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リューは何かが這うような、不気味な音に全神経を集中していた。
その音の主は、明らかに何かを探しているようだった。
最初は這う音だけだったが、シューシューという音も聞こえ出した。
リューは湧き上がる恐怖に打ち震えていた。
それは草食獣が肉食獣に抱くような、絶対的な恐怖だった。
バクバクとした心臓の音がうるさい。
恐怖の中で、リューは、「何か」近づいていること、
そして、その「何か」は、明らかに「自分」を探していることを、本能的に感じ取っていた。
(どうする?どうする?逃げるか?いや、でも逃げられる保証はどこにもない。
でもこのまま、ここにいても、きっと見つかるかもしれねぇ。
何だってこんなことになったんだ!)
リューはあのルカ先生のにやけた顔が浮かび、一瞬、怒りのあまり、恐怖を忘れた。
(あのバカ教師!なんだよ!こんなのありかよ!)
リューは頭を抱えた。
その刹那、鞭がしなるような音が聞こえたかと思うと、
リューが隠れていた岩と木がものすごい音を出して砕け散った。
リューはいきなり開けた空間に座り込み、呆然としていた。
満月が照らす、昼のように明るい空間に「ソレ」はいた。
赤い目が爛々と輝き、リューの姿を見つけると嬉しそうに、目を三日月型にして、ニヤァと笑った。
リューは恐怖のため、思わず失禁していた。
(コレは何だ・・・?)
リューの目の前には巨大な蛇のような生き物がいた。
不気味な茶褐色のマダラ模様のある蛇で、
鶏のように、赤いゴツゴツしたトサカが頭についている。
そして、大きな口から出てきた長い舌が、獲物を見つけて舌なめずりするように、
何度も口の周りを往復している。
蛇は大きな口を開けて、リューに襲いかかった。
リューは瞬間的に魔力を込めて叫んだ。
『止まれ!』
リューの魔力を込めた言葉を聞いて、
一瞬、蛇は動きを止めた。その隙にリューは全ての力を総動員して逃げた。
走って、走って、知っている限りの魔法で、できるだけスピードをあげて逃げる。
しかし、蛇のスピードはそれ以上に早かった。
そもそもリューの魔力が完全に回復していないこともあり、あっという間に追いつかれる。
再び大きな口を開けて、蛇はリューを丸呑みせんとばかりに襲いまくる。
リューは本能的な感覚を頼りに、傷だらけになりながら、その攻撃を交わす。
しかし、木の根に足が引っかかり、リューはその場で転んでしまった。
蛇はその好機を逃がさんたばかりに襲いかかる。
「その目、つぶれろ!」
リューは魔力を込めて叫ぶ。
蛇は急に走った鋭い痛みに、悲鳴をあげて目を閉じると、その場で、のたうち回る。
リューはその間に、何とか茂みに逃げ込んだ。
しかし、先ほど同様、見つかるのは時間の問題だろう。
蛇は目の痛みがおさまると、再びリューを見つけるべく、手当たり次第、木や岩を破壊している。
やはりリューの魔力が足りないためか、蛇はさほどダメージを受けているように見えない。
先程の攻撃は、一瞬の目眩しにしかなっていないのであろう。
気が狂いそうな恐怖の中で、リューははっきりと「死」を感じた。
「死神」はもう鼻先まで迫り、あと少しでリューをあの世に連れ去ろうとしている。
必死になって生き延びる術を考えているが、どうやっても生き延びる道がなかった。
魔力はほとんどなくなっており、あの蛇のスピードと威力を考えると、完全に手詰まりだ。
死に王手がかかっている状況である。
(こんなところで俺は死ぬのか・・・)
リューは地面を見つめながら、唇を噛んだ。
「白き翼」となり、浮かれていた、ほんの数週間前の自分が嘘のように思える。
(父さん、母さん、リーシャ・・・)
「死神」が大きな鎌を持って、迫ってきている極限の中で、リューは早逝した小さな妹を思った。




