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「あっ!おっかえりー♪」
突然、暗闇の世界から、眩く輝く世界へと移動した二人に、夢かと思うほど能天気な声が聞こえた。
もちろんこんな風にその場にふさわしくないセリフを言うのはあの男しかいない。
「ルカ・・・先生?」
アデルは朦朧としつつも、声の主を言い当てる。
ルカは謎の男の首元を見ると大爆笑し始めた
「ぶははは!やっぱり首輪はずされたねぇ。
ほら、僕の言った通りでしょ、ユキ。」
そう言って、ニヤニヤと謎の男を見つめる。
ユキと呼ばれた謎の男は、もうウンザリと言った目でルカをみつめてため息をつく。
「あ、アデル。トランスルームへの旅はどうだった?」
「はぁ・・・。」
アデルは全く理解が追いついていない。
トランスルーム・・・ん?
「トランスルーム!!!!????」
トランスルームとは高位魔法の中でも有名なもので、時空を歪めた閉鎖された空間を作り出し、自分が閉じこもって敵から身を守ったり、或いは敵を閉じ込めたりする魔法である。
超高難度である上に、膨大な魔力量が必要なため、アカデミー卒業時点でも習得不可能な魔法であり、エリート魔導士が10年とかかかってできる魔法のはずである。
が、このユキとかいう男は既にその魔法を使いこなすレベルいるということだ。
もし、彼がアデルの同期であるならば、それは凄いとかいうレベルではなく、異次元と言っていいレベルである。
(なんなのよ・・・この男?ルカ先生とも知り合いみたいだし、大体トランスルームができる人が、なんで、アカデミーなんかに・・・?)
怪訝な目でユキを見つめるアデルにルカは目を丸くする。
「あれ?ユキ、もしかしてだけど、アデルに自己紹介とかしてないの?」
「・・・・。」
「えーっ!うっそーー!なにそれ、ねぇ君、やっぱりコミュ障?あはははは!アデルは未だに君のこと何にも知らないわけ???」
地面を叩いて大ウケするルカをユキは冷ややかに見つめる。
「うるさい。バカ教師。」
「あっ!暴言!」
ルカはそう言いながら再びニヤニヤとユキを見つめる。
ユキはそんなルカには反応せず、くるりとアデルの方へ向き合うと、真っ直ぐにアデルを見つめた。
「大丈夫か?」
「へ・・・?」
「見たところ、魔力酔いはしてなさそうだな。」
ユキはそっとアデルの左の首筋に指を当てると、何かを確かめるかのように優しく撫でる。
「ねぇ、あなたは誰なの?」
「・・・・。ユキ。」
「それがあなたの名前?」
静かにユキは頷く。
「赤い首輪をしていたってことは、赤き龍の所属なのね。私と同じ新入生なの?」
すこし迷うような間があって、再びユキは頷く。
(変なやつ・・・)
アデルはこの変な、謎のユキという男に聞きたいことはたくさんあった。しかし、どうにもわからないことだらけで、言葉がでてこない。
(だいたい、ユキって変な名前じゃない。そしてなぜ苗字を言わないの?)
言葉に詰まっているアデルをユキはじっと見つめる。
「アデル・・・。」
不意にユキがアデルを呼ぶ。
「お前の名前は、アデル、というのか?」
「え?・・・ええ、そうよ。私はアデル・ラ・トラヴィーチェ。あなたと同じ新入生よ。」
「・・・・。年齢は?」
「・・・?新入生なんだから15歳よ。」
「15歳・・・。」
ユキはショックを受けたように眉間に皺を寄せた。
(何なのよ?どう見たって、私は15歳にしかみえないでしょうよ!)
訳がわからないユキの振る舞いに、アデルは混乱と苛立ちを感じた。
「アデル、お前に年の離れた姉さんか・・・それかお前にそっくりな親戚はいるか?」
「はあ?何その質問?そんな人いないわよ。私は一人っ子だし、それに・・・それに・・・私は・・・。」
続く言葉をアデルは発することができなかった。
地震のような大きな揺れが生じたかと思うと、次の瞬間、地鳴りがするような大きな鳴き声が響き渡った。
アデル、ユキ、ルカの3人はその鳴き声の方向を見つめる。
「・・・・。あれは何?」
黄色のゴツゴツした鱗が全身を覆い、炎が燃え盛る大きな翼を広げた、巨大なトカゲ(炎の羽付き)が天に向かって口から炎柱を噴いている。
「あれは龍族直系子孫の魔獣、アンギャナスだよ。あ、あの炎に気をつけてね。アンギャナスの炎って、魔力強いから、火傷すると治癒魔法でも中々治んないだよねー。」
ルカは超びっくりな出来事が目の前で起きているにも関わらず、まるで薬草を説明するかのように話す。
「は・・・?りゅ、りゅ、龍族???」
「ちょっとぉ〜ユキぃ〜!ちゃんと封印してないの〜?」
「調査の為に、ということで王立直属部隊の研究員に頼まれて、今朝封印を解いた。飼育員がヘマしたんだろ。」
「えー?王立直属部隊のやつら何してんの・・・。あーあーこれ始末書モノじゃん。新入生の鬼ごっこは中止だねー。」
すると、どこからか黒いカラスが飛んできて、ユキの肩に留まると、
「緊急事態!緊急事態!スグ戻れ!」と叫んで消えた。
「だそうだよ、ユキ。」
「・・・。」
ユキは無表情のままだが、面倒くさいオーラをまとわせて、アデルの方に振り返った。
「俺はもう帰らないといけなくなった。」
「はぁ・・・。」
「アデル。」
「何よ?」
ユキはじっとアデルの紫色の瞳を見つめる。
そしてニヤリと笑った。
「話の続きはまた今度だ。お前の居場所も名前も、もうわかったことだし。」
ユキは目線を落として、アデルの影を見つめる。
「じゃ、"またな"。」
「いや、私は別に・・・。」
アデルが最後まで言い終わらないうちに、ユキは自分の足元にある影に飲み込まれて、煙のように消えた。




