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第3話 襲撃

 あれから十数日が過ぎた。私の療養……、元より体調に問題はなかったが、お医者様に言われた日数は安静にして、今は部屋の外に出て歩き回れる様になった。ようやく、いつもと変わらない日常を迎えれた。……のだが、一つだけ問題がある。それはあの日以来、皆が私に対して過剰に過保護になってしまった事だろう。屋敷の何処に行こうにも、側にメイドが二人以上付き添っているし、屋敷の外に出るなら数人の騎士が付き添わされる。試しに、

「私、街に行きたいなー?」

と言ってみたら、皆が切羽詰まった様に慌ただしくなり、私は直ぐに冗談だと言って止めた。当分は皆が落ち着くまで、街へと散歩にも出掛けれそうにない。

 それから、家族も私に対して過保護になっている。バルドお兄様は気に掛けてくれる事は多くなったが、以前とあまり変わりはない。しかし、お母様とヨルネスお兄様は違う。特にヨルネスお兄様は過保護……、というより、元々あったシスコンが重症化してしまっている。勉強の少しの合間に私の顔を見に来るし、時間が空けばメイド達にと一緒に付き添う。食事だって、ずっと隣で見てくる。寝る時も一緒に寝ようとしてきたが、流石にそれはメイド達に止めさせた。お母様も同じ事をちょいちょいとやってきたので、二人はバルドお兄様に叱られていた。しかし、それでも収まる気配はなかった。

 それで今日まで私は、落ち着かない屋敷の中で過ごしていた。そして今、私は二人のメイドと騎士達に守られながら、大きな馬車に乗って王都へと向かっている。何故かというと、つい二日前に王都に居るお父様に呼ばれた為だ。何の用事かは聞いていないが、かなり急ぎの用事みたいだった。どんな用事なのかは見当もついていない。そんな事で私は、急ぎで向かっている。ヨルネスお兄様も一緒に来ようとしていたが、私が説得して止めさせた。何故か、バルドお兄様も平然と付いて行こうとしていたが、ヨルネスお兄様に捕まえられて諦めていた。お母様も最後まで執拗に付いて来ようとしていたけど、使用人達に止められている隙に馬車を走らせた。これでようやく、静かで気の休まる時間が取れたから嬉しいのだが……。

「暇ですね~、馬車の中っていうのは。」

 この旅路に唯一問題があるとするなら、未だにこの悪魔が居るという事だ。私は心の中で語り掛けた。

(静かに景色でも楽しんでなさいよ。)

「僕って、身体を動かす方が好きなんですよ?景色とか見て楽しめるタイプじゃないんで。」

ゼクラスは呑気そうに言った。

(なら、せめて静かにしてなさいよ。今の現状を察して。)

私はそっと目を開ける。目の前には、二人のメイドが対面に座っていた。その二人は笑顔で此方を見ている。しかし、私達の間で飛び回っているゼクラスには目を向けていない。

「別に見えも聞こえもしないんですから、気にしなければ良いんですよ。」

 あの日から数日間、ゼクラスを見られない様に気を張っていたが、前世でも使っていたそのステルスの様な機能があるのを忘れていた。お陰で、ゼクラスは皆が居る前でも悠々と動き回り、私も多少は気を緩める事は出来た。

(でも、出来ればこれからも、見られない様に気を配って欲しいけどね。)

「どうしてですか?」

ゼクラスは不思議そうに言う。

(色々とあるのよ。その……見られると、私的に面倒臭い事が起きそうな気がするから。後、いい加減に静かにして動かないで頂戴。ハエが飛び回っているみたいで鬱陶しいから。)

「暇なんですもん。」

(もう……。)

 私はゼクラスに呆れながら、メイドに問いかけた。

「王都まで、後どのくらいで着くの?」

「そうですね……。今が大体、半分程過ぎた位でしょうか。まだまだ、到着には時間が掛かります。」

「そう。」

ゼクラスにそっと目を向けると、怠そうな表情を浮かべている。

「お眠り致しますか?」

「大丈夫よ。……ところで、お父様は何の用事で呼んだのか分かる?」

 私がそう訪ねると、二人のメイド達がそれぞれ目を合わせあった。そして、直ぐに私の方へ向いて頭を下げた。

「申し訳ございません。実は旦那様からのお手紙の内容については、私達には知らされていないのです。ただ、奥様やバルド様方がお手紙を読んでいたご様子ですと、何か大切な事でお呼びになられたのではないかと。」

「そうなのね。」

私は屋敷を出る前の事を思い出していた。

(そういえばお母様、なんか表情が怒っていたような……?お母様が怒っている程の用事って何だろう?お兄様達も、どことなく落ち着きがなかった気がしたし。お父様も、度々変な事で怒らせるからな。――というよりも、私への用事なら私にもその用事を教えるべきなのでは?)

私は呆れ笑いを浮かべた。そして、再び目を閉じてゼクラスに語り掛けた。

(まだ時間が掛かるって。)

「仕方がないですねー。じゃあ、飛び回って時間を潰しますか。」

(だから!大人しくし――)

<ドンッ!!>

「「「ッ!」」」

 馬車に何かがぶつかる音が響き、私は目を見開いた。次の瞬間、

「ヒヒーンッ!!」

「敵襲!!」

馬の声が鳴き響き、馬車が止まる。騎士の一人が声を上げ、そして、馬車の左側が騒がしくなり始めた。私はそっと、馬車左側の扉窓から外を見た。そこには、森から盗賊の様な一団が現れて、こちらに向かってくる。騎士達も左側に集い並び、剣を抜いて盗賊達と対峙した。すると、

「お嬢様!お隠れ下さい!!」

「うっ!?」

 メイドの一人に抱き締められ、座席の下まで引っ張られた。もう一人のメイドはスカートをたくしあげ、脚に備え付けていたナイフを抜き取り、窓から少しだけ顔を出して外を覗いている。私はそのまま静かに耳を立てていた。

「貴様ら下がれ!それ以上来るなら容赦はせん!!」

「へへっ、やってみろよ。」

騎士の一人がそう声を上げるが、盗賊は軽くあしらっている。

「全員、迎え撃て!!」

「「うおおおおおおお!!」」

 外で雄叫びと剣撃が響き渡る。どうやら、戦闘が始まった様だ。メイド達の表情は厳しく、気が張り詰まっている。しかし、私は何故かこんな危険な状況でも落ち着いている。すると、ゼクラスが私の目の前まで降りてきた。

「随分と落ち着いてますね。」

 確かに、不思議な程落ち着いてしまっている。記憶を取り戻す前なら、ここで泣いてメイドにすがり付いていたと思うが……。

(前世の戦いのせいなのかな。ここで泣き騒いでも、この状況が解決しないと分かっているから。)

「じゃあ、僕のおかげという事ですね。」

(同時に、アンタの所為でもあるけどね!)

私達が普通に語り合っているが、その間も外から聞こえる音は一向に止まない。さっき見た限りだと、こちらの騎士達の方が多かった様に見えたけど……。

(ねぇゼクラス、外の偵察をしてきてよ。)

「え~……。」

ゼクラスは面倒臭そうに肩を落とす。

(私が死んだら、契約してくれる人が居なくなるよ?)

「まあ、そうなんですけど。――しょうがないですね。ちょっと行ってきますよ。」

ゼクラスは馬車の壁をすり抜け、外の様子を見に行った。

(相変わらず、どんな身体をしているのやら。)

 そう思っていると、ナイフを握っているメイドが私の方へ向き、声を掛けてきた。

「お嬢様、今の内に反対側から出ていきましょう。表の騎士達が抑えてくれる間に。」

「え?でも騎士達は?」

「大丈夫です。後から必ず追いかけて来てくれますから。――サーシャ。」

私を抱き締めているメイドが頷き、私へ声を掛けた。

「行きましょう、お嬢様。」

 そう言って、手を繋いで私を立たせてくれた。そして、私の手を離して後ろに振り返り、反対側の扉を開けようとドアノブに手を掛ける。しかしその時、

「不味いですね。騎士さん達が押されている上に、絶賛囲まれ中ですよ。」

ゼクラスの不穏な言葉が聞こえた。

「――ッ!?開けちゃ駄目!!」

私は扉を開けようとするメイドを、急いで止めようとした。

「えっ――?」

<ドスッ!!>

 しかし、少し開けてしまった扉の隙間から、一本の矢が飛んできてメイドの喉へと当たった。血が辺りに飛び散り、馬車の床へと倒れていった。

「――ッ!」

「サーシャ!!」

私は慌てて扉を閉めて鍵を掛ける。次の瞬間、扉に次々と何かがぶつかる音が響く。後ろを振り向くと、もう一人のメイドが倒れたメイドの傷を押さえて抱き抱えた。

「サーシャ!サーシャ!」

 メイドが何度も彼女に声を掛けるも、彼女は声も出せずに悶え苦しんでいる。首の傷から血は止まらず、床に血溜まりが出来ている。

「お願いします、精霊様……。サーシャを、サーシャをお助け下さい……。」

メイドは必死に祈りを捧げた。けれど、その祈りは精霊様に届かず、彼女は声も発せずに苦しんでいる。更に盗賊達が、私の後ろの扉を強引に開けようとしてくる。……私はその間、何も出来ずに立ち尽くしていた。

「大丈夫ですか~。――あっ。」

 ゼクラスが呑気な声を出して戻ってきたが、直ぐに状況を察し、メイド達を近くで見た後に私の側へと寄ってくる。私はメイド達から視線を変えずに、ゼクラスに聞いた。

「ねぇ、ゼクラス……。彼女を助けれる?」

「無理ですね。あの出血じゃ、どうしようも出来ません。それに、僕自身もそんな事は出来ませんし。」

冷静に即答され、私の心の中が暗くなった。この人は私を助けようとして、こんな目に遭ってしまった。どうにかしてでも助けたいと思うも、私にもどうする事も出来ない。私は彼女の元に寄り、彼女の手に触れた。さっきまで、とても暖かみのあった手は、力のない冷たい手になってしまっている。私が手を握っても、彼女の反応は殆どない。

「――ッ!」

手に赤い水滴が落ちる。両手で顔を拭うと、手に透明の液体と赤い液体が付いていた。落ちた水滴は自分の涙と、私の顔に付いた彼女の血が混ざったモノだと分かった。それが分かった途端、私の目から涙が溢れてきた。目を拭い、涙を拭き取った。するとその時、

「お嬢様、逃げましょう……。」

 メイドがそう声を掛けてきた。私が驚いて顔を向けると、その人の目は真っ赤になって涙を流しており、表情は暗く真っ青になっていた。しかし、その眼差しを見ていると、どことなく嫌な予感がした。私は恐る恐る聞いた。

「ど、どうやって……?」

私は強く手を握り締めた。メイドは大きく息を飲み、倒れた彼女の手を握る私の手の上に乗せた。

「騎士達が押さえてくれている間に、その後ろから逃げます。」

「それじゃあ!?……彼女を置いていくの?」

メイドは彼女の方へ視線を戻し、私も彼女の顔を見た。彼女は息が途絶え途絶えになって、早く治療しなければ死んでしまう……。騎士団も大勢怪我をしている筈。けれど、聞こえてくる盗賊達の声は、勢いは衰える事なく活気に溢れている。すると、メイドが私の手を両手で包んで持ち上げた。私はメイドの顔を見た。

「サーシャもそれを望んでいます。――私も、お嬢様を命がけで救う、その覚悟があります。」

静かに強く言った。けれど、彼女の手は小さく震えている。この人だけならきっと、子供の私を置いて逃げれば逃げ切れる筈。だけど、私の為に自分の命を賭けて助け様としている、そう直ぐに感じ取れた。

(そんな事――!?)

 私は手を力強く握った。自分を救う為に犠牲になろうとしている。どうにか出来ないのかと考えるけど、そんな人達を助ける事が出来ない無力な自分に苛立つ。やがて絶望感に襲われ、身体の力が抜けてしまう。メイドが最後に微笑んで立ち上がり、私を立ち上がらせて扉を開けようとする。するとその時、私の視界にゼクラスが映る。そして、直ぐにこの状況を打開できる方法を思い付いた。私はメイドの手を引き、その場に立ち止まった。

「――お嬢様?」

 確かに、今の私には力がない。だけど、力を得る方法は知っている。かつての私、前世の私が手に入れた力。強大な敵、パンドラビーストに対抗する事が出来たあの力。

「お嬢様、早くお逃げ致しましょう!!」

前世の記憶が、前世の私が、今の私に語り掛ける。『同じ悲劇を繰り返すな』、そう強く……。

「お嬢様!」

「ふざけないで!!!」

 強く叫び、メイドは怯んだ。私は目を閉じ、転生して今に至るまでの記憶を思い返していた。彼女達の事、表で戦う騎士達の事……。皆、私の事を大切に優しくしてくれていた。皆、私にとって大切な民であり、大切な家族でもある。手に入る力が傍にあるというのに、それを取らずに皆を見捨てて逃げる等、そんな事はあってはならない。例えそれが悪魔との契約だとしても、私には民を守る義務がある。私は覚悟を決め、目を大きく見開いて宣言した。

「私はミリアリス・オーベルト・ユートラス!私の身体には、騎士である母の血と、国を守る父の血が流れている!その私が、民であり、家族でもある貴方達を守らず逃げる等、あってはならない!!」

 私はメイドの手を振り解き、後ろの扉へ振り返った。扉は盗賊達が攻撃を続けてボロボロになっており、もう直ぐこじ開けられるだろう。

「お嬢様……。」

「私なら大丈夫。だから貴方は彼女の傍に居てあげて。絶対に貴方も、彼女も、騎士達も、皆私が助けるから。」

メイドに微笑みかけ、扉の近くまで歩く。そして、

「ゼクラス!!」

 私は大きな声でゼクラスを呼んだ。ゼクラスはそれに呼応して、私の傍に寄る。けれど、いつもの生意気な感じはない。

「良いんですか?」

「もうそれしかない。やるよ、ゼクラス!!」

「それじゃあいきましょう!!」

ゼクラスは姿を変え、私の手の平より大きな十字架の様な姿の『デバイス』へと変わる。私はそれを手にした。

「言っておくけど!今回限りだからね!!」

「はいはい。さっさと契約しましょう!」


 私達の周りにそよ風が巻き起こり、地面に陣が現れる。そして陣から光が輝き、光が私達を包む。手に持つゼクラスの雰囲気が変わり始め、あの時と同じ様に『契約』が始まる。

『ZL-2265 コレヨリ契約者ノ更新ヲ開始 新タナ契約者ノ名ヲ 我ニ授ゲヨ』

その声はゼクラスの声ではなく、機械音声の様な声が響き渡る。私は目を閉じ、大きく息を吸って心を落ち着かせた。その時、頭の中に契約の言葉が浮かんできた。私はその言葉を、自分の声で答えた。

「我が名は、ミリアリス・オーベルト・ユートラス。汝と契約を結ぶ者なり。」

『承認ヲ開始 契約者ヲ『ミリアリス・オーベルト・ユートラス』ヘト更新 契約ノ言葉ヲ捧ゲヨ』

再び、言葉が頭に浮かぶ。

「我は汝を行使する者なり。汝に刻まれし記憶と力を、我が身へ繋げ、我が身へと具現させよ。」

『……承認ヲ完了 コレヨリ我ガ記憶ト力ヲ汝ヘト具現サセヨウ』

 その瞬間、私とゼクラスが繋がった感覚を感じた。これでもう一度、そして最後の変身になる。私は大きく息を吸い込み、目を見開いた。

「行くよ、ゼクラス……。『リンク・オン セルフィーネ』!!」

私が大きく叫ぶと、陣が青く輝き、光と風が私達を包んだ。

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