第4話 食料探しと砂
何という変わりようなんだ。
これがさっきまで俺を睨んでいた少女の本当の姿なのか。
王国では忌み嫌われて追放された魔剣なのに、そのおかげでここまで変わるとは。この子たちの後ろの方に見える獣人たちからも、俺を見る眼差しがどことなく違う。
「……魔族さん、人間だったにゃ?」
「ごめんね、実はそうなんだよ。俺のことが怖いかな?」
「怖くないにゃ! ロシャルはミアたち守ってくれたにゃ! これからも守って欲しいにゃ。人間でも全然いいにゃ~」
「うん。ありがとう。もちろん、守るよ!」
最初から人懐こいミアならそう言うと思っていた。
この子はいいとして……。
「も、もういいかな? ええと、マリシャ?」
「マリシャ! わたし、マリシャ! ミアの妹だよ! ロシャルさま。ずっとずっとずっと、ここにいてね」
ケモ耳の感触がふわっと鼻をくすぐって来る。
間近で見えるマリシャの耳の特徴は、狼のような気が。
「きみは狼族……? でも猫族のミアと姉妹っていうのは……」
「狼族のマリシャ! ミアはここで一緒に生きてるから姉妹なの。ロシャルさまも一緒に生きる~!」
一緒に生き長らえて来たから姉妹なのか。
てっきりミアの方が妹だとばかり思っていたのに。
でもまぁ、魔剣を振ってここまで喜ばれたら、ここをずっと守っていくしか無いよな。
辺境の獣人集落で何とか生きていくことにしてみよう。
そういえば腹に突進されたからじゃないけど、お腹もすいて来たような……。
「と、とりあえず、戻ろう。それと、何か食べる物があったら――」
「ミア知ってる! 食べる物、こっちに埋まってるにゃ~」
「えっ、埋まってる?」
興奮状態のマリシャを引きはがし、今度はミアが俺の手を引っ張って歩き出した。
そもそもこの子たちも他の獣人たちも、一体何を食べて生きているのだろうか。
力はありそうだから、果物あたりを探して食べていそうだけど。
「ミア、どこまで行くのかな?」
力強く握りしめられたまま、砂浜の端の方に連れて来られてしまった。
集落じゃなくて、水の近くに食べ物があるとか謎な気がする。
「ロシャルさま。大丈夫、大丈夫! 人間でも食べられるから~!」
ミアに引っ張られつつ、マリシャも俺から離れずぴったりついて来ていた。
魔剣のおかげとはいえここまで好意を持たれるとは思わなかったな。
最初は魔族と思っていたはずなのに、どっちでも気にしなかったのかも。
「ロシャル。ここ、ここを掘ってにゃ~」
「え? 掘るって、砂を?」
「前に来たときは岩と土だったにゃ。でも砂浜だから砂になってしまったにゃ。ここを掘れば出て来るはずにゃ~」
ミアが指を差している所は、一面砂だらけ。
俺が流れ着いた砂浜に比べれば、砂の部分は少ない気もする。
賊の連中が放り投げた残飯でも捨てられていると思っていただけに、砂だらけの光景は驚くばかり。
砂浜は島をぐるりと一周出来るわけでは無く、今案内されている所で行き止まりになっている。
何とも硬そうな岩の壁が立ちはだかっていて、向こう側には簡単に行けそうにない。
辺境に来てすぐに獣人を助けて、その次は開拓ってことになるのか。
とにかく掘ってみるしかないな。
「魔剣で掘るわけにもいかないし、手で掘るしか……」
「ロシャルさま! 手を使わずに掘れるです」
「どうやって?」
俺が聞く前に、すでにマリシャが手の平を地面に向けていた。
そして、
「こうだよ。えいっ!!」
掛け声とともに、一瞬だけ砂が舞い上がった。
これはもしかして、風魔法……? そういえばマリシャが俺に火を放ったとか言ってたな。
「それは風の魔法だよね? 風で砂をどければいいのかな?」
「そうだよ。わたしだと少しだけしか掘れない。でも、ロシャルさまならきっと――」
聖騎士として継いだ時、五大元素魔法を使えるように学んでいる。
それでも俺の力のほとんどは、剣を振るうことに注いだ。
国境守備では回復系の支援ばかり使っていたけど。
果たして滅多に使ったことが無い元素魔法で、どこまで掘ることが出来るのか。
魔剣を使えばすぐに済みそうだけど、掘るといったことに使うのは違う気がする。
「よ、よし。ミアとマリシャは少し離れてて」
「分かったにゃ!」
「ロシャルさま、頑張って~」
ケモ耳姉妹の彼女たちの声援を受けた以上、失敗は許されない。
俺は何となく手の平に魔力を集め、一面の砂に向けて全力で放った。
ゴオッ、とした旋風を起こし、みるみるうちに砂が取り除かれていく。
「にぁぁぁぁぁ!? 飛ばされるにゃ~!!」
「きゃぅぅぅ!! 助けて~ロシャルさま~!」
しまった、彼女たちが。
掘るのは後回しにして、ミアとマリシャを急いで助けることにする。
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