第7話 小さな森と秘密の猫
「ミア、ロシャル。明日よろしく頼むぜ!」
そう言うと、テールだけ小屋の方に戻って行った。
明るくなるのを待つにしても寝る場所を確保しないとだよな。
「ところでミア。俺はどこで寝ればいいかな?」
「にゃ? こっちにゃ。一緒について来て欲しいにゃ~」
この集落の小屋を使っているのは、ほとんど狼たちばかり。
マリシャや他の狼たちがまさにそうで、辺りはすっかりと静まり返っている。明かりも無い集落なせいか、小屋の場所さえつかめない。
それに、果たして流れついて来た俺が寝れそうな場所なんてあるのだろうか。
とにかくミアの言うとおり彼女の後ろをついて歩くと、
「えっ? 森の中にあるのかい?」
小屋がある場所とは逆にある、小さな森に進んでいた。
大木が何本かあるだけで、やはりそれほど深い森では無さそうだ。
「秘密のお家にゃ。いつもはミアだけだけど特別にゃ~」
光も無く暗い中、ひたすらミアの尻尾だけを当てにして歩いた先に――
無数のツタが壁じゅうに伸びきった中に、ひっそりとたたずむ小さな家がそこにあった。
「ここは……?」
「とにかく入ってにゃ~」
「う、うん」
秘密の家と言っていたし、集落の狼たちにも教えていなかったりするのだろうか。ミアに急かされながら、家の中に入ることにした。
家の中は外からの見た目に反し、窮屈にもならない広さがあった。ミアが寝るにしては広すぎる。
さっと見回した感じ、人間が暮らしていた痕跡は見えない。
しかし集落の小屋と違ってしっかりとした家のようだ。そうなるとここは、かつて村だった可能性もありそう。
「ここはミアが最初にいた家にゃ。マリシャたちが来る前からあったのにゃ」
「最初に? あれ、ミアはマリシャと姉妹って言ってたよね? 初めから一緒じゃなかったのかな?」
種族違いの姉妹ということは聞いていたけど、出会ってからが長いってことかな。
「この森に最初からいたのはミアにゃ。狼たちはその後に迷い込んで来たのにゃ。後から来たマリシャがミアの妹になったから姉妹にゃ!」
狼族よりも小柄な猫族のミアが姉という話を聞いて驚いていた。だけどそういうことか。狼たちは数も多いし体も大きい。そうなると小さな森の中にいさせるわけにはいかなかったとみえる。
種族の違いに加え、力が圧倒的に違いそうな彼らとどうやって仲良くしてるんだろう。
「色々聞きたいことがあるけど、ここに寝ていいのかな?」
「もちろんにゃ! ミアも一緒にゃ~」
「えぇっ? 一緒に!? え、マリシャとは別なの?」
「マリシャはもう寝ちゃってるにゃ。それに姉妹だからって一緒に寝るとは限らないにゃ」
言われてみれば確かにそうか。親と一緒に暮らしてても同じ場所に寝るわけじゃないもんな。
「そ、そうか」
「明日が楽しみにゃ~! ミアは寝るにゃ。おやすみにゃ~」
そう言うとミアはそのまま横になってしまった。
きちんとした家といってもふかふかなベッドがあるでもなく、草の束の上に寝転がるだけの簡単な寝場所のみ。
狭い場所でも無いので、俺も横になって寝ることにした。
果たしてテールや狼たちの期待通りの結果を見せられるかどうか――
とにかく朝を待つしかない。
「――……?」
ごろ寝してるだけの状態でしばらく経ち、体がだいぶ楽になった気がした。草の束とはいえ、ベットでも無い床の上に寝てるだけでどこかしら痛くなってもおかしくなかった。
それなのに全身がじんわりと温かく、それでいて心地の良さまで感じる。
甘噛みのような感触も――
「わっ!?」
「大きな声でどうしたにゃ? ロシャル」
「どうして一緒に寝てて、しかも俺の指を噛んでいるのかな……?」
「ロシャルは疲れてる顔をしてたにゃ。こういう時にミア、いつもこうするにゃ~。マリシャもこれで元気になったにゃ」
流れ着いた時も甘噛みされてたけど、もしかしてこれがミア流の治癒方法なのか。
後から迷い込んで来たマリシャにもしたってことは、何らかの傷を負って逃げて来たのを助けた可能性がありそうだな。
甘噛みでも効くとはいえ、ミアにはきちんとした治癒魔法を教えてあげないと。
「うん、俺も元気になったよ。ありがとう、ミア」
「それじゃもう一回寝るにゃ。ロシャルは朝に備えてにゃ~」
ミアは治癒能力が高い高位の猫族で、マリシャたちは攻撃性の魔法を使う狼族か……。
バランスとしては取れていそうだけど、魔法の使い方も教えることになりそうだな。