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満月が美しい。

暗闇の中で光り輝く、どこも欠けていない月はまるで完璧な希望のようだ。


ユキはアカデミーのなかでも1番高い塔の屋根の上に立ち、1人月光を浴びながら月を見つめていた。


彼の目には生まれて初めて小さな希望が宿り、そして幸せを感じていた。


ずっと探し求めていた人に出会えたのだ。


彼はアデルを思い浮かべた。

そして、あの美しい紫の瞳を。


彼女は自由で、快活で、自信に溢れていて、そしてどこか品があった。


言葉遣いは決して美しくなかったが、困惑した時にやや釣り上る目尻や、ふと伏せられたまつ毛、そして優しい弧を描く口元に、生まれながらの品性が宿っていた。


彼女のことはほとんど知らない。

しかし、どこか懐かしい、心揺さぶる甘やかなデジャブを感じた。


実際は、彼女ににまつわる事柄は辻褄のあわないものだらけであるが、しかし、どうしても否定できない彼の「内なる声」が、間違いなく「彼女」であり、「彼女以外有り得ない」と告げていた。


風が吹き荒び、厚くて大きな雲が美しい満月を覆い隠した。

月光は失われ、再び、世界は闇の中に沈んだ。


「おやぁ、ユキ。」


空中に浮かぶ1人の男が、芝居じみた声を出した。


「白々しいセリフだな。」


ユキは振り返りもせず、男に応えた。


「あはは。そうつれないこと言わないでよ。」


ルカは胡座をかいて、空中に浮かんでいる。


「アデルが『命の恩人』なのかい?」

「・・・。」

「しかし、随分それは難しいね。そうだとすると、今まで君が語ってきた話は、全く、すべてが違うってことになるよね。」


ルカはそっと右の人差し指をたてる。

すると風がその周りに渦巻き、キラキラとした光が集まる。


「しかし、アデル・ラ・トラヴィーチェ。不思議な子であることは間違いない。」


ユキはルカの言葉を聴きながら、そっと自分の左胸を押さえた。

今日は「発作」がないことを、彼はどこか当然のように感じていた。


アデルの瞳を思い浮かべていれば、邪悪な血は騒がない。


「ユキ、アデルは・・・。」

「わかってる。」


ユキは振り返って、真っ直ぐルカを見つめた。


「あんたの『可愛い生徒』に危害は加えないさ。」


「ほんとかねぇ。」

ルカはやれやれと言わんばかりの声を出した。


「ああ。」


ユキは再びルカから目線を逸らすと、上を見つめた。

優しく、しかし強い風が吹き、分厚い雲を吹き飛ばした。雲が去った空に、美しい満月は光り輝く。


「彼女は誰にも傷つけさせない。」


例えそれが自分だとしても、という言葉を、彼は飲み込んだ。

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