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第2話 追放先のケモ耳

「よし、ゼノン。少年を商船に連れて行ってくれ!」

「承知しました」


 ゼノンという騎士はエルフの騎士だ。

 女性のエルフのほとんどが聖職者なのに対し、彼は騎士として活動している。


 他の騎士よりは礼儀正しく、接し方はマシな感じもするけど……。


「少年。商船にはエルフの騎士が乗り込みます。黒土を手にして、無くさぬように」

「あ、はい」


 ――そして、魔剣だけを携えた俺は黒土を手に商船に乗り込んだ。

 どこの国に向かうとも聞かされないまま……。


「魔剣の少年。途中の港で荷を降ろします。そこから先、船は目的地に向かって突き進むだけです。心細くなると思われますが、魔剣と黒土があれば何とかなるでしょう。それでは船室で休みなさい」


 ゼノンに言われるがまま、することも無いので横になった。

 そしていつの間にか眠っていた。

 

 眠っている間に着くだろう、そう思っているといやに静かな気がして目を覚ます。

 船はどこかに向かって動いているようで、揺れが収まっていない。


 外がパニックになっている感じは無さそうだが……。

 話し声も全く聞こえて来ないし、俺を起こす気配も感じられない。

 

 気になって甲板に出てみると、そこには誰の姿も無く無人の商船だけが動いているだけだった。


 ま、まさか――事故……違う、俺を置いて行ったのか?

 魔剣を手に、俺はそこから何も考えず海に飛び込んでいた。


「はぁっ、はぁっ……ぐぅぅ、どことも分からない海のどこに行けばいいって言うんだよ……」


 体力には自信があった。

 それでも魔剣を手にしながらの泳ぎに加え、焦りと困惑でどんどんと体力が削られて行く。


 聖騎士をはく奪され、商人として送り出されただけでなくまさかの追放。

 俺はこのまま王国にも戻れず沈んでしまうのだろうか。


 そこからの記憶は無く、途中で意識を失ってしまった。

  

 ◇


 俺はどれくらい意識を落としていたのだろうか。


 恐らくどこかの砂浜に流れ着いたらしき波音が、耳元に聞こえて来る。

 口の中はジャリッ、とした砂の感触。


 右手には魔剣がしっかりと握られ、黒土は無くなることなく腰衣に残っている感じだ。

 聖騎士としての元々の頑丈さが幸いしたのか、どこも怪我を負ってない気がする。


 全身は乾いた土がこびりついているものの、特に痛みのようなものは――


「――ええっ!? か、かじられてる……?」


 かじられているのは足の指先で、まだ生えかけた歯で甘噛みされている弱さだ。

 恐る恐る視線を向けてみると、そこにいたのは――


「け、獣……!?」


「にぁっ!!?」


 俺の驚く声にぴょこんとした耳を立たせて、獣の女の子は慌てて離れた。

 獣耳の女の子ということは、獣人だよな……。


 種族は分からないけど、見た目は猫族に見える。

 俺が目を覚ますと思っていなかったのか、女の子はそのまま村らしき方向へ逃げてしまった。


 ……いちち。足はさすがに少しむくみがあるな。かじられて楽になった気もするけど。

 商人といっても、らしからぬ軽装なのがかえって助かったのかも。


 まさか商船ごと追放するなんて思わなかったなぁ……。

 無我夢中で飛び込んで泳いでたから、船がどこに行ったのか分からないし。


 とにかくさっきの女の子が向かった所に行くしかない。

 今となっては大事にしまっていた黒土も役に立ちそうに無いけど、何とかなるはず。


 砂浜からほど近い所に進むと、村とは呼べないくらいの小さな集落があった。

 そこにいたのは全て獣人のようで、人間は一人もいないように見える。


 俺の足をかじったらしき女の子を探していると、手招きをしている女の子たちが見えた。他の獣人たちに怯えている様子は無く、襲って来る気配は無いように見えるのでそこに向かった。


 まずは女の子たちに近付く……ものの、何て声をかければいいのか。

 迷っていると、さっきの子が積極的に話しかけて来た。


「魔族さん、足は大丈夫かにゃ?」

「えっ、魔族? ……とりあえず足は平気だよ」

「ミア、何もしてないにゃあ。したのはマリシャニャ!」


 そうか、この猫の女の子はミアっていうのか。

 気付いたら足をかじられてたけど、その前にもう一人の子が何かしてたってことかな。


「えーと、きみが俺に何かしてくれたの?」

「してない。魔族が勝手に流れ着いた。海藻が鼻についたから火を放っただけ」


 マリシャと呼ばれた女の子の耳は猫族の子と違い、ピン。と立った耳をしていて種族は不明。

 猫の子は人懐い感じがするのに対し、もう一人の子はずっと俺を睨んでる感じだ。


「火……? どうりで服が乾いてるなぁって思ってたけど、そうだったんだ。ありがとう!」

「違う。火が消えずに足が焼けそうになっていた。それをミアが消した。礼はミアのもの。ミアに言え」

「足をかじってたのって、もしかして?」

「マリシャの火は強力にゃ! ミアが消してあげたの~!」


 なるほど、このケモ耳の女の子たちは魔法を使用する子なんだ。

 獣人の集落だけど、魔法が使える獣たちの土地なのかもしれないな。

 

 辺境に流されてしかも獣人の集落。

 俺を魔族と勘違いしてるせいもあって、あまり警戒されてない。


 海に飛び込んでしまったとはいえ、あのまま乗船しててもどこに着いていたのか不明。そう考えたら相手が獣人でも助けてくれたことに変わりはないし、幸運と思うしか無い。


「ええと、ここはどこなのかな?」

「セヴィラント島にゃ! ゆっくりしていいにゃ~」


 ――島! そうか、どこかの国かと思っていたけど島だったんだ。

 猫の女の子はいいけど、もう一人の子は手強そうだしどうしたらいいんだろう。

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