幕間 閉幕
同時刻。
宮城県石巻市、田代島。
猫が有名な田代島だが、学院の工作員によって住民や猫は既に屋内や学院の船内への避難が進められている。
事態の収拾がつき次第、彼らの記憶は魔術によって操作され、何事も無かったかのように日常を過ごすこととなる。
そんなことは露知らず、島民達は謎に満ちた「恐ろしいモノ」が襲来したと聞き、ひどく怯えていた。
連盟員が運転する船に乗せられ、山村は島へ上陸する。
「ネア様は大丈夫だろうか。それに、道明が言っていた『ベル』という名。……胸騒ぎが止まらない。私は、ネア様が取り戻そうとしているものを知っていたような気がする。ネア様は何者なのだ?『ベル』……とは、何者、で……。いや、今考えても仕方が無いことを考えるのは止めるべきか」
アモンがベルから奪った「バエル」の力を解放したせいか、山村は真実に近づきつつも、やはり遠方の身で未だ「バエル」を認識するには時間がかかるのか、考えていたことを振り払うようにしてペストマスクを外し、杖を構える。
様々な効果を含んだ宝石もポケットに移し替え、戦闘準備は完了。
船から飛び上がるにして上陸した山村は、颯爽と島の中心へと向かっていった。
人っ子一人いなくなり、ガラリと空いた道を往く。
遊歩道の横にひっそりと建っている神社、そこから現れたるは悪魔アモンが従える、40もの軍勢。
それはフランスとイギリス、そして日本を中心に展開していた。
連盟員が各地に散ったのは、それを学院の力に頼らず自力で収束させるため。
そして山村も例に漏れず、その収集にあたることになっていたのであった。
「現れたか」
山村は構えた杖に魔力を込め、非力なものから強力なものまで、次から次へと悪魔が現れる空に杖を向ける。
そして、
「【魂魄掃射砲】」
消費魔力の高さに見合った高威力な魂魄魔術である「魂魄砲」をさらに拡散させることで、さらに高い魔力消費量と引き換えに、強力な魔術を広域へと放った。
「……かつては、私の魔術に芸など無かった。だが、今の私は一足違う。……もっとだ。もっと力を!杖が焼けつくまで、ネア様に盾突く悪魔共を始末する力を解放するッ!」
空を飛び回る悪魔達を次から次へと撃ち落とす山村。
「うおおおおおおッ!!!ぐぐぐぐぐぐぐゥゥゥッ!やはり私には……キツいか……!」
しかし、やはり身の丈には合っていなかったのか。
あっという間に魔力は切れてしまう。
「食らえええええええええッ!」
弾切れを起こした杖は、すっかり動かなくなってしまった。
それでも、山村は攻撃を止めない。
迫る悪魔にポケットから取り出した宝石を投げつけ、仕掛けられている「拒む力」を発動させて内側から手榴弾の要領で破裂させる。
「そらッ!せいッ!」
「ミギャ」
「はぁぁぁッ!!」
「ゴアッ」
悪魔の一体一体を狙い、飛ばした宝石の破片は至近距離で全身を貫く。
野に落ちている石ではなく、構造を掴みやすく不純物が少ない宝石にこだわって投げることは、彼が思う緊急性を口を介さず物語っていた。
「……何故だ。今なら分かる。私はネア様に聞かなければならない事がある。そして……。それを、知らなければ。ネア様、いや、そうではない真の存在を……。アモンではない悪魔……そうだ……。その存在は、その名前は……!」
山村は魔力が尽きても尚、宝石やその他の魔道具を用いて、それも尽きてしまったら、今度は魔力を拳と足先に乗せた武術で一騎当千の働きをする。
しかし、その名前を口にして真に精神へ刻み、それを自覚するよりも早く。
「【塩の杭】」
「名前は……あ……」
山村は、ただ投げ捨てていたペストマスクのみを残して塩の塊と化してしまった。




