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第1話 悪魔再来

 今日は年に一度の特別な日。夜空を見上げると、満天の星空で埋め尽くされている。私とお兄様はベランダの手すりに捕まり、その満天の星空を眺めていた。すると、お兄様は微笑みながら、私に声を掛けてくる。

「『ミリア』、綺麗な星空だね。」

「はい、お兄様。とっても綺麗です。」

私はお兄様に笑顔を見せ、再び夜空を見上げた。そして、ベランダの手すりに身を乗り出し、背伸びして空に手を掲げた。

「何してるんだい?星は彼方遠くにあるんだぞ?」

「分かりませんよお兄様。もしかしたら、お星様が来てくれるかもしれませんから。」

「ハハハ、そうかもしれないね。けど、あまり身を乗り出すと落ちてしまうよ。」

お兄様は私の肩に手を添え、私を地面に着かせた。すると、

「ヨルネス様、奥様がお呼びになられてます。」

 私達の後ろに居たメイドが、ベランダの扉の前に来ていた。

「分かった、直ぐに行くよ。ミリア、危ない事はしないでね。」

「はい、お兄様。」

お兄様はそう言って、メイドと共に部屋から出ていく。私はお兄様達を見送り、もう一度手すりに捕まって乗り出して空に手を掲げた。

(綺麗な星々……。どれか一つでもいいから、私の手に入らないかしら?)

そう思いながら、星の一つ一つに手を差し伸べていく。けれど、星々は輝き続けるだけで、当然私の元へと降りてくることは無い。分かっていながらも、その事に少し残念な気持ちになってしまった。

 するとその時、一筋の流れ星が空を駆け抜けていく。その星は大きく赤く光り輝き、どの星よりも目立っている。私はその星に見入って、ずっと眺めていた。しかし突然、その星は鳥が空を飛んでいる様な動きをし始め、私はその動きを目で追っていた。やがて星が動きを止め、その場で輝き続けていた。何だろう?と不思議に思っていると、その星は少しずつ、少しずつ……大きく?――星が私の元へと、勢い良く向かって来ていた。そして、

「ハーイ!そこのお嬢さん!僕の姿、見えてますよね。だって、ばっちし目が合ってますから!」

「……。――ッ!?キャアァァァァァ!!!」

 目の前に星だったモノがそう語り掛け、私の意識はそこで途絶えてしまった。全ての記憶を思い出して……。


 私は『ミリアリス・オーベルト・ユートラス』。ユートラス家の次女として生まれ、今日のこの日で十歳を迎えた。優しい家族や使用人達に囲まれ、とても楽しく幸せな日々を過ごしていた。しかし、あの『悪魔』との再会で、私は前世の全てを思い出した。

 私の前世、『倉田美奈(クラタミナ)』は普通の学生だった。それがある日、空から流れ星の様に降りてきた悪魔の口車に乗せられ、悪魔と契約して私は『魔法少女』になった。それから私とこの悪魔。そして、同じ魔法少女になった幼馴染みと共に、突如にして現れた『パンドラビースト』と呼ばれる異形の化物達との戦いに追われてしまった。それはとても辛く苦しく、楽しい学生の青春の日々とはかけ離れていた。だけど、私達は戦いを止める訳にはいかなかった。私達が戦わなければパンドラビーストを倒す人がいなくなり、パンドラビーストによって誰かが死んでしまうかもしれない。そんな責任を持った戦いの日々を送っていた。

 そしてあの日、私はある事が起きて死んでしまった。それも、パンドラビーストから守った同級生に、色々とあって刺されてしまったのだ。変身していれば、或いは出来ていれば生きていたかもしれない。だけどその時には出来なくて、背中から刺された痛みに悶え苦しみ、倉田美奈としての人生は終わってしまった。そして今、どうやら私は貴族の少女として転生した様だ。記憶を取り戻す前まで、あの戦いの日々を忘れ、新しく楽しい日々を過ごしていた筈だったのに……。あの時と同じ様に、綺麗な星々に紛れてあの悪魔が来るとは思ってもみなかった。


 目が覚め、私は自分のベットで寝ていた。外は既に日が登り、明るい光が差し込んでいる。私はゆっくりとベットから身体を起こし、自分の身体を見ていた。少し不思議な感覚を感じるも、何も変わらない気がして、あの時の事が夢の様に感じた。――いや、きっと夢だったんだろう。楽しい喜びの日に、そんな出来事が起こる訳がない。それに安心してしまい、

「ハァ……。何だか、嫌な夢を見た気がしました。」

頬に手を付けて、ついそう口走ってしまった。するとその時、

「それは大変でしたね~。」

 横から聞き覚えのある声が聞こえた気がした。まだ寝ぼけているのかと思い、私は両目を手で擦って、独り言を続けて喋った。

「突然、流れ星が降ってきたと思ったら、悪魔が降ってきたなんて……。そんなの夢に決まってます。」

「悪魔ではなく、可愛い天使ですよ。」

「……。」

ベット横からアイツの声が聞こえてくる。忘れていたあの悪魔が、自称天使とかふざけた事をぬかしながら。でも、それも気のせいだと思う事にした。目を瞑り、精霊様や女神様に祈りを捧げる様に手を合わせる。

「ああ、本当に天使様が来られたら、どんな良い事が起きるのでしょうか?」

「それはもう、とっても素晴らしい事を授けれますよ!」

流石にもう気のせいでも、夢でもないと確信してしまった。私は片目を薄っすら開けて横目でチラッと、声のする方向を見る。そこに確かに『アイツ』が居た。前世の私を魔法少女にしたあの悪魔が、満面な笑みを浮かべながら。

 その姿は悪魔や天使等という神秘的な存在でも、魔物や動物の様な姿ではない。妖精の様な小さい小人程の大きさで、機械で出来た翼と鎧の様な服を着ている。SF系の映画とか漫画で出てくる、アンドロイドの様なあんな感じの……。そんな自称天使の悪魔が、憎たらしい程にこやかに笑っている。

「ハァ……。」

 私はもう諦め、横に飛んでいる悪魔へと向いた。すると、悪魔はニッコリと笑った。その姿をよく見てみるが、明らかに私の知っているアイツだ。まさか、こんな所で再会するなんて思ってもいなかった。

「はじめまして、綺麗なお嬢さん!私は――」

「『ゼクラス』でしょ。」

私が名前を呼ぶと、ぜクラスは不思議そうな顔をした。

「あれ?何で私の名前を知っているんですか。……あぁ!気絶しながらも、私の自己紹介を覚えていたんですね!」

(何、人が気絶している時に自己紹介してんのよ。)

ゼクラスは喜びながら、私の周りを一周飛び回った。私は心の中で突っ込みを入れつつ、止まったゼクラスに身体を向けた。

「美奈、倉田美奈。覚えているでしょ?」

 私が私の名……前世の名前を出すと、ゼクラスは不思議そうな表情を浮かべた。

「倉田美奈……?どうして、貴方がその名前をご存知で?……もしかして、私との相性が高いおかげで、気絶している時に私の思い出でも見れたんですか?おお!我ながら幸先良いですねー。」

ゼクラスは更に騒がしく喜んでいた。私は間髪を入れずに、強く言い放った。

「だから!私がその美奈なのよ!」

 私が強く言うと、ゼクラスは騒ぐのを止めて、表情が素に戻って黙った。そして、何かを考え始める様に頭に指を置いた。静かになったゼクラスに私は続けて話した。

「ほら、俗に言うあれよ。死んだら新しい人生が始まりましたよっていう、転生ってやつよ。信じられないかもしれないけど……。そういえば貴方、私……じゃなくて、美奈が持っていた漫画を読んでたでしょ?」

ゼクラスはそれを聞くと、思い出したかの様に頭を上げた。

「ああ!何か一時期ハマってましたね。異世界転生とかのジャンルに!」

「そうそう!」

私はつい、思い出した事に嬉しく思ってしまった。しかし、

「え、じゃあまさか!?貴方はあの、筋――」

「誰が筋肉ヘビーコングだコラァ!!」

 私は怒り、ゼクラスの頬を指で思い切り引っ張る。

<ムギィー!>

「|そおはでいっへはいへすおー!!《そこまで言ってないですよー!!》」

ゼクラスの悲鳴が部屋に響き渡った。

 私はゼクラスの頬を満足に引っ張って離し、自分の状況を整理した。サイドテーブルの上に置かれていた手鏡を取って、自分の顔や姿を見たり、身体や赤色の長髪を触ったりもしてみた。この幼く綺麗な姿は、確かに自分である事に間違いなかった。

「私、本当に転生したんだ。」

前世は普通の変わりのない女子学生ではあったのだが、こうも人形の様な綺麗な姿になっていると困惑してしまう。すると、

「そうみたいですね。でも、相変わらずの力強さで、頬が真っ赤になって痛いです。」

 ゼクラスはそう言って、赤くなった両頬を押さえながら再び浮き上がってくる。

「アンタが余計な事を言ったからでしょ?」

「だから、言い切ってないんですけど?」

ゼクラスは私の周りを飛び回って、私の身体を見回してもいた。

「それにしても、まさか美奈さんと再会するとは。それも、こんな綺麗なロリっ子姿になって。」

「ロリっ子って言うな。それに、もう美奈は死んだんだよ。今の私は、ミリアリス・オーベルト・ユートラス。皆からはミリアって呼ばれてるから。」

「じゃあ僕は敬意を込めて、筋肉――」

私は透かさず両手を動かした。そして、

<パチンッ!>

「ヒギュ!」

蚊を潰すようにゼクラスを叩いた。しかし、ゼクラスの身体の機械が手に食い込み、幼い手に痛みが走る。直ぐに手を離し、痛みを消す様に手を払った。ぜクラスはそのまま、ヒョロヒョロと落ちていく。

「イッタタ……。相変わらず硬い身体をしてるねー、アンタは。」

「此方も痛いんですから、そうパンパンと叩かないで下さいよ。」

ぜクラスのそう言い、布団に落ちきる前に体勢を立て直して再び飛び始めた。

「アンタが変な事を言うからでしょ?全く……。」

 私はそんなゼクラスの姿を見て、不思議と微笑んでいた。こういうやり取りをするのは、あの日々以来だったからだろう。しかし、それと同時に疑問が芽生えた。

「ねぇゼクラス。私が死んだ後、あの戦いはどうなったの?」

「え?……あぁ。まあ、……なんやかんや戦いは無事に終わりましたよ。」

そう歯切れの悪い返答をしてきた。私にとっては、死んだ後のそれが一番知りたい事だったのだが。

「なんやかんやって、随分とテキトーだね。皆の事とかあの子の事とか。」

そう聞くが、ゼクラスは口が重そうに返事をした。

「いやまあ……。あまり思い出したくないんですよ、貴方が死んだあの後の事を。……兎も角、パンドラビーストは心配せずとも解決してますよ、一応。その後の事は、直ぐに星から離れたから知りませんけど。」

「ふーん……。」

 ゼクラスはそう言って飛び回り続けている。その表情はどこかしら暗い様に感じる。何かあったのは間違いないが、これ以上聞くのは止しておこう。皆が無事である事だけでも知れたので良いし、知ったところで。元に戻れる訳でもないし……。私は一瞬だけ気が重くなったが、直ぐに気を取り戻した。そして、ゼクラスにこの後の事を聞いた。

「それで、ゼクラスはこの後どうするの?」

「えっ!?契約してくれないんですか!?」

 そう驚いた表情をする。私は直ぐに言い返した。

「誰がするか!」

「折角、契約書も用意しておいたのに。」

ゼクラスは、どこからともなく契約書らしき紙を取り出した。私はそれを奪い、ビリビリに破り裂く。

「ああ!折角作ったのに!?」

「契約にこんな紙切れ必要ないでしょ!兎も角、ここにパンドラビーストは居ないんだから契約する必要もないし、私は契約なんてしないから!」

「そう言う事言わずにー。折角再会したんですから、契約しませんか?魔法が使える様になりますよ?」

ゼクラスは自慢げに言った。しかし、もうそんな甘い言葉に騙されたりはしない。私は再び契約なんてしないし、契約して魔法が使える様になっても、今の私にとっては意味がない。

「必要ないし、しないって。もう騙されないから!それに――」

<コンコン>

「ッ!?」

 喋っている途中、誰かが私の部屋のドアをノックした。

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