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北塔は、王宮の北の外れにある風変わりな屋敷だった。
屋敷には一際目立つ塔があり、それがこの屋敷の由来であった。
元々、この北塔は、王が狩りをする時の滞在場所として利用していたものであるが、この場所をいたく気に入ったキーラ王女が20年ほど前から住まうようになった。
屋敷には貴重な魔道具とよくわからない呪物のようなものが混在しており、壁中に色々な絵画や謎の生き物の剥製、そしてこれまた謎の魔道具らしきものがかけられていた。
大半は占星術に関わるもので、クラリスもお茶を濁しているが、要するにガラクタといってもいいようなものばかりであった。しかし、玉石混交を具現化したようなこの北塔には、アリシアだったら、王立の博物館に保存されていてもおかしくない代物もあった。
「これはカインの歴史書の真書と言われております。ただし、魔法がかかっているらしく、なんと書かれているのか誰にもわからないそうです。」
「真書・・・?」
「なんでも『暗黒時代』についての歴史が記されているそうです。」
アデルはまるで子供のようにワクワクしてきた。
(メルエンハプタ!この世界の創世記時代のことじゃないの!)
創世記時代は現在の歴史家を悩ませるものの一つである。
創世の女神の誕生とその栄華は多くの古代物に記述があるが、プッツリとある時から記載が消えてしまっている。その時代を暗黒時代と読んでいるのだ。
そして、暗黒時代を境にして、創世記時代は終わり、まるで別世界になったような時代が始まり、そしてそれが現在まで続いているのである。
クラリスはたくさんの雑多な物品について、無駄のない説明を行い、アデルの質問にも全て答えていく。博識なクラリスにアデルは舌を巻きながら、アデルは好奇心はいよいよ大きくなる。そして二人はどんどん屋敷の中に進んでいき、やがて、一番奥まった部屋へとたどり着いた。
大きな扉を開けると、そこは白い大理石で床から壁一面に覆われ、奥には祭壇のようなスペースが設けられ、その壁の中央には一幅の絵がかけられていた。
しかし、絵には白い布がかぶさっており、なんの絵かはわからない。
クラリスはこれまで冷静な表情であったが、ここで、ゴクリと息を飲み、意を決したようにその絵に近づくと、大きな房飾りがついた紐を握り、白いカーテンのような布をとりさった。
バサリと大きな布が落ちる音がして、その絵が顕になる。
アデルはその絵を見ると、薄暗い室内が、突然明るくなった気がした。
一人の美しい女性が太陽の下で獅子を従え、そして微笑んでいる。
ゆったりとした古代風の衣装を着て、紫色の瞳をした金髪の女性・・・・。
一体、誰に微笑んでいるのだろうか。優しく、幸せそうな微笑み。
大きな獅子はまるで大きな子猫のように、その女性の足元で寛いでいる。
アデルは思わず息をのんだ。まるで自分を見ているような錯覚を覚えた。
「これは・・・。」
クラリスも絵を見つめる。しかし、これまでと違い、何一つ言葉を発しない。まるでアデルの言葉をじっと待っているかのように。
たっぷりと時間をおいて、静かにクラリスは尋ねた。
「アデル様、絵が気になりますか・・・?」
「ええ、とても・・・・とても気になります。だって彼女は・・・」
その言葉を聞いた瞬間、クラリスは大きく目を見開き、ブルブルと頬を振るわせた。
「アデル様、今、なんとおっしゃいました・・・?」
「え?」
(何かまずいこと言った・・・?)
アデルは困惑しながら、クラリスを見つめる。
しかし、あまりにも切実に、アデルの言葉を待っているクラリスの瞳に、アデルは思わず言葉を失い、後退りした。
「そこで何をしている。」
急に、冷たいナイフのような言葉が二人に向けられた。
ハッとしたように、二人は同時に振り返る。
腕組みをしたアスラン王が仁王立ちしていた。




