表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/61

38

誰かに呼ばれた気がして、アデルはふと目を覚ました。


「目を覚ましたかい、お嬢さん。」


不意に優しい声が聞こえて、アデルは飛び起きた。


見覚えのない家にアデルはいた。

丸太小屋のような小さな家で、暖炉で赤々と炎が燃えている。

そして、大きな鍋がグツグツと煮え、部屋いっぱいに美味しそうな匂いがする。


「ここはどこ・・?私はどうしてここに・・・?」


アデルは混乱して訳がわからないまま呆然と周りを見渡した。


アデルのベッドのそばにいた老婆が、心配そうにアデルに駆け寄る。


「おやおや、急に起き上がると危ないよ。」


「あなたはどなた・・?私は一体どうしてここに?」


急に体を動かしたせいか、鋭い痛みがアデルを襲う。


「うっ!!」


「ほらほら、まだ寝ていないと。魔力も完全には回復していないんだから。」


老婆はそっとアデルを寝かせる。


「私・・・どうしてここに?あなたはどなた?」


「じっとしててごらん。」


老婆はそっとアデルの肩に触れると優しく呪文を唱えた。


アデルの肩が何事も無かったかのように痛みが消えた。


(治癒魔法・・?なんでこんなおばあちゃんが治癒魔法なんて使えるの・・?)


アデルは驚愕して老婆を見つめる。


治癒魔法の使い手は一般庶民の中には存在しない。

治癒魔法が使える者は、その希少性ゆえに全て王家の管轄におかれる。


見たところ、この老婆は小さな家に住む、「普通の」老婆のようだ。

しかし、治癒魔法が使える時点で、彼女は「普通の」人間であるはずがない。


アデルの困惑を悟ったのか、老婆は安心させるように微笑んだ。

「私のことが気になるんだね、お嬢さん。」

アデルは心の中が読まれた気がして、ぎくりとする。

「私も、お嬢さん、あなたのことが気になっているんだよ。」

老婆は真っ直ぐにアデルを見つめる。

賢そうな青い瞳がアデルの紫の瞳を捉える。

一瞬、老婆は驚愕の表情を浮かべるが、よく躾けられた人間がそうするように、

あっという間に平静な表情に戻る。


「お嬢さん、まずはよく食べて、よく寝て、魔力を回復させることだよ。」


老婆はそう言うと、席を立って、暖炉にかかっている大きな鍋の蓋を取って、中身をかき混ぜた。

美味しそうな匂いがより一層強くなる。

その美味しそうな匂いを嗅ぐと、アデルのお腹は悲鳴を上げた。


アデルのお腹の音を聞くと、老婆はにっこりと笑う。


アデルは恥ずかしくて俯いていると、大きな皿にたっぷりと盛られたシチューがアデルの前に現れた。


「さあ、お食べ。」


アデルはもう訳がわからず、食べてよいものか、不安がよぎったが、

自分を介抱し、貴重な治癒魔法までかけたこの老婆が、今さら自分を害するはずがない。


そう思うと気前良く盛られた大皿を受け取ると、夢中で食べ始めた。


老婆はそんなアデルを見つめながら、心の中で、女神に祈りの言葉を唱えていた。


「女神の恩寵、かくありきや。」


ぽつりと呟いた言葉はアデルに聞かれることなく、静かな夜に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ