第14話 黒月のローグ
思わずミアを抱きしめるようにして、気配ごと身を隠してしまった。
まさか本当に他国に繋がっている洞窟だったのか?
そうだとしたら狼たちの集落に行かせるわけにはいかないし、知られるわけにはいかない。それに、クレイゴーレムの要塞化はまだ始まったばかり。
せめてゴーレムの守りが固まってくれさえすれば心配することも減るのに……。
「ロシャル、何か声が聞こえて来たにゃ」
「……うん、しばらく大人しくしててね」
ミアを隠しつつ、この場をやり過ごそうとしていると複数の足音が聞こえて来た。
様子を見てそれから決めよう。
「おかしい……さっきまで感じていた獣の気配がここで途切れている。お前らも感じたよな? なぁ?」
「へ、へい。あっしも感じておりやす。あれは確かに獣のニオイ……」
「じゃあ何で急に消えたか分かるか?」
「…………」
声だけで判断するに、荒くれ者が洞窟に探索に来たような感じがする。人数にして4、5人程度。手ぶらで来ているはずも無いし、ここへはおそらく――
「いや、待て……そこの岩の辺り……何かおかしいと思わないか?」
「岩がですかい? あっしの目にはただの岩にしか」
「ちっ、おい、ヒギン! お前確か索敵出来たよな? あ?」
「へへへ、お任せを……」
「おめえら! 武器だけでも構えとけよ! 必ず潜んでいるはずだからな!」
ボス格と手下4人のうち、索敵持ちが1人か。厄介だな……。
どうするか。ミアをこのまま隠しつつ威嚇魔法でも――
「ミア、ここで待っててくれるかい?」
「どうするにゃ?」
「少し動いて来るよ」
「にゃぅ」
よしよしとミアの頭を撫でて落ち着かせたところで、俺は奴らが仕掛けてくる前に手にしている木の棒をそれらしく見せてやることにする。
奴らの1人が岩に近付いて来た所で、木の棒に聖属性をかけ放り投げた。単なる木の棒といっても、魔法で出した木で出来た棒だ。見た目だけなら上手く誤魔化せるはず。
「ぬっ? こ、こりゃあ……」
ちょうど岩に近付いて来る寸前だったので、眩い光に覆われた木の棒が飛んで来たことに意表を突かれ、男は手前で動きを止めてくれた。
「――むっ!? ボス! 聖剣ですぜ! 岩の近くから聖剣が飛んで来ましたぜ」
「なにぃ? 聖剣だぁ? こんな辺鄙な洞窟にあるわけねーだろうが! よく見ろ! そりゃあ、ただの棒だ!! 近くに敵が――」
奴らの実力に関係無く、意表を突いた俺は岩に近付いた男に蜘蛛の糸を投げた。
「ぬおわっ!? くっ、と、取れねえ……ボ、ボス、糸が糸が――」
まんまと動きを封じ、そのまま男の後ろについて相手の出方を待つことに。
「――大人しくしろ。悪いが下手に動くと、木の棒の先端があんたの首に近付く……」
「な!? いつの間に背後に……」
「大人しくしていれば危害は加えない。だがこれ以上動くようなら……」
「まさかさっきの聖剣はお前が……!?」
まずは敵かどうかを見定める。そしてここへ来た目的を聞いておかなければならない。それにここなら、ボスと呼ばれる男たちからは俺の姿が見えない。
仲間の男を人質にしつつ話を聞いておこう。
「お前たちは何者だ? 何故この洞窟に進んで来たのか、素直に答えてもらいたい! そうすれば危害を加えないと約束する!」
岩と洞窟の暗さも相まって、俺の姿が見えていないようだ。このままこの男を拘束すれば何とかなるはず。
「――貴様こそ何モンだ? まさか俺らを黒月のローグと知っての脅しじゃねえだろうな?」
黒月のローグ……?
どこかの野盗だろうか。それにしては索敵持ちの男がいるし、ただの男たちじゃ無さそうだ。
「悪いが知らないな」
「俺たちを知らねえだと……? どこのモンだ、てめぇは? 仲間を背後から脅しておきながら姿を見せねえたぁ、随分な態度を見せるじゃねえか!」
「こちらが姿を見せるには、まずはこの洞窟に来た目的を聞かせてもらいたい。その答えによって決めさせてもらう!」
盗賊かあるいは洞窟荒らしか。
どっちにしてもこの先へ進ませるわけにはいかない。
「目的だぁ? それを聞かせるには、そいつを解放してもらわねぇと割に合わねえな! 何せ岩に近付いただけで何もしてねぇんだからな!」
意外にも交渉術は備えている感じだ。ミアが隠れていることを悟られないようにしつつ、ここで引き返してもらうように準備をしておかないと。
「……いいだろう。この男を解放する。その代わり下手な真似をすれば――」
「けっ、面倒な野郎だ。いいぜ、大人しくしててやらあ!」




