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「そこで何をしている。」
アデルが振り返ると、アスラン王が怒りと警戒をないまぜにした顔で、自分とクラリスを見つめていた。
「ここは立入禁止区域のはずだが。」
(立ち入り禁止・・・?嘘でしょ・・?超まずいわ。でもなんでそんなところにクラリスは私を・・・。)
「申し訳ありません。」
クラリスはいきなり王の足元に膝まづいて、謝罪する。
「すべて悪いのは私でございます。」
「何故、アリシアの客人とこの場所にいる。」
「ついうっかり、お客様をご案内して紛れてしまったのでございます。」
「『ついうっかり』だと・・・?そんな見え透いた嘘をつくな。其方、覚悟はできておるのか。」
不穏な空気を感じ取り、アデルもクラリスと一緒に謝罪する。
「王様、立入禁止区域と知らず、ここに入ってしまい、申し訳ありません。しかし、ここに入ったのは、決して不埒な理由ゆえではございません。本当にうっかり・・・。」
クラリスの本心はわからないが、少なくともアデルはなに一つやましい心なく、この部屋に入ったのだ。
「女神に誓って本当です!」
ぎゅっと両目をつぶって、思わず叫ぶ。
「ほお・・・。女神に誓ってと・・・な。」
なぜかさらにアスラン王の声は低くなる。
(こ、怖い!なんなのよ!)
「では、試してみよう、本当に其方にやましい心がないか。」
そう言うと、アスラン王は左手を差し出した。
ゆらりと金色の煙がアスランの左手から現れると、それはアデルを取り囲んでいく。
やがて、その金色の煙は大きな獅子の姿になり、アデルの周りを徘徊する。
しかし、獅子はアデルを襲うことなく、まるで何かを確かめるかのように鼻をクンクンとならして、匂いを嗅ぎながらぐるぐるとアデルの周りを回るだけである。
(な、何これ・・・?怖い!私どうなっちゃうわけ?お願い、どうか消えて!)
アデルが恐怖に駆られて、ぎゅっと目を閉じた瞬間、煙は跡形もなく消えてしまった。
アデルはそっと目を開くと、アスラン王は驚いた表情でアデルを見ている。
「其方、一体・・・。」
アスラン王が左手をアデルに向かって伸ばしたその時、急に何かを感じたのか、ぴくりと反応し、険しい表情になると、大きく後ろに飛び下がった。
アデルの前に黒いローブを着た影が現れた。
「触るな。」
黒い殺意を放って、ユキがアデルを守るように立っていた。




