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第14話 大慌てな帰路

「あっ……。」

「……」

 風が収まり薄暗い中、アルティア様は何一言も話さず、静かに私の目を見続けている。あまりにも身体が弱りきり、声が出せないだけかもしれない。だけど、私を見詰めてくるその目は、呪いで弱っていたとも思えない程に、強く鋭い眼光を放っていた。これを例えるのなら、獲物を確実に狙い仕留めに掛かる猛獣の様な目付きをしていた。もし、アルティア様が動けていたら、きっと獲物である私は簡単に仕留められる気がする。時間も進んでいるのにも関わらず、その一秒一秒がとても長く感じた。私も焦りのあまり、思考が止まって声も出せずにいた。すると、

『死にかけていた割に、随分と生き生きとした人ですねぇ。』

 ゼクラスがアルティア様に対して失礼な事を言い出した。私はそこで我に返り、ゼクラスを右手の甲で叩いた。

『イテッ!』

「(失礼な事を言うんじゃないよ!)」

私は小声でゼクラスを叱った。そして少し息を整え、アルティア様の方へ向き直した。アルティア様の表情は変わらない。ずっと、私の方を向き続けている。実は目を開けたまま寝ているのではないかと、少し疑ってしまう。だけど、ゆっくりと小さく瞬きはしており、確かに起きてはいる様だった。

(事情を話すべき……?)

私はアルティア様の様子を見ながら考えていた。しかし、こんな真夜中に突然と見知らぬ少女が現れ、病……もとい呪いを解いたと言っても信じられるのだろうか?逆に、暗殺者と見られてもおかしくはない。これ以上何もせず、このまま去るのが一番だと思う。

(……でも。)

 アルティア様に見られていると、何もせずに去る事の方が一番危険な気がした。ちょっとでも逃げようとしたら、獲物を仕留める様に一気に襲い掛かってくる雰囲気を感じる。

『気のせいですよ。』

ゼクラスは呑気にそう言うが、対面している私にはそういう気迫の様なモノを感じられるのだ。多分、まだ身体を動かすのは無理だろうとは思うけれど、そう考えてしまう事が危険に思えた。……最早そうなれば、この場から去る残された方法は一つだけだ。

(言うだけ言って去ろう。襲われない事を祈りながら。)

私は意を決して、アルティア様に話し掛けた。

「アルティア様、私は――」

《ガチャ……》

 その時突然、部屋のドアノブが動く音がした。私は咄嗟にその方向へ目を向けた。視線の先にある扉がゆっくりと開き、その奥から声が聞こえた。

「お母様、入ります。」

そう言うと、一人の青年が頭を下げて部屋の中へと入ってきた。そして、ゆっくりと顔を上げると、私と目があった。青年の金色の髪に、その青い瞳とキリッとした瞳。その姿にとても見覚えがあった。その時、

「だ、誰だッ!?」

青年は私の姿を見るに、驚きと怒声の籠った声を出した。私はその声で、青年の正体がハッキリと分かった。

(ヤバッ!?ベルドラルド様!!?)

 私は咄嗟にゼクラスを握り締め、背後の窓からバルコニーへ飛び出た。そして、

「『リンク・オン ウィンターズ!』」

多彩な光が私の身体を包み、ウィンターズにリンク・オンし始めた。けれど、完全に姿が変わるまで待てない。

「待てッ!!」

背後からベルドラルド様が、私の方へと駆け付けて来ていた。

「一か八かッ!」

 私はバルコニーの柵を乗り越え、そのまま下へと落ちていった。

「おいっ!?」

上からベルドラルド様の声が聞こえるも、私は見上げる事をせず、リンク・オンへ集中した。

(速く変身しないと、地面に落ちる!)

 心の中でそう焦っている中、逸早くゼクラスが箒の姿へと変わった。私は直ぐにゼクラスに指示を出した。

「飛んで!ゼクラスッ!」

『言われなくてもッ!』

私がそう叫び、ゼクラスは宙を飛んで私を持ち上げた。私の身体はグイッと持ち上がり、地面にぶつかる前に飛べた。そのままゼクラスにぶら下がる状態で、徐々に高度を上げながら急いで城から離れていった。

「……」

 ソッと背後を横目で見ると、ベルドラルド様がバルコニーから出て、飛んでいる私の方を向いていた。そして、何かをしようと私の方へ片手を向けた。けれど、直ぐに背後を向いて手を下ろし、私の方を向いた。

(ギリギリ、逃げれたのかな……。)

私はそう思い、ホッと一安心した。ベルドラルド様の様子を少し伺っていると、左手に花が入った籠を携えていた。もしかしたら、バルコニーにある花は全部ベルドラルド様が持ってきた物で、あの庭園で育てた花なのかもしれない。そう考えていると、ベルドラルド様が王妃様の部屋の中へと戻っていった。姿は見られはしたが、流石に私である事まではバレてはいない筈。

『とは言え、他の人達が探し始めるのも時間の問題ですね。』

ゼクラスはそう言った。部屋に戻っていったという事は恐らく、城に居る衛兵か誰かを呼びに行ったのだろう。そうしたら、直ぐにでも城の中が騒ぎ始める。私は小さく溜め息を吐き、

「兎に角、家まで速く逃げないと……。でもその前に、これをどうにかしないといけない。」

私は箒のゼクラスによじ登り、ゆっくりと跨がった。フッ~と息を吐いて、右手にある呪いに目を向けた。呪いは今もなお、光のベールの中で残り続けている。一向に消える様な気配もしない。

(どれだけ強く、禍々しい呪いなの?こんな物を、一体誰がアルティア様に……。)

 私はそう疑問に思った。フィリアとリンク・オン出来ていなければ、きっと呪いを見付ける事は出来なかったと思う。そして、こうやって取り除く事も無理だったかもしれない。

『まぁ、それもこれもこの僕がいたお陰ですね!』

ゼクラスはそうはしゃいだ。私はそっぽを向きながら、

「ハイハイソウデスネー。ゼクラスクンスゴイスゴーイ。」

と、私はテキトーに返事を返した。すると、

『そうですよ!僕は凄いんです!』

そうゼクラスは、箒の身体を上に反らせて答えた。その姿は、ドヤッと胸を張って答えた様に見えた。私はイラッとしながら、ソッとゼクラスに右手を近付けて言った。

「じゃぁ凄いゼクラス君は、この呪いもどうにか出来るよね?」

『早くどうにかしてくださいよその汚いの。』

 ゼクラスは間髪入れずに言い返してきた。更には、身体を差し出した右手の反対へ身体を反らせ、呪いから少しでも離れようとしていた。その態度は、私が本当に汚物を触って引いている様な態度をしていた。

(コイツッ……!)

と、更にイラッとするも、私は溜め息を吐いて気持ちを落ち着かせた。元より、ゼクラス一人では何も出来ない事は分かっている。私の様な、リンク・オンが出来る相方が居なければ、只の目障りな奴でしかない。だから、ほんの少しだけしか期待していなかった。

『酷くないですか?』

「事実でしょ。」

『……まぁ、そうですけども。』

ゼクラスが落ち込み気味になり、私はちょっとやり返した気分になった。そして軽く、コンッコンッと左手でゼクラスを叩いた。

 そうやり取りしている内に私達は城から随分と離れ、城下町の上空へと進んでいた。衛兵らが私を追いに来る様子は今のところない。下の城下町の活気は収まっていないが、来た時よりも少しずつ寝静まっているのは分かった。空の月もまだ空高くにあるも、既に空の頂点を過ぎて落ち始めている。もうのんびりしている余裕はない。城から衛兵達が、私達を追い始めているに違いないし、さっさと家まで戻らなければ朝を迎えてとんでもない事になってしまう。

(早く戻らないと――)

 そう思ったその時、突然ガクンっと身体中に重りがのし掛かった様な怠さが襲ってきた。私はゼクラスに掴まりながら、身体を前のめりに倒れた。私は一瞬、自分の身に何が起こったのか分からなかった。けれど、直ぐに理解した。

『あれ?ミリアさんどうしました?』

ゼクラスが呑気にそう言った。私は残された力を振り絞り、ゼクラスに言った。

「ちょっとヤバイかも、ゼクラス……。」

『んぁ?ちょっと高度が下がってるような?……あ、もしかしてミリアさん、体力の限界ですか!?』

ゼクラスの言う通り、私が限界を迎えた事で徐々に高度が下がり始めていた。緩やかに落ちているも、このままでは街の中へと墜落してしまう。私がぐったりとしている中、ゼクラスは身振りをして慌てていた。

『ええっと!?こうなったら、何処かに着地しないと!!とは言え、人目がある所に降りたら面倒臭いですし!……あっ、彼処なら!!」

そう言いながら、ゼクラスは飛ぶ方向を急いで変えた。私達はそのまま、その方向へと落ちていった。

 地面に衝突する寸前に、ゼクラスが私の身体をふわりと持ち上げ、私は地面への激突は避けられた。しかしそのまま私はぐったりと、座った状態で前のめりに地面に倒れた。

『……大丈夫ですか~?ミリアさん?』

ゼクラスは私の股下で聞いてきた。私は身体に力を入れ、ゼクラスから離れて近くの壁にもたれ掛かった。すると、リンク・オンが解けてしまい、元の服装へと戻ってしまった。私は上を力なく向きながら、深い呼吸をし始めて言った。

「取りあえず……怪我はないよ……。」

『それなら良かったですけど、この状況どうします?』

 ゼクラスも元の姿に戻ってそう言い、私は周りを見渡した。不幸か幸運か、周りには人は一人足りとも居らず、私の姿を見る人は誰も居ない。しかし、誰も助けを呼ぶ事も出来ない。建物は多く並んでいるも、建物から漏れる光は全くなく、月明かりだけがこの場所を照らしていた。それに普通の街並みと比べると、随分と荒れている様に見えた。もしかしたら、治安があまり良くない場所に降りたのかもしれない。

(ま、不味いなぁ……。)

 私は呼吸を整えて、これからどうするか考えた。休めば少しは体力は戻るけど、もう一度リンク・オンをするにはそれだけでは足りない。それに、この呪いも何処かへと飛んで行ってしまう。自然と消えればそれで良いのだけど、きっとそうはならない。私や他の誰かに移るかもしれないし、これ程に嫌で強力な呪いならもしかしたら、アルティア様の元へ戻ろうとするかもしれない。そんな危険なモノを、ここで手放す訳にはいかない。そう考えていると、

『……他人の心配をするのは良いですけど、流石に今の状態のまま持っていたら、少なからずミリアさんの命に関わりますよ?』

 ゼクラスはそう、少しいつもの時と比べて真剣に言ってきた。私はゼクラスの方を向いて、呼吸を整えながら言った。

「私が死んでも、呪いは残り続けるでしょ……。なら、今ここでどうにかしないと……。」

そう意気込むも、本当に体力が限界だった。これ以上持ち続けたらゼクラスの言う通り、私の命が危ないかもしれない。すると、ゼクラスは呆れた様な表情を浮かべて口を開いた。

『……まあ、方法はなくはないですけど。オススメは絶対にしませんが。』

「それは何……?」

そう聞き返すと、ゼクラスはニッコリと笑みを浮かべて言った。

『その呪いを受け入れちゃう事です。』

「……はぁ?」

 私はその答えに呆気に取られ、直ぐに聞き返さなければ良かったと後悔した。すると、ゼクラスは慌てて説明し始めた。

『ちゃんと理由があるんですよ!?その呪いを身体に入れて、一時的にその力を原動力に変えるんですよ。それだけのモノであれば、帰る位ならやれそうじゃないですか?』

「その変えるのは誰がやるの?」

『勿論、それぐらいは僕がやりますよ。』

「その後は?私が呪いを受け入れて帰れたとしても、それで終わりな訳じゃないでしょ?」

『……頑張ってください?』

私は力なく左手を伸ばし、ゼクラスを捕まえようとした。しかしゼクラスは、ギリギリ私の手の届かない所まで逃げた。私はゼクラスを睨みながら怒った。

「後先も考えてない考えをするなら、今直ぐこの呪いをアンタに打ち込むよ?」

『いや〜、案外良い案だと思ったんですけどね〜。呪いも少なからず弱まっているし、後はミリアさんの運に任せたら解決しそうな気がしたんですけども。』

ゼクラスは笑いながらそう言った。私は頭を抱えたくなる気持ちになりながら、本当にどうしようかと悩み始めた。――するとその時、

《カタカタッカタッ……》

 何かが転がる音が聞こえ、私とゼクラスはその音の方向を向いた。道の先から一つの影が伸びてきたのに気が付いた。それは徐々に近付き、道の先から月明かりに照らされて姿を現した。現れたのは汚れたボロ布を身に付けた、みすぼらしい姿をしたボサボサ髪の少年だった。よくよく目を凝らしてみると、顔や腕には汚れの他に擦り傷や殴られた跡があった。その少年は足取りをふらつかせながら、ゆっくりと私達が居る方へと歩いてきた。……その時、少年の姿を見ていると、その少年の手にある物に気が付いた。月の灯りに照らされ、青く輝く水が入った瓶。初めて間近に見たけれど、それはこの状況を打開できる物に違いなかった。私は必死な気持ちで、少年に声を掛けた。

「ねぇ!そこの君!」

「――ッ!?」

 自分でも思っていた以上に声が出てしまった。少年は私の声に驚き、身体をビクッと震わせて辺りを見渡し始めた。きっと、私の姿に気が付いていなかったのだろう。何度か周りを見渡した時に壁にもたれている私に気が付き、怯える様子で私の方を向いた。私は怖がらせない様に気を付けながら、少年へ話し掛けた。

「驚かせてごめんね。私今動けなくて、コッチに来てもらっても良いかな?」

そう聞くも、少年は近付こうともせず逆に警戒し、私から距離を取ろうと離れ始めた。

「あ!ちょっと逃げないで!私、今物凄く困っていて……。えっと、その……。」

私は手振り身振りをして、何とか少年を呼ぼうとしたが、少年は逆に怯えて離れようとした。

『こういう時のミリアさんって、受け答えがヘタクソになりますよねぇ。』

ゼクラスがそう言いながら、私の視界の中に入ってきた。私は邪魔なゼクラスを叩きたくなるのを我慢し、何とか少年を呼んだ。

「何も君を傷付けるつもりはないから、少し助けて欲しいの。」

私は必死な思いで少年に呼び掛けた。しかし少年はその場に立ち止まり、ジッと私の方を見ていた。

(駄目か……。)

私はガクンっと頭を垂れ、下を向いて落ち込んだ。

 するとその時、視界の地面に影が映り込んできた。私はもしかしてと思いながら、顔を上に上げた。そこには少年が、警戒心を持ったまま恐る恐る近付いてきてくれてた。私は嬉しくなりつつも、それで騒いで再び怖がらせない様に、落ち着いて姿勢を正して話した。

「逃げないでくれてありがとう。それで、君にお願いがあるんだけど……。君の持っているそのポーション、私にくれないかな?」

 私は落ち着いてそう言った。少年は私と持っているポーションを交互に見ると突然、ポーションを私から隠す様に脇へと持っていった。

「あっ!?」

私は反射的に、少年の方へ少し手を伸ばしてしまい、少年は私から更に距離を取った。しまった!と思ったが既に遅い。少年は私から目を逸らさず、徐々に距離を空けていった。私は直ぐに謝りながら弁明した。

「ご、ごめん!私には今、それがとても必要で……。勿論、タダでとは言わないから!えっと……、何かあったかな?」

 私は左手で自分の服を探りながら、何か交換に値する物を探した。けれど、寝間着の状態で来た為に、交換出来る様な物は……、この服かゼクラス以外にない。

『冗談を言っている場合ですか……。』

ゼクラスは呆れながらに言い返してきた。確かに半分冗談ではあるが、本当に交換に値する物がない。でも、少年が持っているあのポーションがなければ、この夜の中に家まで帰れない。

(ど、どうしよう……?)

私は悩みすぎて、頭を抱えそうになった。

 その時、少年がゆっくりと手を伸ばし、私の右手に指を指して口を開いた。

「それなら……、交換しても良い。」

私はその指先の方を向き、指しているモノを見て驚き、少年の顔とモノを交互に何度も見た。少年が求めているモノは呪いだった。交換出来る物がないとは言え、流石にポーションの為に呪いを交換するのは、私としても拒否反応が出てしまう。

「いや、これはその……、とても危ない物だからちょっと――」

『良いんじゃないですか?渡したって。』

 私が話している途中、ゼクラスは淡々とそう言った。私は直ぐにゼクラスに言い返そうとしたその時、

『だって、それを解呪出来る時間も体力も、ミリアさんにはもうないでしょう?というか、アレを貰って回復したとしても、帰りながら解呪出来るとは思えませんが。』

ゼクラスは続けて言った。私はそれを聞き、ドキッと心臓が高鳴った。確かにゼクラスの言う通り、いつこれが解呪出来るかは分からない。もしポーションを貰ったとしても、呪いを解呪して帰れる保証もない。だから、ゼクラスの方が正しい。

 ……けれど、これを誰かも知らない、この少年に渡すのは気が退ける。私はソッと少年の顔を見た。少年の目は真っ直ぐに、私と呪いの方を向いていた。これ以外を持っていても、もしかしたら少年の意思は変わらないかもしれない。私は罪悪感を感じながら諦めた。

「……分かった。これをあげるよ。」

 私は大きく息を吐き、呪いを少年に渡す事にした。でも、このままの状態で渡せば、呪いは少年の中に入ってしまうだろう。

「何か、呪いを入れられる物があれば良いんだけど。」

私はキョロキョロと辺りを見渡した。すると、少年は私の方へ近付き、その場に座った。そして、ポーションを側に置き、自分の襟の中に手を入れて何かを私に差し出した。

「これに入れて。」

 少年はそう言って、両手の上にペンダントを出した。それは金の鳥と銀の三日月を象った物だった。多少は汚れてはいるも、不思議と傷や欠けはない。きっと、大切にしている物なんだろう。

「こんな良い物に入れちゃっても良いの?」

「……(コクッ)」

私がそう問い掛けると、少年は静かに頷いた。こんな綺麗な物に、こんな不穏な物を入れるのは気が引けたが、ポーションを貰う為にはコレに入れるしかない。そう思っていると、

『盗品じゃないですよね?』

 ゼクラスがボソッと呟き、私は咄嗟にゼクラスに拳をぶつけた。

『アダッ!!?』

ゼクラスはそのまま宙を舞い、地面へと落ちていった。

(何を失礼な事を言って……。あっ。)

 少年はジッと私の方を、何も言わずに見続けていた。突然、見えもしないゼクラスを殴った事を変に思ってしまっているのだろう。

「な、何でもないよ。あ、アハハ……。」

と少し焦りながら笑い誤魔化し、気を取り直して左手で少年のペンダントへ触れた。少年は一瞬、指をピクッと動かした。このまま盗られるのかと思ったのだろうか。

「大丈夫。約束はちゃんと守るから。」

私はそう少年に語り掛けた。少年は警戒しながらも、ジッと私の左手を見続けた。私はソッと、ペンダントを軽く掬い上げた。そして、少年に約束を問い掛けた。

「一つお願いがあるのだけど、これは君が思っているよりも危険な物だよ。人を簡単に傷つけて、苦しませる事が出来る程の。……だから、決して悪い事には使わない事を約束出来る?」

「……分かった。」

 少年は私の問い掛けに、小さく頷いて答えた。私はまだ少し戸惑いが残りつつも、少年の事を信じてペンダントへ右手を持っていった。そしてゆっくりと、右手の呪いをペンダントへと当てた。呪いは光のベールと共にペンダントへと入り込んでいき、やがて私の右手から消えていった。手をペンダントから離して、ペンダントの様子を見た。外見には特に変化は見られず、呪いの気配も完全に感じ取れなくなった。

(いけた……かな?)

私は自分の右手を見た。もう一度、フィリアにリンク・オンをしてアナライズを使えれば、呪いがちゃんと入ったかを確認出来る。けれど、そんな余裕は当然ない。

「これで大丈夫……だと思うよ。」

 私は少年にそう言った。少年はペンダントを胸元まで持っていき、ジッとペンダントを見詰めた。そして、ペンダントを襟の中に入れると、地面に置いたポーションを取り、

「はい、コレ。約束の……。」

少年は私にポーションを差し出してくれた。

「ッ!ありがと!」

 私は奪う様な勢いで少年からポーションを受け取り、一気に飲み始めた。

(――ッ!?)

酷い味のポーションが、口の中に広がってくる。更には臭いも、外と内側から漂ってきた。吐き出しそうになるも、私は一滴も溢さずに一気に飲み干した。

「~~ッ!!」

ポーションの瓶を口から離すと、私はあまりの不味さに身体が悶えてしまった。……でも、身体の力が漲ってくるのが分かった。

(これなら……。いくよ、ゼクラス!)

『ハイハ~イ。』

 心の中でゼクラスを呼ぶと、ゼクラスはフラフラと私の側へと飛び、その姿をデバイスの形へと変えた。私はゼクラスを手に取り、呼吸を整えて集中した。そして、

「『リンク・オン フィリア』」

私はフィリアにリンク・オンをすると、少年は驚きの表情を浮かべていた。私はそんな少年の手を優しく握り、魔法を唱え始めた。

「[癒しの風よ。彼の者に息吹き、其の身を癒したまえ。]……【ヒール・エアリアル】」

 魔法を唱えると、安らかな緑風が少年の身体を通り、優しく身体に纏った。少年は何が起きたのか分からず焦っているも、徐々に少年の身体にあった傷を癒していく。

「あっ……えっ……?」

痛みがなくなった事に驚いたのか、少年は私から手を離して頬や腕の傷があった場所を触り始めた。私は困惑している少年に向け、満面の微笑みを掛けて立ち上がった。そして、

「ありがとう。君のお陰で本当に助かったよ!」

私は少年にお礼を言い、その場から急いで走った。

「行くよ、ゼクラス。」

『大丈夫ですか?体力を温存しなくちゃなのに、あんな魔法を使っちゃって。』

「良いの!後は根性で帰るから。――『リンク・オン ウィンターズ!』」

 私は、箒の姿へと変わったゼクラスに跨がり、再び空へと飛び立った。そして、少年の方へ再び向いて微笑み、

「君に精霊様のご加護があらんことをッ!!」

そう言いながら手を大きく振り、更に空高くまでへと飛んでいった。


………………


『しかしあの子供、その手の事にちょっと知識がある様でしたね。』

 街の上空を飛んでいる中、ゼクラスはボソッと言った。だから何?と思うと、続けて話していく。

『もしかしたら犯人だったりして?』

ゼクラスはそう言って笑った。私は手を振り被り、ゼクラスを叩いた。

『アイタッ!?』

「そんな訳ないでしょ。私の恩人に馬鹿な事を言わないの。」

そうやり取りしながら、私達はやっと家へと目指し始めた。

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