第8話 力の片鱗
「起きてにゃ~起きてにゃ~!」
「……んん」
「約束の朝が来たにゃ。早く起き上がってくれないとマリシャが怒るにゃ」
約束の朝? あぁ、そうか魔剣を使って畑を耕すんだったっけ。
上半身を揺らすミアの声が可愛くて心地良く聞こえる。こうしてぐっすりと眠ることが出来たのもミアのおかげだ。
「にぁっ!? やっと起きたにゃ」
「お、おはよう、ミア」
「ロシャルは寝起きが悪いにゃ……。木の実を置いといたから急いで食べてにゃ。ミア、先に行ってる~」
「ごめんね。ありがとう」
ミアの言うとおり、木の実がすぐ手元に置いてある。
食糧が豊富でも無いのに俺の分を確保してくれてたのか。木の実はそのまま食べられるみたいだ。口の中に入れて噛みながら集落へ向かわないとな。
「ロシャルさま~!!」
森を抜けたところでマリシャが尻尾を振っている。さすがにミアの家の場所は知ってるみたいだ。
「やぁ、マリシャ。よく眠れた?」
「あ~わたしが言いたかったのに~! ロシャルさまも眠れましたか?」
「おかげさまでね!」
「良かった~! みんなお待ちしています。一緒に来てください!」
マリシャに腕を組まれそのまま歩き出すと、集落では多くの狼たちがおれを待っていた。
彼らの中心にはテールが立っていて自慢げに話をしている。
魔剣で畑を耕すなんて自慢できることじゃないんだけど。
「あれ、ミアは?」
「あの子なら見回りに行ってます」
「まさかまた海賊が来たの?」
「そうじゃないんですけど、ここでは毎日誰かが海を気にすることにしてまして、今日はミアの番なんですよ~」
そうだったのか。だから俺を起こしてすぐいなくなってたんだな。
この島に来てまだ数日。島の全体図は大体分かった気がしてたけど、ここでの決まり事なんかはまだ聞いてもいない。また賊が来ないとも限らないし、ここでの暮らしにはそうした不便さがありそうだ。
「そっか。後で俺もやらないといけないよね」
「いいえ、ロシャルさまは島の救い主なのでそういうわけにはいかないです! 見回りはわたし達でやるので、新しいこととか戦い方を教えて欲しいです!」
とはいえ、格好が未だにボロ布な状態でとてもじゃないけど動くに動けない。地下の洞窟探索もしながら、装備品をどこかで調達する必要がある。
「ロシャル! ぐっすり眠れたか?」
「まぁね。ところで、彼らも見学を?」
「やっぱり魔剣の威力を間近で見せてやりたくてよ! だから派手にやってくれ!」
魔剣の使い方はそんなことじゃないのに、どういう風に伝えたのやら。
しかし魔力を注いで地面に突き刺せば、危険な力を秘めていることは見せられるはず。
あまり過剰に期待させても可哀想だし驚かせてみるか。
「ちなみにどこを畑にしたいのか教えてくれないかな?」
「……集落の土はどこも育ちそうに無いから、どこでもいいぜ! でもそうだな~……いつもこの辺に集まるし、この辺に畑を作ってくれるとありがたい」
畑を作るのが決定なんだ……。
「ロシャルさま。お願いします!」
期待させて悲しませたくないけど、魔剣で出来ることの現実は見せておくしかない。
「それじゃあ始めるけど、何か起こっても困るからちょっと離れてて」
「は~い!」
「よし、お前ら! ロシャルの魔剣が今から土を耕すから、ここから離れろ!!」
さすがに耕すことは出来ないので、違うやり方で示すことにする。
集落に被害を及ぼさないように"力"を見せつけるには、大きさで存在を示すものを出す必要がある。
そうなると手っ取り早いのは――
「はぁぁぁっっ――!!」
誤魔化しの声とともに、自然属性の魔力を込めて魔剣を地面に突き刺した。
特に何かを発動させるでもないものの、視界を遮るものが無い集落に置くとしたらこれしかない。
しばらくして――
地面全体が激しく揺れ、地面の奥底から大木が現れるとそのまま空に向かって伸び出した。
「きゃうっ!? ロシャルさま! 大きい、大きい木が生えて来ます~!! こ、これが、魔剣のお力……!」
俺のそばにいたマリシャが真っ先に驚き、地面に手をついて驚きを露わにしている。離れた所から見ている彼らも、見上げるのが精いっぱいで声にもなっていない。
しかし自然属性を込めてもやはり魔剣の力が優るせいか、色濃い黒々とした大木が生えてしまった。
もしこれが聖剣なら明るい緑の木々が生えてたかもしれないが。
「……こんなもんでどうかな?」