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第9話 農具を作ろう


「す、すげぇ……って、畑を耕すんじゃなかったのかよ!?」


 大木の出現に腰を抜かしていた彼らだったが、さすがにテールは納得しなかったらしく詰め寄って来た。


「期待させといてなんだけど、魔剣は危険な武器だからね。大木は力を示したに過ぎないし、畑を耕すといった器用な真似は出来ないよ」

「ウゥ、そうなのかよ~……じゃ、じゃあ、オレに貸してくれよ!」

「魔剣を?」

「おぅ! オレにはほとんど魔力なんかねえけど、力だけならある! オレの力なら土を混ぜるくらいは出来るだろっ?」


 今の力は意図的に見せたものに過ぎず、実際はやろうと思えば地面をえぐるくらいは出来た。しかし単純に土いじりをするだけなら、魔剣に頼らなくても地道にやれるはず。


 こういうことで彼らのやる気を削ぎたくないし、何かにすがる真似はさせたくない。

 ただでさえ魔剣は持つ者次第で変わるものでもあるし……。


「……テールの気持ちも分かるけど、クワを作ってみんなに使い方を教えるべきだと思うよ。大木のおかげで木材なら豊富にあるし沢山作れる」

「そ、そうだよな……悪かったよ、ロシャル。あんたの言うとおり、みんなでクワを作るところからやるよ」


 分かってくれたみたいだ。力を見せる為だけに大木を生やしたけど、有効活用してもらえれば少しずつ意識も変わって来るはず。


「……ん? どうかした? マリシャ」


 テールとのやり取りを黙って見ていたマリシャから、強い眼差しを感じる。


 そういえばテールはマリシャの兄だった。妹の前なのに恥をかかせてしまったか?


「すごいすごいすごーい! ロシャルさまって本当にすごいです~!! あの兄が簡単に頭を下げるなんて、今まで考えられなかったんです。力を正しく示せば素直になるんですね!」

 

 別の意味での眼差しだった。とはいえ、テールは狼族の中でも一番力が強いし、自尊心を損なわせるようなことは言わないように気を付けないと。


 おそらく今までずっと態度も大きくて、誰かの言うことを聞くことも無かったはず。ミアへの態度を見ていればそんな気がする。


 抑止力として一端の力を見せたのは効果があったけど。


「にぁー! ロシャル、砂浜に来てくれにゃー」


 ――っと、ミアが俺を呼んでるな。


「ロシャルさま。ミアの所に行かれるんですか?」

「呼ばれたからちょっと行って来るよ。マリシャはどうする?」


 いつも姉妹で行動してるし、聞くまでも無いかもだけど。


「ええと、その前にお願いしたいことがあるんです。クワを作りたいんですけど大木を削る道具が無くて、ロシャルさまのお力で木を削ることって出来ますか?」


 そういえばそうだ。大木を木材にしろと言ったけど、彼らにはその道具も無いんだった。


「そうだよね、ごめん。すぐに切るね」


 畑を耕すにも木を切るにも道具が揃わなければ始まらない。しかし俺には魔剣しか無く、道具を作るにしても錬金のようなスキルはさすがに皆無。


 そうなると出してしまった責任として、魔剣で大木を切るくらいしか出来ない。

 

「ごめんごめん、すぐ切るよ」

「頼むぜ、ロシャル!」


 テールや他の狼たちが見守る中、俺は魔剣を使って水平斬りの動きを見せた。


 今まで動かない的を相手にしたことが無かっただけにどうなるか分からなかったものの、何とか切り込みを入れることが出来た。


「ロシャル! この石を使ってみんなに見せてやってくれ!」


 テールから適当な石を渡されたので木の棒の形を整えつつ、石をそれらしく削ることにした。

 もちろん農具を作るスキルが無いので、魔法を使っての作製だ。


「ええと、ここは粘土質だから柄を短くして……」


 本格的に農具を作るには素材が不十分ということもあり、2本だけしか作れなかった。それでも俺の作り方を見ていた彼らは、見よう見まねでクワを作り始めた。


「ロシャルさま。ミアが待ってますよ? お早く行ってあげてくださいー」

「マリシャは行かないの?」

「兄と一緒に道具を作ろうと思ってるんです。でもわたしは力が弱いので、せめて木を切る道具があれば役に立てるのかなって……」


 マリシャは魔法が使える。とはいえ、道具作りとなると何かに利用出来るわけじゃない。それに彼らの様子を見ている限り、大木を岩で削ることしか出来ていないのが現状だ。


「……マリシャ。君に魔剣を一時的に預けてもいいかな?」

「えっ? い、いいんですか? だってその剣はロシャルさまの大事な剣で、わたしなんかがそう簡単に扱えるものでも……」

「この魔剣は魔力を持つ者なら問題無く扱えるんだ。だからといって魔力消費でどうこうなるわけじゃないよ」


 少なくともここにいる狼たちが魔剣を手にしたところで扱えない。魔力を有する者に力を与えるといっても、全ては魔力量次第。


 マリシャの魔力が多かったとしても凶器になるほどじゃないし、彼女には(よこしま)な考えが無いから預けても問題無いはずだ。


「木を切るだけでもったいないですし、何かあったら!」

「大丈夫。木を切るだけなら魔剣は悪さしないよ。それに君も悪さしないだろうしね」

「わ、分かりました! ロシャルさまの魔剣でたくさんの木を切りたいと思います!」

「うん、頑張って」


 ミアに呼ばれているし、危険な目に遭うでも無いというのもあってマリシャに魔剣を預けた。

 これで農具の作製もはかどってくれるはず。

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