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「えーっと、えーっと!どうしよう」
同期2人も師匠(適当ばか銀髪)も消え、周りに誰もいなくなったので、アデルは途方に暮れている。
というのも、アデルは赤き龍に入る気満々だったので、攻撃魔法ばかり練習して、敵から逃げるとか、姿をくらますといった魔法は全くと言っていいほど使えないのである。(というか「逃げるなんて、そんなの弱い奴がすることよ!正々堂々勝負!」と言ってました。ただいま、空前絶後の大後悔中!)
「というか、私まだ見習いなんデスけど・・・」
やれやれどうしたものか。
鬼ごっこってなにそれ?
大体なんでこんなにいきなり始まるのよ?
あんのあほんだら銀髪エセ教師!鬼ごっこはじまったのなら、はよ言えや!許さん!
アデルの頭にはツッコミしか浮かばない。
その瞬間、アデルの足元の黒い影が浮かび上がった。
「え・・・?」
影はまるでスライムのようにぐにゃりと形を変えて、アデルの両足を掴む。
あまりの驚きにアデルは声が出ない。
(コレはなに・・・?)
目を見開いて呆然としていると、影はゆっくりと立ち上がってアデルの目の前に向かい合う。
「よぉ。」
(影がしゃべった!!!!!!)
影の声にようやく我にかえったアデルは攻撃魔法を出そうと本能的に右手をかざす。
しかし影はそっとアデルを包み込む。
「やめとけ。鬼に捕まるぜ、バカ女」
目の前にいたはずの男の声が、アデルの後頭部から聞こえたと思うと、背後から男の手が伸びて、アデルの口を塞ぎ、さらにもう一方の手が攻撃魔法を繰り出そうとしたアデルの右手を掴む。
まるで後ろから抱きしめられたかのような体勢になり、アデルの背中を冷や汗がつたう。
(だっ!だれ??)
ほとんどパニックになったアデルの耳元で男の声が囁く。
「静かに。鬼にバレたくなかったら。このままなにもしゃべるな。」
男はアデルの手を掴んでいた右手の手のひらを離して地面に向けると、呪文を省いて移動の魔法を使う。
(これは一体なに?私どうなっちゃうの?)
アデルは軽いパニックに陥っているが、男の左手はがっしりとアデルを抱きしめているので、全くびくともしない。
男の右手に反応して、2人の足元の影が波のようにうねった瞬間、アデルと男は吸い込まれて、消えた。