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第13話 王妃様の治療

 涼しいそよ風が吹き、満天の夜空の月明かりが照らされる。この夜空に飛ぶ鳥も居らず、広々とした空の空間。下には灯が灯った、人々が賑やかさ溢れた街があった。私達はそんな空を、悠々と王都を目指して飛んでいた。すると、

『今さらですけど、方角は此方で合ってます?』

 ゼクラスがそう聞いてきて、私は「ウッ――!」っと心臓が跳ね上がった。確かについ最近行ったけれども、途中の襲撃騒動でその先の道が分からない。私はそっと下を見て、記憶を思い返し始めた。

(王都に向かう時に出た門はアソコ。そこから道を辿って、襲撃があった場所はあの道の先。そこから更に道を辿れば……。)

私は指を指して、道を思い出しながら指で辿っていった。

「合っている……筈?」

『大丈夫ですかー?空で迷子にならないで下さいよ。』

「五月蝿い。元はと言えば、提案したのはアンタでしょ!……ハァ、地図でも持ってくれば良かったかなぁ?でも、今から戻るにしても時間が勿体ないし、そんな都合良く手元にある訳ないし。」

 勢いだけで飛び出してきた事を後悔しつつ、私は下の街を眺めた。下に見える街は、私達家族が治めている街。夜の中でも活気に溢れながらも、少しずつ寝静まり始めていた。

(前世の記憶を思い出してから、色々とあったお陰で街に赴く事も出来なかったよね。……一段落したら、お母様にお願いして行ってみようかな?)

私はそうしんみりと思いながら、前へ向き直した。そして、前へ指を指した。

「兎に角、あの下の街道に沿って進めば王都に辿り着く。もし途中で間違えても、あの大きな城なら見える筈。……というか、ゼクラスも道を思い出しなさいよ。」

 私は手を下ろし、軽くゼクラスを叩いた。

『え~っ!?あの道中が暇過ぎて、道順なんて全然覚えてないですよ~。』

「それでも!多少なり、覚えている事ぐらいはあるでしょ。時間も限られているんだから、早く辿り着いて帰らないといけないんだからね!」

私は強めの口調で言った。するとゼクラスは、

『ん~……。』

と小さく唸り声を上げ始めた。きっと、思い出してくれているのだろう、とそう思った。……しかし、

『やっぱり、全然覚えてないですね。特に空からだと、余計に分からないですから。』

ゼクラスはそう笑って言った。私はゼクラスを見ながら、

(あまり期待はしていなかったけど、多少でも覚えててくれたら良かったのに。)

そう思いながら、軽く溜め息を吐いた。

「じゃあ、取り敢えずはあの街道に沿って進もう。後は道を間違えない事を祈るだけだ。」

 私はそう言い、下の街道を確認して前を向いた。すると、

『まあ、一番良い方法は更に上まで飛べば良いんですよ。今日は雲一つない綺麗な夜空ですから、遠い所もきっと見えますよ。』

ゼクラスがそうアドバイスをし、私は上を見上げた。確かに空高く昇れば、ここからでも城が見えるかもしれない。

「それじゃあその方法でいきましょ。その上で、あの街道に沿って進めば見えるに違いない。」

私はゼクラスの方へ視線を向けて言った。するとその時、

『ハイハーイ。じゃ、しっかり捕まってて下さいよ?』

「いや、そんな勢い良く――」

《ブワンッ!》

「ちょっ――!」

 ゼクラスは突然。勢い良く空高々に飛び始めた。穏やかなそよ風は強風と化し、私は咄嗟に身を屈めてゼクラスを握り締め、帽子が飛ばされない様に片手で帽子を押さえた。横目で下の街を見ると、どんどん遠く小さくなっていった。その光景をゆっくりと見ていたかったが、そんな余裕もなく目を閉じて伏せた。やがて勢いが徐々にゆっくりとなり、暫くして漸くゼクラスが止まった。私は目を開け、ゆっくりと起き上がった。私達は空高くまで上り、月が物凄く近く感じる所まで到達していた。私が呼吸を整えていると、

『ホラ〜、ミリアさん。良い眺めですよ。』

ゼクラスは呑気にそう言った。私は帽子から手を退かし、その手をゆっくりと空高く掲げた。そして、

《ガンッ!!!ガンッ!!!》

『アダーッ!!?ナンデーッ!!?』

 私はゼクラスを思いっ切り、何度も何度も殴った。ゼクラスは痛みで暴れ馬の様に暴れるが、私はしっかりとゼクラスを握り締めて、振り落とされない様に捕まっていた。

「ねぇッ!いきなり勢いつけて飛ぶんじゃないよ!!振り落とされるかと思ったじゃん!!」

『ゴメンナサイゴメンナサイってー!!』

ゼクラスは叫び、私は最後に全力の一撃を与えた。

『イッターイ!!!』

ゼクラスは最後に叫び、空を浮かびながらグッタリとした。

「ハァ……、馬鹿な事をやっていたらもう疲れた。まだ目的地も見えていないし、病を治せるかも分からないし、それで色々と解決出来るか分からないし……。」

私は身体の力を抜き、深く溜め息を吐いた。

『前途多難ってヤツですね!』

ゼクラスは直ぐに元気を取り戻し、陽気にそう言った。私は直ぐ様に握り拳を作り、

「五月蝿い!」

『アダッー!?』

ゼクラスを再び殴った。


…………


 それから王都を目指して、下の道に沿って順調に進んでいた。そうして暫くして、遠くに大きな灯の塊と、その中央に見覚えのある大きな建物が見えた。目を凝らしてしっかりと見ると、それは王都に違いはなかった。

「ようやく見えた。行くよ、ゼクラス。」

『ハイハーイ。』

「あ、今度はゆっくりと降りなさいよ?じゃないと……。」

私はそっと、手に力を込めた。

『ハイ、ワカリマシタ。』

ゼクラスは早口で返事をし、ゆっくりと高度を下げていった。

 街の全容が見えるまで降り、その上空を飛び回った。街は此処からでもしっかり人々が見える程、この時間でも活気に溢れていた。その活気は、私達が治めている街よりも活気に満ちている。

「流石王都。まだまだ眠りそうにもないね。」

『そんな事よりも、上を見上げられたら見られちゃうかもしれないですよ。』

「……そうだね。念の為にしておかないと。」

ゼクラスがアドバイスを言い、魔法を唱え始めた。

「[我の姿は風であり、自然であり、光である。生きる者達から我の姿を眩ませ、世界から我が姿を消したまえ。]……【ミラージュノード】」

 私が魔法を唱えると、私達の姿が消えていった。これでもしもの事があっても、誰にも見られる事はないだろう。……しかし、

「フゥ……。後少しだろうけど、流石にちょっと疲れてきた。」

魔法を唱えた後、私は身体を前に伏せてしまった。少しずつだけど、身体に怠さを感じ始めた。まだ動ける事には動けるが、モタモタしている暇はなさそうだ。

『急いだ方が良いですね。ほらミリアさん、頑張ってください。』

ゼクラスは他人事の様に言った。

「あぁもう!早く城に行って、王妃様を見つけるよ!」

私は思いっ切り起き上がり、城へと向かっていった。

 城は灯が少なくなり、寝静まっている様だ。廊下の所々に光が動いており、使用人か衛兵が歩き回っているのは分かった。この城から王妃様を見付けないと……。

「とは言え、何処に居ると思う?」

城は大きくて幾つも部屋はある。外から見える部屋だけではなく、見えていない内側にだってある。外を回って城の中に入って、一つ一つの部屋を見て調べている時間も体力もない。それに、使用人らに見つかったらタダじゃ済まない。どうしようかと考えていた時、

『僕的には上じゃないですか?王様とかって、上から見下して威張っているイメージがありますし。』

「どういうイメージよ……。私達の王様はそういう人じゃないよ。この街の人達や活気を見れば、一目瞭然でしょ。……まあでも、上の部屋に居る可能性は高いね。」

 私達は城の頂辺まで飛んだ。そして、グルッと城の周辺を飛び回った。

(王妃様が居そうな場所は……。)

幾つもの部屋の中、どれも同じ様な部屋ばかりで分からない。窓もバルコニーの扉も閉ざされ、カーテンで部屋の中が見えない。カーテンから光が溢れている部屋は、恐らく違う気がする。となると暗い部屋だと思うが、当てもなく入っていく訳には行かない。時間がない事もあり、私は少しずつ焦りを感じ始めた。すると、

『アソコじゃないですか?』

 ゼクラスがそう言い、ある部屋に向きを変えた。その部屋は他と殆ど変わらないが、確かにバルコニーは広くて綺麗な花々が生けれれ、高価そうなテーブルと椅子が並べられている。ただ、本当にそこが王妃様の部屋かは分からない。

「どうしてアソコだと思うの?」

『勘!……後、なんか上品そうな気がした。』

と、ゼクラスは自信満々に即答した。私は余りにも勘頼りな予想に、ガクッと呆れてしまった。しかし、いつまでも飛んでいる訳にはいかない。取り敢えず、あそこから見てみる事にしよう。

「行こう。王妃様が居る事を祈って。」

私はそう祈りを込め、私達はその部屋に向かった。

 バルコニーに静かに降り立ち、ゼクラスから降りて扉へと向かった。そして、扉へ手を掛けてゆっくりと引いた。すると、

《キィ……》

扉は小さな音を立てて開いた。

『鍵を掛けていないなんて、随分と無用心ですね〜。』

「(シッ!静かに……。)」

『……僕の声、誰にも聞こえませんよ。』

ゼクラスは静かにツッコミを入れてきた。そう言えばそうだったと、つい明後日の方向に視線を向けた。しかし、直ぐにゼクラスに向き直し、

「(兎に角静かにして。)」

『……』

私がそう言うと、ゼクラスは何か言いたげな雰囲気を醸し出している。私はそんなゼクラスを無視し、開いた扉の隙間から部屋の中を覗いた。

 部屋は暗いが、ほんのりと何かが輝いている。その光のお陰で、なんとか部屋の中は見えた。部屋の中には女性らしい装飾品と幾つもの種類の植物に、薄い天幕が付いた大きなベットがあった。もしかしてと思い、部屋に起きている人が居ないか確認した。誰も居ないと分かると、私は魔法を解いて静かに中に入っていった。その時突然、鼻に強烈な匂いが襲ってきた。

「うっ……!?(何、この匂い!)」

私は鼻を押さえるも、それでも匂いが凄まじい。この香りはなんだか薬品の様な匂いの上、幾つもの香りが混ざって強烈さを増している。しかもそれ以外に、嗅いだ事のある嫌な匂いもしてきた。私は静かに急足でベットの側に寄り、天幕を静かに捲った。

 そこに寝ていたのは頬が細くなり、全身の骨が浮き出てしまっている女性がいた。この人がアルティア様で間違いないだろう。

『ビンゴ!僕って運が良いですね〜。宝くじでも買おっかな?』

「(静かにして!)」

『ハーイ……。』

呑気なゼクラスに一喝し、ゼクラスを黙らせた。そして再び、アルティア様に目を向けた。こんな近くで見ても、アルティア様が生きている様には見えない。けれどじっくりと見ると、ほんの少しだけ胸が上下に動いているのは分かった。まだ生きている事は間違いなかった。表情は暗くて分からないが、かなり苦しい事に違いない。私がジッと観察していると、

『そろそろ、治療して帰りましょ?』

ゼクラスがそう言った。

「……そうだね。行くよ、ゼクラス。」

 私は意を決して、ゼクラスを構えた。そして、

「『リンク・オン フィリア』」

リンク・オンを発動すると、暖かな光と穏やかな風が私達を包み込む。光と風が過ぎ去ると、私は白い修道服を着た姿になった。無事にフィリアにリンク・オン出来た事を見てから、箒から杖に姿を変えたゼクラスを握り直した。そして、杖先をアルティア様の真上に掲げ、目を閉じて魔法を唱えた。

「【アナライズ】」

 魔法を唱えると、杖先が淡く輝き出す。それと同時に、私の頭にアルティア様の状態が流れてくる。私はその情報の中から何処に病が巣食い、どれ程の重病か、治す方法……。それらを判明させる為に、アルティア様の身体に沿わせて杖を動かしていった。……しかし、

「……んっ?」

 私は頭を傾げた。私は何度も、ゆっくりと丁寧に探し直した。しかしそれでも、病が巣食う場所が見つからない。

「どういう事?」

身体は確かに弱ってはいる。けれど、病が身体を蝕んでいる情報も反応もなく、身体自体は健康体そのものだ。細々となってしまっているのは恐らく、食事がまともに摂れずに痩せ細ってしまっているのだろう。病に患っているなら何かしらが見付かる筈。それでも見付からないとなると、

(……フィリアでも見付けられない病となると、私にはどうする事も出来ない。)

私は杖を手元まで戻し、悲観的に考えていると、

『病気じゃないなら、もっと別の物ですかね?』

 ゼクラスはそう言った。

「別の物って?」

『ホラ?精神的な病気だとかでも病の様に衰弱してしまう事もありますし、フィリアの力で見付からないならその可能性もあるんじゃないですか?流石のフィリアも、精神方面の病は分かりませんから。……まあ後は、病以外で焦点を当てるとか?……毒物みたいな物とか?』

ゼクラスは淡々とそう言い、私は困惑して大きい声を出した。

「冗談は止めて!もし、毒物なんかの反応が見付かったら、かなり大事になるよ!?」

私はそう言うも、ゼクラスは口調を変えずに言い返した。

『そうでしょうね~。でも、国の上に立つ人を狙う者が居ないとは限らないでしょ?国に対しての不平不満、己の野望や野心。それらを持つ人が居るなら、行動を起こす事だってあり得るんです。……ま、本当に毒物があるかも分からないですし、可能性の話ですよ。』

ゼクラスは怖い事を、楽観的に言った。私はゼクラスの言葉を聞いて、胸の脈拍が早く大きくなった。私は大きく息を呑み込み、アルティア様の方を向いた。そして、

「……兎に角、もっと視野を広げて更に広く探ろう。病以外の物なら何でも。」

私は再びアルティア様の上に杖をかざし、さっきよりも更に集中した。命を削り奪う、ありとあらゆる可能性の物。それを見付けるべく、隅々まで調べて情報を集めていった。

 ――そして、遂に見付けた。アルティア様の左胸の奥に、小さく気配も殆どないが、嫌になる程不気味な気配を放つ物を感じた。私はフィリアの知識を元に、その気配のモノを特定した。

「これ、病気でも毒でもない。……『呪い』だ。」

更に探ってみれば、その呪いがある場所から全身にかけて、僅かな呪いを流しているのが分かった。それが見えないモノとなって身体の隅々にまで広がり、体を蝕んでいるのだろう。それと同時に、アルティア様の魔力がほんの少しずつ、集中しなければ分からない程の僅かの量が、その呪いによって消えていた。こんな呪い、どんな人でも見付けるにはかなり困難な筈だ。だから皆、不治の病だと思っていたんだろう。でも、私がフィリアにリンク・オンしたからこそ、この呪いを見付ける事が出来た。

『この呪い。結構、質が悪いですね。かなり厳重に隠されている上に、掛けられた側の魔力を喰らって呪いを持続させ、全身に呪いを蓄積させていく。それも、短期的ではなく長期的に苦しみを与えつつ、確実に死に至らしめる呪い。オマケに強い。……少なくとも、並々ならぬ誰かに掛けられた物ですね。……つまり、僕の予想は当たっていたって事ですよね!』

ゼクラスは嬉しそうにはしゃぐ。私は直ぐ様、ゼクラスを叩いた。

『アダッ!?』

「そんな嫌な予想が当たって喜んでいるんじゃないよ。……原因は見付かったらなら、今度は解呪しないと。」

 私は呼吸を整え、ゼクラスを握り締めて構え直した。そして、掛けられている呪いへ意識を向け、集中しながら魔力を練ろうとした。その時、

『一応言っておきますけど、フィリアにリンク・オンしていても、生半可な魔法ではこの呪いは解けませんよ?』

ゼクラスは冷静な口調で言ってきた。この呪いは確かに、生半可な魔法では解けないかもしれない。けれど、全力を出したら倒れるかもしれない。緊張の余り、私の両手が震えてくる。……でも、

(それでも……、やるしかない。)

私は両手に力を込め、両手の震えを無理矢理止めた。

「呪いをアルティア様から抜くのを優先に。呪いを消し去るのはその後だ。」

かなり身体はキツくなっているが、最後の踏ん張りだと思って、魔力を全力で練り始めた。そして、

「[癒しの力よ、聖なる光と成りて具現せよ。彼の者を包み込み、其の身を蝕む魔を溶かし、もたらす苦痛から救いたまえ。]……【グライオン・ディスペリア!】」

 杖の先端から光のベールが現れ、アルティア様の胸へと優しく掛かった。ベールが淡く光輝き続けていると、アルティア様の左胸から黒い影が浮かび上がった。これが呪いの根元だろう。無事に呪いがアルティア様から抜けている。ただ、予想以上に私の魔力が減り続けていた。

(もう少し、もう少し頑張ろう……。)

そう意気込み、両手に力を込めて魔法を放ち続けた。身体の隅々に溜まっていた呪いは、元の場所にゆっくりと戻っていき、黒い影に混ざっていく。黒い影は少しずつ浮かび大きくなり、ベールがそれを逃さない様に、包み込んで膨らんでいく。

 やがて、黒い影がアルティア様から完全に切り離された。光のベールが黒い影を逃がさない様に包まれ、私の元に移動してきた。私は杖を持ち直して右手を広げると、ベールはゆっくりと私の掌へと降りてきた。黒い影の大きさは、私の掌と比べると結構小さい。けれど、そんな小ささでも禍々しく嫌な雰囲気がかなり感じられる。

「なんとか……なったかな?」

私は小さく溜息を吐いた。

『大丈夫なんじゃないですか?というかミリアさん的に、これ以上は無理でしょ?』

「そうなんだけども……。取り敢えず、【アナライズ】」

私は杖の先をアルティア様に向け、もう一度魔法を唱えた。杖先に淡い光が輝き、アルティア様の状態が頭に流れてくる。左胸の奥に潜んでいた呪いの根元は消え、全身に広がっていた呪いは完全になくなっていた。もうこれ以上、身体が蝕まれる事はないだろう。

(良かった……。)

私は胸を撫で下ろした。後は魔力は少ないが、安静にしていれば元に戻ってくる。取り敢えず、私が出来る事はやり遂げられた。

『これで、あの王子様の怒りがなくなれば良いですけどね~。』

 ゼクラスは呑気そうにそう言った。そもそもの目的はそれだ。アルティア様の病を治せれば、また元気になれる筈。そうすれば、無理矢理進められていたあの暴言王子の婚約話がなくなり、積もり積もった怒りも収まるだろう。そのまま、私がやらかした事を流してくれる。もしくは、ちょっと減刑してくれれば嬉しい位だ。

『そうなると良いですね~。』

ゼクラスは私の思考を読み、そう言ってきた。その言葉だけで、絶対にニヤついて言っているだろうと分かった。私はゼクラスを折ってやろうと思ったが、これ以上時間を掛けている場合でもない。私は大きく息を吐き、

「兎に角、後はまた誰にも見付からずに家まで帰るのと。……まだ消えようとしない、『呪い(コレ)』をどうにかしないと。」

私はそっと、右手の方へ目線を向けた。

 行き場をなくした呪いは、未だにベールの中で蠢いている。きっと、次の宿主を探しているのだろう。ベールの光で徐々に解呪されて消えているも、完全に消えるまで時間が掛かりそうだ。こんな物を解呪し切らずに何処かに放ったら、何が起こるかも検討できない。けれど、解呪が終わるまでに私が持つかも分からない。ここから帰らないといけないし……。

「『呪い(コレ)』、どうしたら良い?」

私はゼクラスに聞いた。

『う~ん……、それだったら――』

ゼクラスが何かを言おうとした。その時、

《ヒュゥ……》

 入ってきた扉から風が入り込み、掛けられていたカーテンが捲り上がった。月明かりが部屋に入り、部屋全体に明かりで満たされた。その時、アルティア様の目が私に向いていた事に気が付いた。

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