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金の装飾が贅沢に施された王宮の執務室で、若き王は思案していた。

アリシア王国からの返書はラシュタール側の要望に対して、全て承諾したとのことであった。

アリシア王とその側近たちは、すでに何かを感じとっているのだろうか。


アスラン王は美しいサファイアのような青い瞳をゆっくりと閉じると、これまでの数ヶ月を振り返る。

始まりは亡き父王の妹姫であるキーラ王女の不穏な発言だった。


「あら?お兄様は殺されたんでしょう?」


なんという発言だろう。

それをキーラ王女は無邪気に言い放ったのだ。

それも王族が一堂に会する、先王の弔いの場で。

いくらいい大人になっても精神年齢が幼く、昔から不用意な発言が多いと、陰で問題児扱いされている王女だとしても、あの場で先王の殺害を明言するとは。それがどのような影響を与えるかすらわからないわけあるまい。


父王の死因は病死である。

母が死んでから、毎晩浴びるように飲んだ酒と持病の心臓病のせいである。

最愛にして唯一の妃であったアスラン王の母である、シャムサ妃が亡くなってから、父王は抜け殻のようになり、かつての精力あふれる精悍な顔は骸骨のようにやせ、すっかり生命力を失い、ほとんど夢遊病者のようになっていた。

母の葬儀が終わるや否や、周囲の反対を押し切って、年若いアスランに王位を譲渡した。


死んだ妃を探して、王宮を徘徊していた父王。

一番辛いことは、王になったばかりのアスランが何かを相談しても、父王は「母上に相談しなさい。」と答えることであった。

最愛の王妃の死にショックを受けた父は、現実世界を受け入れられず、まだ王妃が生きている想像の世界の住人となり、優しい夢の中で生きるようになった。

しかし、時折、優しい夢が途切れて、母が死んだ現実世界に戻るのか、その時は号泣してアスランに縋り付くのでのある。

「アスランよ、王妃が死んでしまった・・・。ああシャムサがいない世界など、生きている価値がない。」

それがどれほど若いアスランにとって、辛く苦しいことであったか。

母が死んだ後、かつての頼りになる父王の姿はどこにもなかった。父は全ての生きる気力を無くして、母との甘やかな思い出の中に生きていた。


神が守ると言われるほどの、有史以来の難攻不落と名高い神聖王国を攻め落とし、さらに王宮を無血開城させることで、父王の時代にラシュタール王国は最大の領土を手に入れた。

父王は、ラシュタール王国の歴史における最高の賛辞を獲得し、大陸の歴史にその名を残す偉大な王である。


しかし、本当は・・・。


アスラン王はそれ以上、思いを巡らすことをやめた。


愛とか、幸せとか、そういったものは本当に煩わしい。

王族として生まれた以上、その高貴な身分に相応しい振る舞いをして、死ぬ。

それが自分の変えられぬ運命だ。


アスランは杯に並々と注がれた強い酒を一気に飲み干した。

夜の帳が降りようとする美しい夕暮れ時、沈みゆく太陽の側で明るい星が1つ輝いている。


「西方に吉祥あり・・・・。」


それは予言だろうか。

それともただの意味のない夢であろうか。


「どちらにせよ・・・。」

アスランは鋭い視線を西の彼方に向けた。


「もうじきわかることだ。すでに賽は投げられたのだから。」

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