其の光は我等へ祝福をもたらし、全てを癒す力とならん。]……【レイズ・リザレクト】」

私を中心に白い魔方陣が広がる。その陣は光輝き、倒れている皆の傷を癒していく。そして光が消えた頃、皆の傷は癒えて立ち上がれる程まで治っていた。次の瞬間、皆の歓声が巻き起こった。

「傷が、あれ程酷かった傷が治っている!」

「き、奇跡だ!奇跡が起きたぞ!!」

「あ、あれ?私……。」

「サーシャ!良かった、良かったよ……。」

 皆が無事に治ったのを見届け、私の身体は限界を迎えた。最早、立ち続ける事も出来ず、フラッと地面へと倒れた。

「「「ミリアリスお嬢様!!?」」」

私の名を呼ぶ声が聞こえた途端、私の意識はそこで途切れた。

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