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声の方向に振り返ると、純白のローブを纏った女性がいた。

ただし、顔には白い仮面をつけていて、その顔はわからない。


(あのローブは!!)


アデルはその女性を見ると、胸がいっぱいになった。

女性が身に纏っていた純白のローブは、「白き翼」のローブである。こんな見知らぬ土地で、見知らぬ人(しかも敵意マンマン)しか会ってなかったので、そのローブはアデルに、とてつもない安堵をもたらした。


女性は何も言わずに男たちに手をかざす。

男たちは何かを喚きながら攻撃しようと同じく手を翳した。

その瞬間、まばゆい光りが男たちを包み込んだ。


「!!!???」


光は輪となり、まるで巨大なシャボン玉のようにぐるりと男の周囲を取り囲む。

女性は左手の人差し指を左斜め上に向けて、すっと動かした。

すると男たちを包んだ巨大なシャボン玉はふわりと浮き上がり、空へと昇っていくではないか。


アデルはあっけに取られてその様子を見ていた。男たちも呆然としていたが、やがて何かを喚きながら脱出を試みるも、シャボン玉は全く割れない。


そのまま空高く昇っていき、闇夜の中に消えていった。


女性はその様子を静かに見つめていた。

白いローブを纏っているが、スラリとして、そしてたっぷりとした銀色の髪の毛は夜の闇の中でもキラキラと輝いている。


「大丈夫?」


女性がアデルに話しかける。暗闇と仮面のせいでよく見えないが、優しい声音はアデルの緊張を解くのに十分だった。


「私・・・わたし・・・」


アデルは安堵のあまり言葉が出ない。


「大丈夫よ。」


そう言って女性は優しくアデルを抱きしめる。女性からは形容し難い甘美な香りがして、それがさらにアデルの緊張や不安を和らげる。


「私、本当は別のところから来たの。ここの人間じゃないの。」


(知ってるわ。)


アデルの脳裏に女性の声が響いた。

「!!」

(これはテレパス・・・?)

女性はアデルを抱きしめたまま、テレパスを使って優しくアデルに話しかける。


(あなたは元いた世界に戻らないとね。)


「でも、私、どうやって戻ったらいいか・・・。あと、この子、怪我は治ったみたいだけど、この後どうしたらいいか・・・。」


アデルは膝に頭を乗せて眠る龍をそっと撫でる。


(その龍は私に任せて。)


女性は龍を撫でるアデルの手をやさしく握る。


そう伝えると女性はそっとアデルに治癒魔法をかける。あっという間にアデルの体のあちこちにできた傷は治ってしまう。

ルカのときもそうであったが、本当に治癒魔法というのはすごい。すり減った魔力も元通りに戻っている。


アデルの体がすっかり回復したことを確認した女性は、すっと立ち上がる。


(私について来て。)


そうテレパスで伝えると、アデルの膝で眠る龍を優しく抱きかかえて、歩き出した。


アデルは慌てて立ち上がり、その後を追いかける。


(この人は何者なんだろう。白いローブからして、アリシア王国の上級魔導士であるようだけど・・・。)


なぜ白の上級魔道士がここにいて、龍とアデルを助けてくれたのか。

なぜ、アデルをここの世界の人間じゃないことを知っているのか。

なぜ、なぜ・・・。

次から次へと疑問が浮かぶが、スタスタと後ろを振り返らず歩く女性に声がかけられない。


やがて2人と1匹は大きな泉にやってきた。


泉の中心からこんこんと水が湧き出ており、その水面には、厚い雲から顔を出した満月がうっている。


女性はその泉のほとりに立つと、アデルを手招きで呼び寄せる。


(この泉に入って、強く元の世界に帰りたいと願うのよ)


「ここに入る・・・?」


女性はコクコクと頷く。


アデルは女性を見る。彼女はアデルに何か危害を加えるために嘘をついているようには見えない。

どうせ元の世界に戻る方法は全く知らないのだ。

このまま知らない世界を彷徨うより、イチかバチかこの女性の言葉にかけてみる方が良いだろう。

そう思うと、アデルは恐る恐る泉に足を踏み入れ、泉の中心まで歩き出す。

ふくらはぎのあたりまで水位が来た時に振り返って女性を見るが、彼女はもっと進むようにジェスチャーをしてアデルを促す。

どんどん泉の中心へ足を進め、やがて水位がアデルの首あたりまできた。

流石のアデルもこれ以上は進めない。


(強く願いなさい。女神様に。)


突然、女性からテレパスが飛んできた。


「女神様・・・?え?ここで?えーっと・・・。」


アデルは一瞬戸惑ったが、元の世界に戻りたいという強い気持ちを込めて願うことは簡単であった。


「女神様、お願いです。私を元の世界に戻してください!!!!」


アデルは想いを込めて叫ぶ。


(帰りたい!元の世界に!もうこんなところ嫌!!!)


すると、泉にさざ波が立ったと思うと、急に渦が沸き起こり、その急流はアデルの足を捉えた。


「へっ!!!わわっ!!何これ!」


溺れるまい、と必死に泳ごうとするが流れはアデルの足をとらえて離さない。

そしてそのまま泉の中心の奥底へアデルを引き摺り込む。


(何これ!恐い!!!)


(大丈夫よ)


再び女性の声が聞こえた。


(力を抜いて。あなたは元の世界に帰れるわ。)


次の瞬間、アデルは泉に吸い込まれ、そのまま消えた。


龍は何かを感じ取ったのか、パッと目を覚ますと、不安そうに周囲を見渡した。

しかし、まだ十分に回復していないので、襲いかかる睡魔に抵抗できず、すぐぐったりとしてしまう。


女性は何かの呪文を唱えて、仮面を消した。

「帰って行ったわね。」

そういうと優しく龍を見つめながら撫でる。

龍は眠気と疲労で朦朧とした意識の中、自分を抱きかかえる女性の顔を見た。

しかし、今にも混濁の意識に引き込まれそうな中では、はっきりと女性の顔は見えない。


ただ、優しい光を宿す、美しい紫色の瞳をのぞいて。


「あなたは然るべき人の元へ届けるわ。」


そういうと、女性は龍を抱いたたまま姿を消した。


後には静まり返った泉と、女性の芳しい香りが残された。

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