第3話 魔剣と一目惚れ
「お前、魔族の男! 何しにここへ来た?」
「偶然ここに流れ着いただけなんだけど、うーん……」
「この集落、何も無い! でもここを狙って来たなら、集落のみんな、お前を追い出す。魔族でも追い出す!」
何も無いのは見てすぐに理解した。
集落を眺めてみても、少数の獣人が荒涼の土地に住み着いているようにしか見えない。
いくつか見える小屋も適当で、雨風はしのげそうだけど不安定な作りだ。
作ったことが無いのと、教える者がいなければ仕方が無いかもしれないけど。
獣人の集落にしては荒れているけど、狙って来たという言い方は気になるところ。
もしかして他の種族に何度か襲われたりしているのだろうか。
「ミア、魔族さんにいて欲しいにゃ!」
「お前、今すぐ出ていけ!!」
「困ったな……」
猫族のミアはいいとして、もう一人のケモ耳の子は俺の話を聞いてもくれない。勝手に流れ着いたからって、優しくしてくれるわけじゃないよな……。
そうこうしているうちに、様子を見ていた他の獣人たちがどこかを気にして騒ぎ出した。
方角的に砂浜の方だろうか。
「来る! 来る、来るゾ!!」
「夜になる前に追い出せ、追い出せ!!」
そういえば、今は昼間なのかそうじゃないのか分からないな。
空は曇っているものの、まだ暗さは無く夕方手前といった気がする。
獣人が住む島といっても、他に得体の知れない何かが出て来ても不思議じゃない。
「ええと、ミア? 彼らは何を騒いでいるのかな?」
「人間が来るにゃ! この集落、何も無いにゃ。それなのに夜になる前に襲って来るにゃ! 魔族さん、助けてにゃ!!」
「えっ、人間が?」
驚いたな。てっきり人間が暮らす大陸とは別の島に流れて来たと思っていたのに。
近くに国があって、この集落の何かを狙っているんだろうか。
「魔族の男! お前も奴らと同じか? 同じなら今すぐ出てけ!!」
「い、いや、違うよ」
「……じゃあこの集落、助けろ! 助けたら少し信じる。早く行け!!」
よほどいて欲しくないのか、マリシャという女の子は俺の背中を強く押してくる。
「ま、待って待って。行くってどこに?」
「お前が来たとこから、奴ら来る。ここに来る前に、追い返せ!」
「砂浜か。そっか、港とかも無いしそこから船で来ればあっという間か」
「早く行け早く!」
大人の獣人たちは騒いでいるだけで何かをするでも無さそうだし、俺が行くしか無い。
まぁここなら、思いきり魔剣を振っても咎められることは無いよな。
まずは相手を見ておこう。
「魔族さん、行って来てにゃ~!」
「う、うん。行って来るよ」
とりあえずの味方、猫族のミアの応援を受けて砂浜に向かった。
恐らく海賊か島荒らしの類だと思うけど。
砂浜は幹の細い木々を抜けて、すぐ目の前にある。
そこから見渡す限りの海――かと思えば、目を細めれば別の島あるいは大陸があるのが見えた。
奴らは比較的近い島から、何隻かの船で向かって来ているようだ。
船の様子を見る限り、多少ながら武装している感じか。
とにかく、砂浜に上陸させるわけには行かない。
不意打ちになってしまうけど、魔剣を使わせてもらう。
元々漆黒の魔剣が泥かぶりで、何の剣なのか自分でも分からないけど。
「ハァァァァァァァァ……!!!」
向かって来る数隻の船に向けて、魔剣を思いきり振り下ろした。
するとすぐに、
「おいおいおいおいおいーー!! 何モンだ、てめぇはぁよぉぉ!」
「商人がいっちょ前に木剣なんか振ってんじゃねえぞ」
「ガキが一人で何が出来るってんだ? あぁ?」
まだ距離があるものの、奴らの騒がしい声が聞こえて来た。
目を凝らしてよく見ると、男たちが数十人ほど身を乗り出して騒いでいる。
その装備はお金があまりかかって無さそうな革鎧。
不意打ちには太刀打ち出来そうに無いような、何とも心細い感じだ。
魔剣の不意打ち攻撃はすぐに効果を表さないこともあり、賊らしき男たちは武器を手にして襲う態勢を見せている。
しかし――
「なっ、何だありゃあ!? 親分!! 手前からどでけえ大波が向かって来やすぜ?」
「あぁん? 大波だぁ? げげげげっ!? 間に合わねえじゃねえかーー! くっそ、急いで転回しろ! グズどもがーー!!」
「へ、へい!! ぐぬぬぬぬ……駄目だぁ、間に合わねえええ!!」
奴らに向けて放ったというより、海面に向けて魔剣を放った。
それが時間差で波が起こり、砂浜に近付けないほどの巨大な大波が奴らに向かって生じた。
その結果奴らは砂浜にも近づけず、もはや自分たちの身を守るので精一杯のようだ。
それでも時すでに遅し状態で、数隻あった船はすでに転覆し奴らは一斉に海に飛び込んでいる。
その奴らに向かって、
「俺はセヴィラントを守る騎士ロシャル・コンラドだ!! 今回は命までは取らないが次も来たら、その程度では済まないからな!」
泳ぐのに必死で聞こえて無さそうだけど、多分奴らには届いたはず。
とりあえず追い返すことには成功した。
これで仲良くなってくれれば――うん?
「格好いい……! 格好いい格好いい格好いい!!」
「へっ?」
ドーン、とした衝撃とともに、俺の腹にケモ耳の少女が突進して来た。それもさっきまで俺のことを追い出そうとしていた少女が。
猫族のミアは、すぐ近くで驚いたまま固まっている。
これってもしかして、全て見られていたってことなのだろうか。
名前も名乗ったし騎士と叫んだから、多分人間だったことにショックを受けているのかも。
「ロシャルさま~! マリシャ、魔剣のロシャルさまに惚れたの~! 大好き大好き大好き!!」