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奇師奇喪-クシクモ-  作者: 最上 虎々
第一章 日々に至らず
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第4話 死闘を経て

「……以上が赤い河童との戦い、その全てです……っと。これでいいんですか」


俺は最後に「加茂かも 道明どうみょう」という名前を書いて、ルーズリーフを偉そうな魔法使いに渡す。


「うん、大丈夫だネ。ありがとネ。これで今後、二体目以降の赤い河童が現れた時に対策ができるヨ。キミの名前も……ちゃんと書いてある。道明クン、ネ。そうだ、ボクの名前も名乗っておかないと」


そして、「フィン=マクダエル=蘆屋あしや」と書かれた名刺を渡された。


俺が人生で初めて受け取った名刺は、魔法使いおじさん(そのままの意味)の名刺でしたとさ。


それにしても随分と変わった名前だ。


外国人とのハーフ、或いはクォーターなのだろうとは思うが、「蘆屋」……って、どこかで聞いたことがあるような。


「まぁ、それはいいんですけど……何で俺は生きてるんですかね?」


ルーズリーフに目を通す魔術師に、目を覚ました時から気になっていたことを聞いてみる。


人間の急所という急所を貫かれておきながら、こうして普段通りに過ごしていることが不思議でならないのだ。


カレンダーを見ても時計を見ても、やはりあの死闘から数時間しか経っていない。


この短時間で俺の何がどうなって今に至るのだろうか。


「何でって……魔術の賜物だケド?」


「え、蘇生魔法とか使ったんスか?」


幼いころにプレイした、「リソースが多めである代わりに、完全な状態で仲間を復活させる」という効果の魔法が頭をよぎる。


「そんなものは使ってないヨ。……ってゆーか、使ったのは魔術じゃなくて、魔術を用いて調合した魔法薬だしネ」


「えーっと……?まるで訳が分かりませんよ」


「だろうネェ。無理もないヨ。魔法と魔術の違いも分からないくらい、こういう世界には縁もゆかりも無かったんデショ?」


「はい。マジで何も分かりません、教えてください」


俺は軽く頭を下げ、目覚めた後から塞がれている左目に手を当てた。


これは……金属?


「ああ、その目についても話さなきゃネ」


そして、蘆屋の長い長い話が始まった(ぶっちゃけ後悔しそうになるくらい長かった……)。


蘆屋から説明されたことは、大きく分けて3つ。


一つ目は、「『魔法』と『魔術』、この二つは同じではない」ということ。


「魔法」とは「魔術」の他に、一部の聖職者が行使する「加護」というものや妖怪が使う「妖術」、その他の「呪術」やら何やらといった超常的な術、それら全てを指す概念であるらしい。


故に「魔法使い」というのは、それら全ての術を全て行使できる人の事を指す言葉であるということなのだ。


尤も、自身を魔術と呪術のエキスパートであると豪語していた蘆屋でさえ、「そんな人は僕を含めて過去に一人も存在しなかったし、創作の世界でしか見た事無いけどネ」と言っていたが。


……確かに、「神の加護」と称している術を使うような聖職者が、禁忌とされる魔術や呪術に手を出すというのもおかしな話だ。


きっと、「魔法使い」が後にも先にも現れることはないだろう。


二つ目は、「数時間後、俺は地獄を味わうことになる」ということ。


蘆屋が俺に塗ったという薬は「傷を治す薬」ではなく、身体に「度を越えた無理をさせる」だけの薬であると聞かされた時は、どれ程戦慄したことか。


……もうしばらくしたら、俺は反動に襲われるらしい。


胸や手足に空いている風穴や、何も見えない左目が治っていないことを確認すると、蘆屋の言っていることが嘘ではないと実感させられる。


因みに左目の方はと言うと、「とりあえず今は溶かした合金で塞いでるだけだよ」だそうだ。


……人体って知ってる?


何てことをしてくれたのでしょう。


小石が刺さってグチャグチャに潰れていた左目が、こんなにメタリックに。


劇的なんてものではない。


ビフォーも中々にグロテスクな絵面だったが、アフターがゴーレムに寄りすぎである。


これに関しては後程、蘆屋を小一時間問い詰めるものとしよう。


命を助けてもらった立場で言う事ではないような気もするが……普通に眼帯を用意して欲しかった。


そして三つ目は、「ここは魔術師が集まる研究施設であり、秘匿すべき存在に対する対策を練る場でもある」ということ。


名前は「日本魔術学院」。


人間社会に知られてはならない怪異や超能力者など、秘匿すべき存在を秘密裏に撃破或いは捕獲するべく組織された、魔術師達の育成も行う施設及び団体の一つらしい。


……これだけ聞いても、何のことやらさっぱりだったが。


以外にもペラペラと秘匿すべき存在やら魔術師やらについて喋ってくれる蘆屋の長話を、「もしかしたらこんな話は二度と聞けないかもしれないから」と、ノートにメモをとっておいて良かった。


心の底から過去の俺に感謝する。

後で自分用にケーキでも買ってしまおうか。


折角、ノートを開いたのだ。

記憶が新しいうちに復習しておくとしよう。


まず、何故怪異やら超能力者といったものが、あくまでも「オカルト」の域を超えて人々に認知されていないのか。


基本的な怪異への対策として、一般に存在が認知されたり証明されたりした場合、認識している人間が増えると強力になってしまう怪異や、認識した人間を巻き込んでしまう怪異によって大惨事が引き起こされる恐れがあるため、それを防ぐような工作が日夜行われているためらしい。


例えば都市伝説として有名な「テケテケ」。

テケテケには「テケテケの存在を近くした人間の元に訪れる」習性があり、その存在が証明されて地球規模に広まった場合、新たなそれが出現した際に全人類がターゲットとされることになる。


その上でテケテケの存在を不自然ではない程度に隠蔽するため、「日本の都市伝説」という規模に収めているようなのだ。


そうでなくとも、ノストラダムスの大予言によって人類滅亡が近いとされた日に自殺者が増えた事例を鑑みれば、人々がパニックに陥らないように、そういった存在を秘匿すべきであるという考えは確かによく分かる。


そして魔術師は、魔術を用いて秘密裏にそんな怪異を撃破したり、場合によっては封じ込めや保護を行ったりする、特殊部隊員や工作員のような存在らしい。


状況に応じて魔術師以外の術師や、時には聖職者と共闘することもあるそうだが……そういえば蘆屋には「聖職者と馴れ合うのは構わないが、隙は見せない方が良い」と、そこそこ強めの語気で言われた。


後程聞いた話だが、聖職者と魔術師は若干の対立関係にあるそうな。

なるほど、1時間を超える長話の中で聖職者を一言も褒めなかったのは、そういう事情があってのことか。


さて、ここで俺にとって大きな問題が一つ露呈した。


1時間を優に超過する蘆屋の説明があったにもかかわらず、思った以上に分からない事が有りすぎるのだ。


これは蘆屋の説明が下手とか俺の理解力が著しく低いとかそういうことではなく、単純に情報量が多すぎるだけだろう。


魔術のメカニズムも分からなければ、怪異はともかく超能力者については一切の説明が無かった。


1時間超の長話でかなりのことを知った気になっていたが、魔導書やら過去に起きた事案にサクッと目を通しただけで、訳の分からない専門用語が次から次へと俺の脳内を荒らしてくる。


つい数分前に「ノートをとっておいて良かった」とかケーキがどうとか抜かしていた馬鹿がいたが、そんな大馬鹿野郎の戯言はすべて撤回しよう。


魔術師が生きる世界のことは、まだまだ何も分からない。

少しでも分かった気になっていた俺が馬鹿であった。


さて、こうしている間にも、かなりの時間が過ぎてしまった。


俺はもうじき、魔法薬の反動に襲われる。


その瞬間をもって、俺には全身麻酔代わりの全感覚と思考回路の一部を一時的に遮断する魔術が自動で行使され、ヤブ医者もビックリな蘆屋による応急処置ではない、マジの手術を施されることになるのだが……。


手術後の俺には、三日の猶予の後に二つの選択肢が与えられるのだそうだ。


一つ目は、「偽の記憶を植え付けられて人間社会に復帰する」。


そして二つ目は、「現在の立場を捨て、秘匿存在に関わる人間として生きる」。


この施設や怪異について、基礎の基礎的な事しか説明されなかった理由は、前者を選んだ場合に蘆屋の説明が一切の意味を持たなくなるためだろう。


……正直なところ、この選択にはかなり頭を悩まされた。


今となっては引き摺る理由も無いため詳しくは省略するが、俺は1年前に妹の「瑠莉奈るりな」を事故で亡くし、両親は妹の死で空いた心の穴を埋めるかのように、俺に依存するようになった。


以前にも増して両親が俺を大切に育ててくれようとしている以上、高校生活を送る上で金銭的に困らせるようなことはしてこないものの……俺を心配するあまり、登校時もこっそりと後をつけてくる始末である。


そんな両親が、今の俺を見たらどうなってしまうのだろうか。


左目はゴーレムのように塞がれ、右腕以外の四肢も、魔法薬無しではまともに機能しなくなってしまっている。


そして、それが手術によってどうなるかもわからない。


最悪、左腕と両足は切断……なんてことになる恐れもある。


今まで通り生きるとしても魔術師になるとしても、この怪我は今後の人生に大きく影響を与えるものとなるだろう。


考えること2時間。

とは言っても、手術後に与えられる三日の猶予を使うまでも無く、既に1時間以上前にはどうするか決めてしまっていたが。


専門用語に苦しみながらも読んでいた魔導書を閉じ、出した答えを蘆屋に伝えようと立ち上がった、その時。


とうとう俺の全身に痛みが走り始めた。


「えっ、え、魔術の効果ってこんなにピタっと切れるものなのか痛ァァァァァァッ!!?」


空いた風穴からは再び勢いよく血が溢れ始め、四肢の感覚も急速に失われ始める。


その瞬間、施設のブレーカーが落ちた。


否、俺の意識が飛んだのだ。


落ちたのは俺の方だった。


恐らく、感覚を遮断する魔術が発動したのだろう。


何とも不思議な感覚であった。


全てが消えていくような、何も存在しない空間に放り出されるような。


何かを考えることもままならなくなってしまった俺は、虚無の果てに時間の感覚さえも失い、いつしかそのまま眠りについてしまった。


一切の感覚が遮断されているだけに、実際は眠りについたのかさえも分からなかったが。


そして、二日後の朝。


「おはよう。随分と寝ていたみたいだケド、調子はどうかナ?」


目を覚ました俺の前に現れたのは美少女でも既に死んだ妹でもなく、長話と膨れた腹が印象的なオッサン、蘆屋であった。


……寝起きに「大丈夫?」と言ってくれるのは美少女であって欲しかったような気もするが、とりあえずは今すぐに、俺がこれからどうするかを蘆屋に告げようと思う。


まだまだ猶予はあるが、いつまでも考えていたところで仕方のないことだ。

もう、答えは決まっているのだから。


それに、俺は河童との出逢いで「夢」を取り戻した。


偽の記憶を植え付けられて人間社会に復帰するという選択。

それは俺が河童と戦ったり、魔術の存在を知ったりした思いでを、つまらないありきたりな記憶で上書きされるということだ。


もう、数日前の俺のような悲しき現実主義者には戻りたくない。


俺はベッドから立ち上が


「いででででで!!痛い痛い痛い!」


……れなかった。


とりあえず両脚は切られていなかったものの、肉も骨もかなりの損傷を受けているようだ。


「動く時はゆっくり動かないとネ。まだ手術は終わったばっかりなんだかラ」


俺は、ジンジンと痛む右脚を抑えながら上半身を起こし、改めて、蘆屋に己の意思を伝えることにした。


「……蘆屋さん。まだ考える時間はあると思うんですけど、俺、もう決めました」


「決めたって、何をカナ?」


これは、俺の選択。

故に何があっても恨みっこ無しだ。


「俺、高校生辞めて魔術師になります」


「……マジ?」


「マジです」


「……分かった。まさか魔術師の道を選ぶとは思わなかったけど、それが道明クンの決断なら、ボクはそれを尊重するヨ。……ようこそ、『日本魔術学院』へ。……魔術ナシで河童に勝った逸材が入ってきてくれて、ボクも嬉しいヨ」


俺が差し出した右手を、蘆屋はふわっと握り返す。


この瞬間から、俺の人生は大きく変わり始めた。


知られてはならない真実、条件次第では世界規模の大惨事を招きかねない脅威。


俺は人の身でそれらに立ち向かうため、これから少しずつ、魔術や怪異について学んでいかなければならない。


しかし、それらを苦と思うことは無いだろう。


魔術の存在も、怪異の存在も、全てを否定していた俺は実際にそれを目にして、どれ程心を躍らせたことか。


それに、俺がいつまでも実家にいては、両親もこのまま前に進めない。


妹を失ったショックから立ち直ることもできず、永遠に死ぬまで俺に依存し続けてしまう恐れもある。


かといって、俺が「高校まで2時間半かかるから」、と一人暮らしを望んでも断固拒否されたことから、自分の力だけで独り立ちをすることも難しいだろう。


独り立ちする機会があるとすれば今しか無い。


俺が魔術師として生きていくと決まった以上、工作員によって、俺に関する記録と記憶は社会から抹消されることとなる。


一人の人間を魔術師にするだけで、そこそこ手間がかかるような事をするものだ。


かつての友人も、今は俺に依存しきっている両親だって、きっと魔術によって俺のことを忘れてしまうだろう。


戸籍も学籍も消滅し、アルバムの写真からも俺の顔は消える。


しかし、これで良いのだ。


これで、両親も瑠莉奈の死に決着をつけることができるだろう。

もとい、決着をつけるしか無くなる筈だ。


「……これで、いいんだ」


俺は瞳を揺らがせる雫を、右腕の袖で拭き取る。


左目のそれも拭かなければ、と思ったその時。


そういえば、俺の左目……。


カチカチしてる……まるで金属みたい。


「アーーー。その目なんだケド、もうちょっとしたら特注の義眼ができる筈だから、えーと、もうちょっと待ってくれないカナ」


「蘆屋さん?俺にしばらくゴーレムもどきみたいな面をしていろと?」


「そういうことになるネ」


「そんなぁ」


「じゃ、じゃあボクはこの辺で」


俺は逃げ去ろうとする蘆屋の服を掴み、側にあった折り畳み式の椅子に座らせる。


「……何か言う事はありませんか?」




その後、俺と蘆屋の問答は1時間以上続いた。

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