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アリシア王国の宮殿はアカデミーを含む広大な敷地である。

その宮殿はアリシア王国の創世の地であるティルモピラン山脈を背景に、難攻不落と名高く、壮麗な建物は堂々たる威風を放っている。


その最奥に王族が居住する建物があるが、これらは何重もの防御魔法や特殊魔法が張り巡らされ、敵を寄せ付けない。


ユキは静かにその居住へ向かう渡廊下の入り口にかかっている、一枚の鏡の前に立つと、鏡面に静かに手を当てた。


鏡面は水面のようにゆらめき、ユキは鏡の向こう側へ進んでいく。


その先には、極秘事項について王と協議をする「鏡の間」があるのだ。


ユキが到着すると、既に皆揃っていた。

白き癒し手の最高責任者(総長)であるエスメラルダはユキを見つけると微笑んだ。

そっとユキは王の前に頭を下げる。


「うむ。揃ったようだな。」


アリシア王国の国王ジェルトワ・アリシア国王は自らの臣下が揃ったのを確認すると、隣に控えている側近の男に目で合図を送る。


側近は一礼をして「ここに集う皆々様に申し上げます・・・。」と話をはじめる。


「ラシュタール王国の密偵から極めて重大な情報がもたらされました。」


ユキは「ラシュタール」の名前を聞くとギラリとした視線を側近に投げかける。


赤き龍の総長のイヴリン・ロワーシュ・クレハはそんなユキをチラリと見やると、ほんの僅かに右の眉を上げる。

この美しい女性のイヴリンからの、さりげない嗜めをユキは無視をする。


「続けよ。」

王はユキの鋭い視線に戸惑う側近を促す。

側近はやや気まずそうに咳払いをすると続けた。


「ラシュタール王国で今から1週間ほど前、先帝の死去から3年経つことを記念して、王城で弔いのパーティーが開催されました。」


「ラシュタール王国の現国王であるアスラン王、そして、王族及び貴族の皆様がご参加されております。」


「そのパーティーの前に、王族の皆様は先帝を偲ぶべく、王城にございます祭祀場の聖壇にお集まりになりました。」


特に珍しい情報は何もない。

先帝や祖先を偲ぶ祭事はどこの国でも行われていることだ。


「それがどうした?」


特殊能力者を統率する蒼き麒麟の総長、ラウル・ジルバーンは焦ったそうに口を挟む。


「その前に、皆様は先帝の妹君キーラ王女をご存知でしょうか?」


「???」


皆顔を見合わせている中、ルカが笑顔で答える。


「キーラ・アルセルカ・ラシュタール。たしか、先帝のお気に入りの1番末の妹君だね。

しかし、かなりの変わり者で、占星術に傾倒し、王女にも関わらず王宮には住まずに、王城のはずれの塔で暮らしているとか。」


「さようでございます。」

側近は恭しく頷く。


占星術!!

魔法が尊ばれるこの大陸において、占星術は国によっては軽蔑の対象である。

理路整然とした魔法学と比べて、占星術は曖昧で、不確かなことが多い。

時代によっては「民を惑わす学問」として禁じられたこともある。

そんな占星術を、仮にも大陸の大国であるラシュタール王国の王女が好むとは!


「そのキーラ王女とやらがどうしたんだ?」

ラウルは焦ったそうに尋ねる。


「先帝を弔う祭事が終わり、王族のみでお茶や軽食を召し上がっていたときでした。

キーラ王女が驚きの発言をしたのです。」


ユキは側近の話を聞きながら、アリシア王国の密偵に底知れぬ不気味さを感じていた。


ラシュタール王国はアリシア王国ほどではないにしても、大国に名を馳せる国である。

その王族が集う会は、厳重なセキュリティが施されているはずである。しかし、このように情報が筒抜けとは。王女の発言すらこのように入手できるとは!


「なんと言ったんだ?早く言えよ。」

せっかちなラウルはイライラしながら文句を言う。


「先帝の姉上様であるジルヴィアン王女が『先帝が身罷ってもう3年になるのね。最後はご病気で・・・でもお亡くなりになる前日までお元気でいらして、お苦しみにならなかったことは幸いですわ』とご発言した時です。」


「その発言を受けて、キーラ王女がこう仰ったそうです。」


『あら?お兄様は殺されたんでしょう?私恐ろしいわ。』


側近の発言を聞いて、一同は驚愕した。


病死だとされていた先帝の死が、あろうことか「殺害」だと発言する王女!


ラシュタール王族一同、この発言に凍りついたに違いない。

キーラ王女の発言がもし本当であれば、王への叛逆である。


「それは本当なの?」


冷静なイヴリンの声に、ようやく皆我に帰る。


ただならぬ空気の中、側近は汗を拭いながら続ける。

「キーラ王女はルカ様が仰るように変わり者で、小さな子供のように不用意な発言が多い方だそうです。おまけに普段は塔に籠って、ごく限られた侍女とのみお過ごしで・・・。王族の皆様もキーラ様をお見かけしたのは20年ぶりということだそうで、そしてこのご発言があり、当然、若きアスラン王をはじめ、王族の皆様がキーラ王女を質問攻めにいたしました。

しかし、キーラ王女は、たしかもういいお年の方なのですが、まるで少女のように泣き出してしまい、最後には発作を起こして意識を無くしてしまいまして、その場から連れ出されたそうです。」


「その後、ご体調の回復を待って、再びアスラン王直々に質問されましたが、やはり小さな子のように咽び泣くばかりで全く質問の答えは得られず・・・。」


「なかなか興味深いですねぇ。」

ルカは笑っているが、目は笑っていない。


「じゃあ、密偵にそのキーラ王女の動向を探らせればいいだろう。隙を見て『暴露の呪い』をかけるとか。」


ラウルは、「そう言ったことなら、俺に任せろ!」と言わんばかりに身を乗り出す。


「それはできかねます。」

「どうしてだ?」


側近は王を見つめる。

王は続けよ、とばかりに頷く。


「キーラ王女は、塔にお戻りになったその夜に殺されたのです。魔具の杖で全身を殴り殺されて。」

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