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リーシャが死んだ後、彼女の魔力は魔石に封じ込められた。
故人の「魔力封じ」はかなり高度な魔法なので、王都から高名な魔導士に依頼する必要があった。
その費用は、一家の5年分の収入に匹敵したが、リューの父は黙ってこれを支払った。
5年もの間、両親やリューがひたすら額に汗を流しながら蓄えた貯蓄をほとんど使い果たしたが、家族の誰も文句を言わなかった。
家族全員、あの可愛いリーシャが天国に行ってしまったことを心から寂しく思っていた。
母はリーシャの魔力を封じた魔石を、毎晩お祈りをする祭壇において、お祈りのたびに優しく撫でたり、話しかけていた。
そして、リューがいよいよアカデミーに入学することが決まった時、両親はその魔石をペンダントに加工し、リューに持たせた。
リューはリーシャとの約束である「ロビンの聖堂」にその魔石を持っていくことをリーシャの墓の前で誓い、故郷を後にした。
リューは、ロビンの聖堂の中でも、重要な儀式にしか使用されない「神託降臨の泉」にリーシャの魔石を連れていくことを決めていた。
この「神託降臨の泉」とは、かつてロビンが全ての財を失い、迫害されて満身創痍になった際にたどり着いた泉で、
ここでロビンは女神から
「清き魂よ、あなたはすべての力を取り戻した。行ってすべての人を癒やしなさい。」
という神託を聞き、癒しの力を開花させた神聖な泉である。
その泉は「ロビンの聖堂」の奥深くにある。
白き翼は、アカデミーで3年間修練を積むと王立直属部隊に配属されるが、その叙任式の前に、「神託降臨の泉」で身を清めるとされている。
しかし、自分はリーシャとの「約束」も果たせないのだろうか?
このまま、見習い魔導士のまま、あの蛇に殺されてしまうのだろうか?
だとしたら、リーシャの願いはどうなるのだろう。
自分は一体何のために、嫌いな勉強を毎日必死でやって、故郷から出てきたのだろうか。
リューは無意識に胸元にあるリーシャの魔石を握りしめた。
そしてリーシャの健気さや無念を思った。
リーシャなら、自分よりずっといい魔導士になれただろう。
心優しく、聡明で、いつだって暖かい心を持っていた妹なら。
そんな人間が早逝して、自分のような凡人が生きている。
せめて、兄さんとして、リーシャの願いを叶えてあげたかった。
脳裏に優しく微笑む妹の顔が浮かんだ。
「にぃさん!」と呼ぶ幼い声も蘇る。
リューはこれまで感じたことがない、激しい怒りが湧いてきた。
それは炎のようにリューの中で渦巻き、発露を求めて激しくうねっていた。
急に視界がひらけた。
蛇がリューを匿っていた、大きな岩を砕いたのだ。
闇夜に蛇の赤い瞳がギラギラと輝く。
リューの魔力はほとんど空っぽであったが、
しかし全く恐怖を感じなかった。
リューは立ち上がると、蛇を睨みつけた。
彼の胸元では魔石が赤く輝いていた。




