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アスラン王はユキをまっすぐ見つめる。
「お前は、アリシアの・・・。」
ユキは王の目の前だと言うのに、全く怯むことなく、殺意を放ち続けている。
「一歩でも近づいたら、殺す。」
そう言って、いつでも攻撃魔法を繰り出せるように、左手をアスラン王に向けている。
アデルはユキの後ろ姿に大きな安心を感じていた。なぜだかわからないが、ユキがいれば安全だと思えた。
しかし、この状況はかなりまずいのではないか。
いや、かなりまずい・・・・。だって、王様に向かって「殺す」とか言っちゃったよ、この人。
(ど、どうすればいいの・・・。えっと、えっと・・・。)
アデルはヒョイっとユキの後ろから顔を覗かせて、アスラン王を見つめる。そして美しいアスラン王の瞳に怒りが宿っているのを認めて、さらに困惑する。
(どうしよう・・・当たり前だけど、王様、めちゃくちゃ怒っている。
せっかくの文化交流なのに、もしかして、私のせいで台無しになってしまったら・・・。)
ユキの後ろでアワアワと考えていると、この緊迫した空気にふさわしくない、呑気な声が響いた。
「も〜なんだって、そうなるわけ?僕、ゆっくり休みたかったのに!」
「ル・・・ルカ先生!!!!」
アデルは生まれて初めて、ルカの呑気な声が聞こえて、安堵を感じた。
そう生まれて初めて、である。
「ちょっと、ユキ!やりすぎだよ、やりすぎ!!相手は王様なのに!もう、バカ!ばか!ブァッカたれ!」
その言葉はアデルも脳内でユキに言った言葉であった。
ルカは、そう言って、ユキを睨みつける。
しかし、ユキは反省の色ひとつなく、平然としている。が、流石に左手は下ろしている。
ルカは振り返って、アスラン王に片膝をつく。
「アリシアの生徒が大変な失礼をいたしました。
アリシア王から全権委任されている、私、ルカ・ディラ・ストランゼが心よりお詫び申し上げます。」
アスラン王は厳しい目線でルカを見つめる。
「この二人はまだ新米の魔導士です。決して貴国に危害を加えるような真似はできません。ですから、このような『ちょっとした行き違い』で、このたびの貴重な文化交流が台無しにならぬよう、王様、どうぞご寛大なご判断をお願いいたします。」
そう言って、何か含みのある視線を王に送った。
王も、ルカの発言の意図を全て悟った。
「・・・・ルカ・ディラ・ストランゼ。」
「ははっ!」
「よかろう。今回はそなたに免じて、不問にしよう。」
「大変寛大なご判断、誠にありがたき幸せでございます。」
「しかし、二度目はない。そして、その黒髪の・・・。」
アスラン王はユキをまっすぐに見つめる。
「ルカよ、そなたがしっかりとその行儀の悪い黒猫に、首輪をつけておけ。」
そう言って、アスランは立ち去った。




