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「やっほー!堅苦しい挨拶会は終わったし、あとはのんびりやろうね〜♪」
見習い魔導士の師匠役となるルカ・ディラ・ストランゼは信じられないほど軽い口調である
「この人があのルカ・ディラ・ストランゼ?」
「なんかの間違いじゃ・・・」
「まさかの同姓同名の別人?!」
アデル、ルシリュー、ロランジュの3人とも初めて出会った同期であるが、3人の目の前にいる、自分達の教師と名のる銀髪の男は、「あの」ルカ・ディラ・ストランゼ「ではあるまい」、という見解で完全に一致していた。
ルカ・ディラ・ストランゼといえば、最強魔導士と名高く、アリシア王国はもちろん大陸にその名を知られる強大な癒しの能力者であり、またの名を「白き大翼」と呼ばれている。
さらにアリシア王国において、三大貴族の最古参のストランゼ家の当主でもあり、最高の能力と最高の格式を備えた、スーパー魔導士なのである。
それが・・・
「あーなんか疲れたから今日の授業はやめにしなーい?アイス食べようかなー」
とか言って、どこから出したのか白い棒アイス(多分バニラ)を食べながら、ダラダラと中庭のベンチで寛いでいる男であるはずがない。
そんなルカの姿に同期の2人はドン引きしているが、アデルは平気であった。
そもそも治癒魔法なんぞ興味ないので、別に授業がないなら、それで構わないのである。
それよりもどうやって今から赤き龍に再編入するかを考えていた。
「あの・・・師匠はアイス食ってるし、自己紹介しようぜ。俺はルシリュー・ロドキンスって言うんだ。リューって呼ばれてるから、2人もそう呼んでくれよ。
平民生まれの15歳で、南部から来たんだ。これからよろしくな。」
金と茶がまざった髪に、南部人に多いあざ黒い肌、ブルーの瞳をしたリューは人懐っこい笑顔を浮かべながら自己紹介した。
(この人絶対いい人!!!そしてイケボだわ!)
アデルとロランジュはリューのコミュ力の高さとよく通る声に感激した。
続いてアデルが自己紹介する。
「わ、私はアデル。アデル・ラ・トラヴィーチェ。えっとリューと同じ平民で、北部出身よ。15歳で、それもリューと一緒ね。」
「君のことは知ってるよ。ものすごい美人がいるってみんな騒いでたからね」
リューはにっこり微笑む。
「僕はロランジュ・ラド・バルモア。
ロランって呼んでくれ。
あと・・・その・・・名前から分かる通り、貴族だけど・・・気にしないでくれると助かる。
僕も15歳になったばかりだ。みんな同い年なんだね。」
カールした銀髪に、緑の瞳をしたロランは上品な微笑みを浮かべた。
「え?もしかして君ってあのバルモア家の人なの??すごいなぁ。」
リューが目を丸くする。
「うん。でも普通に接してくれ。たった2人しかいない同期に気を遣われるとたまんないよ。」
「それもそうだな。『ロランジュ様』とは呼ばないぜ」
「勘弁してよ。ロランでいいから」
3人は明るく笑う。
若くて才能のある、白き癒し手の若者たち。
ルカはそんな3人の生徒の様子を微笑みながら見つめる。
(なんで屈託のない子たちだろう。かつての自分達もああだったんだろうか・・・)
「ルカ!逃げるんだ!振り向くな!絶対に引き返すなよ!!」
逃げろと言う、最期のセリフ。その後に響いた断末魔。
大切な、大切な親友・・・それを見捨てて逃げる弱い自分・・・
ルカは頭を振る。
(いや、考えるまい。この子たちは違う。決して不幸にはさせまい。)
ふと気配を感じて、頭上を仰ぐ。
そこには白い翼を広げた、カラスがいた。
「ねぇねぇ、君たち!
せっかく自己紹介して和んでるとこ悪いんだけど・・・。」
ルカは3人に向かって声をかける。
「新米魔導士にアカデミーからの指示だよ。早速、授業開始だ」
高い空から白いカラスはルカめがけて急転直下し、ルカの左肩にとまる。
「さぁて、準備はいいかな♪」
にっこり笑うルカに、凍りつく3人であった。