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ロランはゆっくりと目を開ける。
しかし、目を開けても、周りは深い闇に包まれおり、何も見えない。
日は既に暮れており、すっかり夜になったらしい。
「ここは・・・?」
一瞬、自分はどこにいるかわからずロランは混乱した。
(そうだ、『黒影」に襲われて・・・。僕たちは魔力の衝撃で弾き飛ばされたのか。)
ロランはすぐさま体を起こそうとするが、鋭い痛みが全身を貫いた。
そして、自分が木の太い枝に引っかかっている状態であることもわかった。
(状況は最悪だ・・・。)
ロランはがっくりと首を垂れる。
敵である黒影の状況も、バラバラになってしまった仲間の状況もわからず、さらに自分は負傷しており、魔力もそう残っていない。極めて不利な状況である。
(これが実際の戦闘だったら、部隊全滅に近いな。)
ロランは自嘲気味にそう考える。
(アデルやリューは無事だろうか・・・。)
ロランは二人のことを思った。
ロランは木の枝に体を預けたまま、なんとか頭を巡らせた。
(あの黒影という闇属性の傀儡霊を倒すことは、この状況からして極めて困難だ。
そうすると3日経つまで逃げ切るしかない。
しかし、気絶していたせいで時間の感覚がない。
この「鬼ごっこ」の終了まで、一体、あと何時間残っているんだ。)
ロランはルカのふざけた顔を思い出し、流石に殺意をおぼえた。
しかし、ルカへの恨みつらみは今考えることではない。
ロランは冷静に状況を整理するため、再び考え出した。
(黒影はカインの歴史書によると闇属性の『傀儡霊』だ。
つまり、黒影自体に意思はなく、あれを操作する「何か」がいる。)
しかし、その「何か」はわからない。
ロランはなるべく記憶の底にある、「カインの歴史書」を懸命に思い出した。
しかし、「カインの歴史書」は古代歴史の内容であり、魔法そのものの知識ではないため、あくまでも名門貴族の教養として学習しただけである。
"先帝の御世にて、湧きでた黒影、幾多にて、より集まりて強大な黒影となりて、
王都を襲いぬ。
数多の忠臣これを防がんとするも、命おとしぬ。
逆臣ルライ、自らの心臓を捧げて王を弑逆せんとす。
黒煙立ち上がりて、王都は火の海となり、民は逃げ惑う。”
「先帝・・・アルカナル大王、そうだ大王は逆臣であるルライに弑逆されそうになった。」
ルライは王位を強奪するため、闇に魂を売り、謀反を起こした、そして、自らの心臓を捧げて封印されていた闇属性の魔法である黒影を発動させた・・・。
ロランは額に皺を寄せながら、必死に続きを思い出す。
”先帝、聖殿に額ずきて、女神に祈りぬ。
(創世の女神よ、無辜の民を救い給え、我を導きたまえ。)
然るに、天より「導きの光」現れて、黒影の急所を指し示めん。
先帝、剣をぬきて投げ、ルライの心の臓を貫く。”
どうやって大王はその黒影を倒したか・・・。確か、王は女神に祈り、慈悲深い女神が示した「導きの光」によって、黒影を操る「何か」、すなわち隠されたルライの心臓を探し当て、それを刺すことで、黒影を消滅させたはずだ・・・。
「導きの光・・・?それは無理だ。光属性の人間がいない限り・・・。」
ロランはどっと疲れを覚えた。
せっかく思い出したが、これでは何の足しにもならない。
流石に自分が女神に向かって祈ったところで、天啓となる「導きの光」が現れるとは思えない。
「カインの歴史書」は正確な歴史書というには信憑性の低い記述もあり、どちらかというと、古代の神話・おとぎ話ともいえる内容が多い。
(やれやれ・・・。結局何もわからないじゃないか。)
ロランは思わず天を仰いだ。しかし星は見えない。
(兄さんだったら、こんな無様な姿になることもなく、きっとすぐあの黒影をやっつけるんだろうな。)
ロランは兄の後ろ姿を思い出した。
強くて、憧れの背中を。
「ロラン、無事でよかった。」
そう言って、魔獣に攫われて消えてしまった、アラン兄さん。
ロランの心は暗く沈み込んだ。
あれほど、外出するなと厳重に言われたのに。
軽率な自分の行動をどれだけ呪っただろう。
(僕はこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ・・・。)
ロランの緑の瞳には強い光が宿った。
3日間が終了するまで、あと55時間。




