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第11話 家族会議

 私達は楽しい食事を終え、応接室でお茶を飲んでいた。この場に居るのは、私とお母様とお爺様、バルドお兄様とヨルネスお兄様、それから執事長とメイド長の七人。ついでにゼクラスが居る。美味しそうな茶菓子を用意して貰って、楽しいお茶会が始まる。……なんて事はなかった。

「…………」

 先程迄の楽しい食事の雰囲気とは違い、誰一人として口を開かず、張り詰めた空気が漂っていた。当然、その原因は私の事。王都に向かう道中での襲撃、ベルドラルド様との婚約者候補としての面会、そして暴行からの候補者から外れた事。ゼクラスやリンク・オンの事は伏せ、話せる事は全て話した。その結果が今の状況である。

「(これからどうなるんですかね~?)」

ゼクラスは呑気に、私の側で飛び続けている。その呑気さを分けて欲しいよ、と思いながら家族の表情を伺った。バルドお兄様は呆れた表情を浮かべ、ヨルネスお兄様は静かに目を閉じていた。お母様とお爺様は顔を伏せて、どういう表情か分からない。……が、何だか威圧感が身体から滲み出ている気がする。

(やっぱり、覚悟を決めるしかない……。)

私は心を落ち着ける為に深呼吸をした。そして最後に大きく息を吸い込み、息を止めて意を決して声をあげた。

「私――」

「今から兵を集め、王都へ進撃するぞ。私の可愛い孫娘を愚弄した罪、その身を持って償わせてやるぞ。」

 私が一言言おうとした瞬間、お爺様が口を開いて低く怖い声を出した。しかし、それは私への咎めではなく、いきなり国への謀反を繰り出そうとしていた。

(えええええぇ!!?)

私はそれを聞き、口をポカーンと開けて固まってしまった。

「(ワイルド~。)」

(いや、そう言う軽い事じゃないから!?)

ゼクラスはそう笑って、私がそれにツッコミを入れた。この場に身内だけであろうとも、いくらそれが冗談であったとしても、一族全員が反逆の重罪は課せられるのが目に見えている。私は慌てて止めようとすると、

「駄目ですよ、お父様。」

 お母様がおっとりとした口調で止めた。私はホッと一安心した。……しかし、

「ミリアの可愛さを知る民にまで手を出しては駄目ですよ。ミリアを候補止まりにした陛下とその臣下達、それから殿下を暗殺にまで抑えておかないと。」

お母様はにこやかに、しかし確実に、誰を暗殺しようとしているのか、ハッキリと言ってしまっている。私は再びポカーンと、頭と全身が真っ白になった。そして更に追い討ちを掛ける様に、ヨルネスお兄様が口を開いた。

「それだったら、僕が学園で殿下を拐って監禁して、僕のミリアの可愛い所とか素晴らしい所を毎日延々と泣き叫ぶ迄伝えて、僕のミリアを馬鹿にした事を後悔させますよ。」

三人は不敵で悪い笑みを浮かべて笑っていた。冗談だろう、冗談だろうと思っていても、あの笑みは本気にも見える。私はそれとなく止めに入った。

「お爺様方。あまり笑えない冗談を言わないでください。」

そう真剣な眼差しで言った。……しかし、お爺様は険しい表情を浮かべて返した。

「ミリア。これは重大な問題なのだよ。我々一族にとって、一番大切な存在を侮辱されたのだ。……コレでは生ぬるい。生ぬる――!!」

「では、私は国外追放される準備を致しますので、これで失礼させて頂きます。」

 私は呆れながら淡々と答え、椅子から立ち上がって部屋から出ようとした。するとお爺様達は、

「ま、待つのだ!?ミリア!!」「冗談よ!?だから家を出る準備とか――。」「ミリア〜……行かないでぇ〜……。」

と情けない声を出して、三人は縋る様に私を止めてきた。私は溜息を吐きながら、三人を離そうと軽く肩を押していた。しかし、中々離れようとはしてくれなかった。

(処罰が良くても、一族が路頭に迷う可能性があるのにも関わらず、どうしてこう変な方向に話が発展するのかしら……。私が原因なんだけれども!!)

私は片手で頭を抱えてしまった。自分で起こしてしまった事だけど、こうも変な流れに流れるとは思わなかった。

「(はーっはっはっは!!愉快ですね〜、この家の方々は。)」

ぜクラスは事の次第を間近で見てた奴なのに、事の重大さを分かっていないみたいに大笑いしていた。三人は未だに離れようとてくれないし、話も進まないし、どうしよう……。そう思っていると、

「お爺様もお母様もヨルネスも、いい加減ミリアから離れてください。話が進みません。」

 そう言い、バルドお兄様が私の側に寄って肩に手を置いた。そして、縋り付いている三人を手で払い退け、虫を払う様にシッシと手を振って席に戻る様に促した。三人はメソメソとしながら落ち込み、元の席へと戻っていった。

(流石バルドお兄様……。ようやくコレで話が進む。)

そう思って、私も席に戻ろうとした。するとその時、

《フワッ――》

 突然、私の身体が浮かび上がった。何が起きたのか分からずにキョロキョロしていると、バルドお兄様の顔が近くに来ていた。

「――ッ!!?」

私は何故か、バルドお兄様にお姫様抱っこされていた。バルドお兄様は表情を変えず、私を抱き抱えたまま自分の席へと戻っていき、自分の膝の上に私を乗せた。

「ちょっ!バルドお兄様!!?」

「何だ、ミリア?」

バルドお兄様は私の顔を覗き込む様に、顔を近付けて見てきた。私はその近さに驚くのと同時に、バルドお兄様の美形の顔に見惚れかけた。

(て、転生してから慌ただしかったけど、そう言えば家の人達って美形揃いだよね……。)

私はそう思いながら、バルドお兄様から顔を背けた。そして、目線を背けたまま静かに降りようととするが、バルドお兄様は頑なに抱き抱えた手を緩めず、膝の上から降りる事が出来なかった。

「(無理ですよ〜ミリアさん。離す気が一切なさそうですよ〜。)」

 ゼクラスは笑いながら言い、私は諦めてバルドお兄様の上で大人しくした。……その時、鋭い殺気の様な気配を感じた。私はソッと、その方向に目を向けると、鋭い眼光を飛ばしてくる御三方の姿が目に入った。それは当然私ではなく、私を抱き抱えるバルドお兄様へ向けられたものだった。――が、当の本人はそれを分かっていながら、私を降ろす素振りも見せない。というか、こんな事をやっていると全然話が進まない。私は咳き込んで話を始めた。

「話を戻しますが……。どんな理由があろうとも、私はベルドラルド様に無礼を働きました。つきましては、その責任の全ては無礼を働いた私が引き受けるつもりです。お母様やお兄様達、お爺様達には一切ご迷惑をお掛けするつもりはありません。……なので、処罰が下るまでは家に居させてください。」

 私はそうスラスラと述べて、家族に頭を下げた。するとそれと同時に、目に涙が薄らと出てきた。色々とやらかした後に気持ちは整理していたが、いざその時になったらどうなるんだろうか、という不安感が襲ってきた。私がゆっくりと頭を上げると、先程までの空気が変わって落ち着いた雰囲気に包まれていた。私がキョトンとしていると、バルドお兄様が優しく頭を撫でてくれた。そして、お母様が立ち上がり、ゆっくりと私達に近付いて頬に手を優しく当ててきた。

「良い、ミリア?貴女は私達にとって、かけがえのない宝物なのよ。だから、貴女に何が起ころうとも、私達家族は貴女を絶対に守ってみせるわ。」

そう言い、私の頭を抱き締めてくれた。更に、

「そうだよ、ミリア。僕の大切な大切な妹を見捨てるなんて、僕達はそんな事をする訳ないよ。」

ヨルネスお兄様も近付き、私の両手を優しく握りしめた。そして、

「どんな事があっても、俺達が助けてやる。だから、いつまでも俺達の側に居ろ。」

バルドお兄様は優しく肩を抱き締めてくれた。私は家族の優しさに触れ、家族に寄り添って泣き始めてしまった。お母様達は泣き続ける私を、静かに寄り添い続けてくれた。

「(まあ〜、お優しいご家族な事で。)」

 ゼクラスはイヤらしい笑みを浮かべ、泣いている私の視界に入り込む様に動いてきた。良い雰囲気が台無しだと視線を送って怒りたくなったが、一瞬だけゼクラスの表情に違和感があった。けど、私の視線に気付いてか、直ぐに同じ笑み以上のイヤらしいを浮かべ始めた。それを見た途端、涙がスッと目の奥に戻っていった。

「もう大丈夫です。落ち着きました。」

そう言って、私は身体を起こした。お母様は私の頭を撫でて、安心した表情を浮かべていた。バルドお兄様とヨルネスお兄様に顔を向けると、二人共優しく微笑んでいた。私はこの世界でも、優しい家族に囲まれて幸せだと感じていた。……そう思っていると、

「「「取り敢えず、あの人(お父様)には一発殴らないと。」」

……お父様の寿命も残り僅かになった様です。

「それよりも!兄様はいい加減、ミリアを降ろしてあげて下さい!!嫌がっていますよ!!」

「そんな事は無いだろ?なあ、ミリア。」

 バルドお兄様の膝の上で、ヨルネスお兄様が私に抱き掛かってきた。バルドお兄様は私を更に抱き締め、ヨルネスお兄様に渡さない様にしている。そのせいで、私は二人の間で揉みくちゃにされてしまっていた。別に痛みはないんだが、息苦しさがくる。話も全然進まないし、私は咄嗟に二人に提案をした。

「じゃ、じゃあ間を取って、私を降ろして一人で座らせれば――」

「「それは駄目。」」

お兄様達は息ピッタリに、私の顔を見て拒否した。私はそれ以上に言えなかった。……というか、バルドお兄様も以前と比べて、何だかシスコンの気質が出て来ていないだろうか?すると、

「ハイハイ二人とも、そこまでよ。」

 お母様が止めに入った。ヨルネスお兄様は悔しそうに、私から離れた。私は流石に可哀想と思い、ヨルネスお兄様に顔を近付けて小声で、

「(また後日、私を膝の上に乗せても良いですよ?)」

そう言ってあげると、ヨルネスお兄様の眼が輝き、スタスタと元の席に着いた。私はその様子を見て、コレは一度乗せたら一日離されない気がした。そう思っていると、お母様が私に顔を近付けてきた。そして、

「お母様も、ミリアを膝の上に乗せたいな。」

そう期待の眼差しで見てきた。

「……また後日。」

私は困り笑みを浮かべて答えた。お母様は嬉しそうに微笑み、私の頬にキスをして戻っていった。私は小さく溜息を吐くと、ふとお爺様とも眼が合った。何も言わないが、言いたい事は直ぐに分かった。

「お爺様も後日……。」

そう言うと、お爺様は満面の笑みを浮かべて笑った。

「(モテモテですね〜。)」

(嬉しい様で嬉しくない様で……。)

私は苦笑いを浮かべた。

 それから、先程までの暗い雰囲気はなくなり、皆で軽い談笑をし始めた。相変わらず、バルドお兄様の膝の上に乗せられているけど。お菓子とかに視線を移すと、お兄様がそれを察して代わりに取ってくれる。お兄様便利!……とは流石にならない。でも、抱き抱えられてしまって、身動きもマトモに出来ないから仕方が無い。私はソッとお茶に視線を移すと、突然お兄様が手を上げた。そして、メイド長が何も言わずに、新しい温かいお茶を用意してくれた。私は作り笑みを浮かべて、ティーカップのお茶を口にした。するとその時、

「まあ、殿下の婚約を早まらせた陛下の気持ちは分からなくはないけど、それをミリアまで巻き込むのは納得しないわ。」

「……?どうして陛下は、ベルドラルド様の婚約を早まらせたのですか?」

 私がそう聞き返すと、お母様はしまったという表情を浮かべて口元に手を当てた。そして、お爺様に静かに眼を合わせた。お爺様は少し考える素振りをして、頷いて話し始めた。

「実は、これはまだ一部の者達にしか通達されていない話だ。だが、何れこの国の皆に知れ渡る事だ。」

先程のお爺様の雰囲気と違い、真剣な眼差しを向けていた。お母様も同じ様に真剣……というよりも、思い悩む様な表情を浮かべていた。私達兄妹は息を呑み、静かにその話を話し始めるのを待った。暫くして、お爺様は事の次第を話し始めた。

「アルティア様が、三年前から病床に伏せている。それも、不治の病に罹っており、日に日に症状が悪化しているそうだ。……今も王城で療養されてはいるが、アルティア様の意向で表向きでは外交の為に、辺境の地域に赴いているとしている。」

 アルティア王妃……。ベルドラルド様のお母様。

「腕の立つ医師達が診ているが、治る気配も改善する見込みも残念ながらない。残りの命がいつまで保つかも分からない。……陛下としては、産んだ我が子の行先を見せて、アルティア様を少しでも安心させて見送りたかったんだろう。だが、肝心の殿下がその気になれていないが、それも致し方ない事だ。」

王妃様が不治の病に罹っていたなんて、私は全く知らなかった。そういえばベルドラルド様と会ったあの日、薬草学の本を沢山積み重ねて読んでいた。ベルドラルド様は、アルティア様の病を治そうと努力をしていたんだと、私は理解した。……あの庭園にあった草花はもしかして、病を治す為の薬草を育てていたのかもしれない。

(そんな状況になっていた上で、私はアルティア様の話題を出してしまったの……!?)

《カチャンッ!》

 私は動揺して、ティーカップを勢い良くソーサーに当てて音を鳴らしてしまった。すると、その場に居る皆が私の方に注目した。

「大丈夫か、ミリア?」

バルドお兄様が、私の顔を覗き込む様に見てきた。私は包み隠さずに話した。

「い、いえ……。実は、面会の時にベルドラルド様の前でアルティア様の話題を出してしまって、それで気に触ってしまったのではないかと考えてしまって。」

私はそう言って、顔を下に伏せた。きっとベルドラルド様は、気も進まない婚約話を幾つも受けていた上に、何も知らない私がアルティア様に会いたいなどと言ってしまったせいで、一層不機嫌になってしまったのだろう。そう考えていると、

「ミリア。さっきも話したけども、この事は一部の者にしか知られていない。知らなかった貴方が、アルティア様の話題に出してしまっても仕方が無い事よ。」

そうお母様が言ってくれた。しかしそうは言われても、やっぱり気にしてしまう。すると、

「そうね。もう遅い時間ですし、ミリアも色々とあって疲れているでしょう?気持ちを落ち着ける為にも、今日はもう寝ましょうか。」

 お母様が手を軽く叩き、そう言った。お爺様もお兄様達も、お母様の言葉に頷いた。私は顔を上げ、

「ごめんなさい。」

と謝った。けど、お母様は微笑みかけてくれて、

「大丈夫よ。どんな処罰が下ろうとも、ミリアは私達が必ず守ってみせるわ。」

そう言ってくれた。その場に居る皆はお母様の言葉に頷いた。私はそれを見て、少し心が落ち着いた。

(どんな処罰が下るか、楽しみですねぇ。)

 空気を読まない馬鹿が一体、呑気に私へ笑い掛けてくる。この場に人が居なければ、捕まえて壁に叩き付けていたのに……。

「それじゃあ、寝室に行こうか。ミリア。」

 バルドお兄様は私を抱えたまま、立ち上がった。

「お、お兄様!降ろしてください!自分で歩いて行きますから!?」

「あ!?ズルい!!」

ヨルネスお兄様も立ち上がり、私達の側に寄ってきた。

「ミリアは疲れているだろう?それと、ヨルネスはもう少し身体を鍛えてからだ。」

「「うぅ〜……。」」

バルドお兄様は微笑み、私を抱き抱えたまま降ろそうとしなかった。私とヨルネスお兄様は、一緒に同じ悔しい声を出した。私は諦めて、バルドお兄様の肩にしがみ付いた。すると、

「おやすみなさい、ミリア。」

「おやすみ。ミリア。」

お母様とお爺様が、微笑んでお休みの挨拶をした。私も微笑み返し、

「おやすみなさい。お爺様、お母様。」

ヨルネスお兄様も私達の後に付いて、一緒に部屋から出ていった。

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