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アデルが目を覚ました時、そこは白亜の離宮の医務室のベッドだった。
アデルは自分がどこにいるかわからなかった。
「ここ・・・どこ?」
「やっほーーー!起きた?」
ノーテンキな声が聞こえた。
声の主は見なくてもわかる。
「アデル!」
「おい!大丈夫か?」
懐かしい同期の声も聞こえる。
ヘラヘラ笑うルカの姿を見て、思わずグーで殴りかけたが、
「気持ちわかる!わかるぜ、アデル!」
「でも落ち着いて!」
という同期2人が羽交締めにして止めた。
「んな!なんなのよ!ルカ先生!私死にかけたんだから!」
ルカはニコニコして、右の人差し指をトン、とアデルの額に置く。
キーンと脳内で音がして、全身がゾワゾワして、何かを調べられている感覚が走る。
「なっ!何するんですか!」
「おっ!アデルも『見える』ようになったみたいだね!」
ルカは満面の笑みで3人を見つめる!
どこからか出した扇子を左手に持ち、それを仰ぎながら上機嫌に笑う。
「わははははっ!みんな優秀、優秀!」
「はぁ?」
「アデルも光の粒子の「流れ」が見えるようになったんですね!」
「んで、コントロールもある程度できるようになっただろ?」
「・・・?よくわかんないけど・・・。」
「え?」
「コントロールって、このこと?」
アデルは光の玉を作る。
「え?」
「は?」
同期はポカンとしている。
ルカはその様子をニヤニヤ見つめる。
「やっぱりそこまで先にできちゃったかー!ある意味アデルはぶっとんでるねー!ちなみに君の同期が言っているのはそう言う意味じゃないからね!」
「え・・・?ドウイウコト?」
「すごい!光の粒子がきれいですね!」
「どうやってんだ、それ!」
同期はキラキラした目で見つめる。
「アデル。」
ルカ先生はアデルの光の玉を食い入るように見つめる同期2人を制して、そっとアデルの布団を掛け直す。
「もう少し休んで。明後日から授業だよ。」
『授業』と言う言葉を聞いて、3人は震え上がった。
ルカ先生の『授業』がこれまでマトモだったことはない。
「あ、大丈夫だよ。」
ちなみにルカの『大丈夫』も大丈夫だったことはない。
疑わしいものを見る目でルカを見つめる3人に、ルカもさすがにまぁまぁ、と取り繕う。
「明後日からの授業は、ボクじゃないからさ!
治癒魔法と古代魔言語に詳しい先生だよ。」
「ほんとですかぁ〜。」
「ほんとだってば〜。はい、ロランもリューも行った、行った!アデルはもう寝る時間だよ!」
ルカに促されて、同期2人は「じゃーな、アデル。」「しっかり休んでくださいね。」と言って医務室をあとにする。
ルカも2人を見送ると、立ち去ろうとする。
アデルは不意に、ルカに尋ねた。
「ルカ先生!」
「ん?なんだい?」
「マリラっていう名前の魔道士知ってますか?紫のローブを纏って、光魔法と治癒魔法が使えて、しかも『女神の森』っていうところに住んでいるおばあちゃん。」
「・・・。」
「・・・?先生?」
ルカ先生は停止してしまった。
「ルカ先生?」
「え?アデルどういうこと?」
「私もよくわからないんですけど、黒鬼に飛ばされた後、なぜか『女神の森』に転移してたんです。」
そうして、アデルは女神の森での出来事を話し出す。
ルカは真剣な表情で、その話を聞いている。
「なかなか興味深いねぇ、実に興味深い!」
「あっ!そういえば、マリラが最後に『私のバカ弟子によろしく伝えておくれ。』って言ってたんですけど、先生知ってますか?」
その言葉を聞くと、ルカは目を丸くして停止した後、急に上を向いて、大きな口を開けて笑い出した。
「せっ、先生?」
ルカは笑い過ぎて目から涙を流しつつ
「それは誰だろうねぇ。ボクには思い当たらないなぁ。」と答える。
(ぜっっっったい、うそ!)
アデルは胡散臭そうな目をルカを見つめる。
ルカはポンポンとアデルの頭を撫でる。
「まぁ、そのうちわかるんじゃないか?」
「マリラにまた会えるかなぁ?」
ルカは優しく微笑む。
「きっと会えるさ。女神の導きがあるよ。」
アデルはマリラが好きだった。
さっぱりとして姉御肌のマリラはとても感じが良かったし、その足元でモフモフしている、ベーチェットにもまた会いたかった。
アデルはそっと目を閉じた。
思っていた以上に疲れていたらしい。そのまますぐ眠りの沼に沈んでいった。
スウスウとアデルの平和な寝息を聞きながら、ルカは目を細める。
「孫弟子はどうでした?マリラルド先生。ずいぶん可愛がってくださったようで。」
そっと独り言を呟いて、ルカはその場から静かに消えた。




