第10話 過ちの剣
「ここから見えるのが人間たちの大きな国にゃ~」
「――本当だ! 割と近い所に国があるとは思わなかったよ。まぁ、船でも無いと行けないと思うけどね」
「ロシャルなら悪い人間たちが来た時に船を奪えそうにゃ」
「そうなんだけど、来られても大変だろうし何とも言えないなぁ」
ミアのところに来て早々、俺に見せたいものがあるといって洞窟がある所とは逆側まで連れて来られた。見晴らしのいい天気限定とはいえ、そこから見えたのは明らかに大国らしき建造物がそびえる大陸だ。
見えたからといってそこに行ける手段が無い。それよりも今は集落を整えて、ここを狙う賊たちに備えなければ。
俺一人だけならともかく、島で暮らす彼らにも力を持たせなければ……。
「ズウウウゥン……!!」
どこからともなく大きな音が聞こえて来る。音とともに地面が大きく揺れているような。
「な、何だ!?」
「にゃにゃにゃ!! ロシャル、大変にゃ! 変なのが向こうから見えるにゃ」
「変なの?」
ミアが指しているのは集落がある方だ。まさか大木が倒れるほど切りまくったわけじゃないよな?
それはさすがに無いと思うけどマリシャが心配だ。
「マリシャが危ないにゃ!! ロシャル、急いで戻るにゃー」
「えっ、マリシャが?」
姿が見えないのに何で分かるのかはともかく、マリシャには魔剣を預けてある。急がなければ。
集落に戻るとそこから見えたのは、
「きゃうぅっ!! お兄ちゃん、早く早く魔剣を地面から抜いて!」
「そうしてるけど抜けねえし、剣がオレを放してくれねぇぇ! くっ、何でこんな……」
巨大な魔物らしき存在と、マリシャやテールと狼たちがそこから逃げれず戸惑う光景だった。
何でこの島に巨大な魔物が?
「ロシャル、何とかして欲しいにゃ……」
「もちろん助けるよ。まずはあの魔物からマリシャたちを離そう。その後ミアは、彼らの回復をして欲しい。出来るかい?」
「にぁ! 砂浜に集めてくれたらまとめて面倒みるにゃ!」
「それじゃ、すぐに回収するからここで待っててね」
不明の魔物をどうにかするよりも、まずは彼らとマリシャを救うのが先だ。魔剣を手にしていない今なら、風の力を借りて俊敏に動くことが出来るはず。
魔剣を持っている時は魔力のほとんどを魔剣に使用している。それはすなわち、魔剣と調子を合わせて戦うのを基本にしているからだ。
しかし魔剣を手元から離した今なら元素魔法の力を素直に使うことが出来るし、目に見えないバフを使って一時的に身体能力を上げられる。
「すぐに戻るからね、ミア」
腰を低く落とし、砂に足を取られることなく彼らがいる場所まで神速で到達した。
「は、速いにゃー!!」
聖騎士の鎧を着ていても出来た動きだけど、やはり布服だと軽さがてんで違う。自分でも驚くくらいに身が軽い。まるで鳥となって急降下するかのように、風を切る早さで動くことが出来た。
「マリシャ! 俺に掴まって!!」
「きゃうっ!? ロ、ロシャルさま? ど、どこから――」
「話は後だよ。ほら、手を!」
「でもお兄ちゃんが!」
他の狼たちは動けているが、魔剣を握っているテールだけが魔剣から離れられなくなっている。
「テールもすぐに助ける。とにかく行くよ――」
「ええええええええええ!」
驚く声を響かせながら、マリシャをいとも簡単に砂浜へ移動させた。マリシャは突然のことで訳も分からずに両手で俺の腰を強い力で締めて来た。
といっても爪は引っ込んでいたし、肉球を押し付けて来ただけなので痛みは無い。
「きぅん……ロシャルさま、ごめんなさいごめんなさい!!」
「気にしないで。君はミアと一緒に彼らの手当てをしてくれるかな?」
「はい!」
「任せてもらってもいいにゃー」
マリシャとミアが一緒なら問題無いだろう。
俺はテールをのぞき、逃げまどっている他の狼たちを次々と砂浜へ逃がした。
そして、
「ロ、ロシャル! 悪ぃ……オレ、オレのせいでこんなことに……ほんの少しだけマリシャから借りて、オレの力で何とかしようと思っただけなんだ。そ、そしたら、化け物が出て……」
魔剣の暴走というより、下心がある状態で魔剣を使おうとしたのが原因か。
「……過ちは誰にでもあるから仕方ない。でもテール……魔剣で力を誇示するなんて、それは見過ごせない!」
「すまない、本当にすまない……オレ程度の魔力でも操れるかと思ったのが間違いだったんだ」
厳しく言うつもりはなかったものの、テールは片手で頭を押さえて後悔を露わにしている。もう片方の手は、魔剣にくっついて離すに離せない状態だ。
「とにかく、その手を魔剣から解放させるよ。詳しい話は魔物を何とかしてから聞くよ」
「うぅっ、た、頼む……」
持ち主である俺が魔剣を握ればすぐに解放されるはず。




