第5話 砂底の洞窟
「二人とももう大丈夫。だからしっかり掴まってるんだよ?」
「にゃう!」
「ずっとずっと掴まってます!」
旋風で勢い余って彼女たちを海に吹き飛ばしてしまったものの、二人とも泳げたので無事に助けることが出来た。
二人を両脇に抱えながらもう一度さっきの場所に戻ると、
「あれれれ? 砂が消えちゃったにゃ~……」
「すごいすごい! さすがロシャルさま!!」
風で砂を吹き飛ばしたに過ぎないはず。砂が岩壁にはじいて海に拡散してしまったのか。後ろに続いている砂浜の砂は残ったままなのに。
しかし砂を掘ることに成功したのは間違いない。
地面がむき出しになったのでミアに確かめてもらうことにする。
「ミア、ここに何か食べられるものがあるんだっけ?」
「にゃあ! 砂の底に何かがあるはずにゃ」
そう言うとミアは地面をかき分け、底に向かって入って行く。
マリシャは地面に触れたくないのか後ろで大人しくしている。
ミアが姉と言っていただけあって、ミアのすることを信じて待っている感じだ。
「ロシャル~!! 大変にゃ、早く下りて来てにゃ~!」
大量の食料を手に戻って来るかと思えば、底の方からミアの声が響いて来た。
「ミアの声が聞こえて来たけど、下に行けばいいのかな」
「ロシャルさま、ミアは何と言ってるんですか~?」
「底に下りて来いって聞こえるね」
「ええっ? そ、底に……? 変です、ここにそんな場所があるなんて……」
「ここで待っててもいいけど、俺と一緒に行くかい?」
ミアの声は危ない目に遭ってるというより、興奮してしょうがないといった感じかな。
マリシャは予想していなかったのか動揺してるけど。
「……ミアが心配だから行きます。それに、ロシャルさまが一緒なら安心ですから!」
「うん、安心していいよ。それじゃあ自分で下りるかい?」
「はい! お先に下りますね」
一瞬だけ不安そうな表情を浮かべていたマリシャは、すぐに落ち着きを取り戻した。
マリシャを先に行かせ、俺も続いて下に向かった。
「にゃっ! 待ってたにゃ~!!」
砂浜の底に下りると、興奮状態のミアが俺たちを出迎えてくれた。
周りを見回すと微かに日の光が差し込んでいるものの、薄暗い空間が広がっている。
先に下りたマリシャが光の魔法を使って、何とか見えるように。
「ミア、ここは?」
「奥の方にたくさんたくさん落っこちてるにゃ~! こっちこっち~」
「ええ? いや、そうじゃなくてね……」
ミアは尻尾をぶんぶんと回し、早く案内したいといった感じで俺を引っ張りだした。
「ミア! ロシャルさまが困ってるんだから、落ち着いて」
「でもでもとにかくスゴイにゃ! こっちこっち~」
「……んもう!」
「とにかく行こうか。ほら、マリシャも」
結局姉妹揃って手をつないだまま、そこに向かうことに。
――といってもそれほど奥行きがある洞窟ではなく、いくつかの洞穴が見えるだけだ。
ミアが指を差した所に着くと、そこには大量の木の実が。
「ど、どうして、ここに木の実が……?」
ミアが興奮する中、マリシャは信じられないといった表情で困惑している。
初めての光景に遭遇したような感じだろうか。
獣人集落になる前はどういう島だったんだろう。
流れ着いてからそんなに時間も経ってないし、何とも言えないな。
「砂浜の底の洞窟に誰かが暮らしていたのかな?」
「そんな、それはあり得ないです! だってこの島はわたしたち獣族しかいないんですよ?」
「……だとしたら、洞窟に生息する動物が落として行った――? でも地上は砂浜だし……うーん?」
海賊が割と頻繁に襲って来ていたようだし、もしかしたら連中の隠れ家なのか。
でもマリシャは違うと言ってるし……。
「ロシャルロシャル! 木の実だけじゃないにゃ~! こっちにたくさん石が転がってるにゃ」
「石? どんな石?」
「これにゃ! ミアと同じ感じがするにゃ~」
ミアが手の平に乗せて見せてきたのは、何らかのエネルギーが感じられる鉱石のようなものだった。
白く光っているだけで判断すれば、治癒力が高そうな感じだ。
「ロシャルさま。わたしもその石から何か感じます」
ミアとマリシャは魔力があるし、これに反応してもおかしくない。
他にもいくつか転がっていてそれぞれで違う色をしている。
「これはただの鉱石じゃないね」
「そ、そうなんですか?」
俺が使える支援系魔法の感じに似ているし、威力のある攻撃系魔法にもなりそうな魔力エネルギーだ。
もしかして海賊はこれを狙って襲って来てるのか。
「ミア。見つかったのはこれだけかな?」
「奥まで行って無いから分かんないにゃ。どうするにゃ~?」
ミアたちには木の実だけを持って帰らせるとして。
ひとまずセヴィラント島のことを知って、それからだな。