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あれから1週間練習したが、結局アデルだけが治癒魔法をマスター出来なかった。
ずぅぅぅんと沈む美少女は、白亜の離宮の中庭にあるバラ園のベンチでポツンと座っている。
アデルの周りには蛍のように光の粒子が飛び交っている。
はぁぁぁぁ〜っとアデルは深いため息を漏らす。
不意に、光の粒子が蜘蛛の子を散らすように離散する。
「よぉ。」
久しぶりに聞く低い声が、アデルの頭上からした。
「・・・・なんでいるの?」
「ルカに呼ばれた。」
白亜の離宮は基本的に白き癒し手しか出入りできない。
もちろん他の所属でも高位の魔道士は例外的に認められている。
白亜の離宮の出入りが厳しく制限されているのは、貴重な白き癒し手を狙った誘拐などを防ぐ、という恐〜い理由のためだ。
(こいつ、新入生のくせになんでこんなVIP待遇なわけ?)
アデルは胡散臭さそうにユキを見つめる。
そんなアデルを見て、ユキはさもおかしそうに笑う。
「・・・?急に笑い出してなによ、なんか私の顔についてる?」
「いや、新鮮だっただけた。お前の反応が。」
「はぁ?」
「他の魔道士は変な目で俺を見るからな。」
「ふーん・・・。」
まぁ、確かにそうだろう。
ユキはとても強い。桁違いなほどに。
そして、とても美形だ。
強くて美形な新米魔道士
そりゃ、花形所属と言われる赤き龍の中でも、とっても目立つだろう。
アデルも自分の美貌にはうんざりしていた。
この美貌のせいで、女子から目の敵にされるし、男には妙な気をいだかせてしまうし、人間関係でロクなことがない。
アデルにとって、自分の美貌は「お荷物」であり、美貌も抜きん出すぎると一種の「異形」なのである。
「あなたも大変ねぇ・・・。」
ユキをまっすぐ見つめて、思わず本音が出た。
ユキは切れ長の漆黒の瞳を、まん丸にしてアデルを見つめる。
アデルはユキの表情の変化に気が付かず、そのまま続ける。
「美貌でもなんでも、突出すると平穏な日常には邪魔だわ。」
ユキはたまらず吹き出した。
「・・・?」
「あんたって、やっぱり面白い女だな。」
「・・・はぁ。そりゃ、どーも。」
ユキは笑い終えると、アデルになぜここにいるかを聞いた。
アデルは自分に全く治癒魔法ができないこと、光の粒子が全然言うことを聞かないことをユキに話した。
「私、このままじゃ、白き癒し手になれないわ・・・。」
再びドヨーンと落ち込むアデル。
ユキはそんなアデルの様子を見て、一瞬何かを考えた顔をすると、いきなり風魔法で自分の腕を切った。
傷口から、たらりと鮮血が流れる。
ちなみに魔道士にとって、手は魔法を発動させるのに大きな役割を果たす、重要なパーツである。
「ヒィィィッ!ちょっとあんた何してんのよ!」
驚いたアデルは慌てて誰かを呼びに行こうとする。
「どこいくんだ?」
ユキはアデルの腕をがっしり掴んで自分の方へ抱き寄せると、低い声でアデルの耳元でそっと囁く。
「アデル、お前の治癒魔法で、この怪我治してくれ。」




