表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/61

35

リューの3歳下の妹、リーシャは生まれつき体が弱く、すぐ風邪をひいては寝込んでいた。


家族みんなが、このか弱くて心優しい小さな存在が、

早くよくなりますように、

少しでも大きくなりますように、

と毎日祈っていた。


「兄しゃん!にいしゃん!」


リーシャは兄のことが大好きだった。

外に出ることが滅多にできない代わりに、

兄の武勇伝や家畜や農作物の話を、いつも楽しそうに、ベッドの中でニコニコと聞いていた。


体が弱くて学校にも行けないリーシャに、勉強を教えるのはリューの役割だった。


リューの家は農家だから、太陽が出ている間は(特に春から秋)は農作業や家畜の世話に明け暮れた。


学校は冬の間だけ。


リューと同じように、リーシャにも「魔力調べ」の結果、魔力があることがわかった。

そのため、本当はリューと一緒に地元の魔法学校に行けるはずなのだが、

2度ほど登校しただけて、高熱を出してしまい、

そのせいでドクターストップがかかり、行けなくなってしまった。


皮肉にも、勉強よりも外で体を動かしている方が好きなリューと対照的に、

リーシャは勉強が大好きだった。


しかし、リーシャは学校に行けないし、農作業ももちろんできないので、

日中は家でリューの教科書を読み、わからないところは夜にリュー教えてもらう日々だった。


「リーシャはね、将来、お医者様になりたいなぁ。」


ある日、リーシャは恥ずかしそうに、そう打ち明けてくれた。


「お医者様かぁ・・・。リーシャは頭いいから、絶対なれるぜ。」

そうリューが言うと、

「ふふっ」

と花のように妹は笑った。


しかし、その年の冬の大寒波で、リーシャはひどい風邪をひき、

その高熱がもとで、両眼が見えなくなってしまった。


家族全員、リーシャに突如として降りかかった、この非情な運命に打ちのめされた。


普段は熊のように大きくて、頑丈で、怒ると雷のように怒鳴る、恐ろしい親父ですら、

リーシャを診察した医者が


「お嬢さんの目は、もう二度と、見えるようにならないでしょう。」


と、すまなそうに告げた時、何かを堪えるように、

顔と手をぶるぶる震わせて、一筋の涙を流して、

ぎゅっとリーシャを抱きしめていた。


母もリューも泣き崩れた。


あんなに勉強が大好きで、将来は医者になることを願っていた、リーシャ。


大きくなれば、いつか学校にも通えるようになるだろうと、

苦しい治療も、苦い薬も我慢していたリーシャ。


自分の同じ年頃の子供が、楽しそうに外で遊んでいるのに、

それを見ても、家族に不満一つこぼさなかったリーシャ。


もう、リーシャの青く澄んだ目には、何も見えないのだ。


医者になる夢も潰えてしまった。


こんなことがあるだろうか?

一体、リーシャが何をしたと言うのだ。

なんて、神様は無慈悲なことをするんだろう。


しかし、リーシャは気丈にも、泣きぬれる家族に向かって微笑んだのだ。


「みんな、わたしは大丈夫よ。泣かないで。」


リーシャは強かった。

本当の強さとは、リーシャのような強さをいうのだ。


悪辣な運命が、リーシャを嘲笑うように悪運をもたらしても、

リーシャはわずかに残った希望や幸福に感謝して生きていた。


リーシャは目が見えなくなっても、相変わらず健気なまま、心優しい娘だった。



そして、リーシャは2年後、たった9歳でこの世を去った。


最期の時、苦しそうな息をしながら、リーシャはリューに、あるお願いをした。


「兄さん、お願いがあるの」


弱々しく差し出された妹の手を、リューは強く握り締めた。


「言ってごらん、リーシャ!兄さんは何だって聞いてくれるよ!」


母は号泣しながら、リーシャに言った。


「リーシャね・・・お医者さんになりたかった・・・


でも、もう、なれないから・・・。


兄さん、リーシャが死んだら、


リーシャの魔力を封じて、いつか『ロビンの聖堂』に連れて行ってくれる?」


リーシャは苦しそうな息をしながら、必死に言葉を紡いだ。


「リーシャ・・・一度でいいから、『ロビンの聖堂』に行ってみたかった・・・。」


”ロビン・フォルセルカ”


アリシア王国の歴史に名を残す偉人であり、

その卓越した魔力と聡明な頭脳で、治癒魔法の確立に多大な貢献をしただけではなく、

魔法を使わない医術の分野を切り開いた、まさに「治癒の神様」と言われる人物である。


貧民出身で、病弱で、さらに女性であったロビンは、

たくさんの苦労をして、多くの人を救い、王国に名を残す人物となった。


「ロビンの聖堂」はそんな彼女を讃え、王都に建立された王立病院であり、

白き翼が定期的に民衆向けに治癒行為を行なっている。

まさに、病人にとっては「最後の砦」であり、

治癒魔法や医術を志す人間とっては、「憧れの殿堂」である。


リーシャは自分の境遇から、

多くの苦労をしながらも、それにめげずに努力し、

たくさんの人々を治癒し、後世に多大な影響を与えたロビンに憧れていた。


リューは泣きながら答える。


「わかった。約束する。兄さんが絶対お前を『ロビンの聖堂』に連れて行くさ。

ロビンの聖堂だって、何だって・・・・。

リーシャ、お前が望むならどこだって連れて行くよ。」


リーシャは兄の言葉を聞くと、苦悶の表情が消えて、わずかに微笑んだ。


「兄さん、ありがとう。」


リーシャはそう言うと、安堵のため息を漏らして、そっと目を閉じた。


「リーシャ!リーシャ!目を開けてちょうだい!

ああ女神様!どうかリーシャを連れて行かないでください!

お母さんはまだ、リーシャ、お前の瞳を見ていたいのに!

これから大きくなるお前を・・・。」


母は半狂乱になりながら、リーシャを揺さぶって起こそうとしたが、

リーシャが目覚めることは二度となかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ