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奇師奇喪-クシクモ-  作者: 最上 虎々
第三章 ベルゼブブ紛争
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第29話 アンチ・ビースト その1

7月7日、午後5時。


日が長い夏でも、そろそろ西日が眩しくなってくる頃。


俺と瑠莉奈はベルに呼び出された集合場所、魔術学院裏口からさらに山の奥へ向かったところにある民家へと潜り込むようなかたちで向かった。


一般的な家屋に偽装されたアジト、かつて俺が落ちた落とし穴の先にある地下室へと続く階段の扉を開くと、そこには外から見えた家屋の数倍どころではない広さの大広間があった。


その大広間のさらに奥、2メートル程高くなっているところ……ステージだろうか。


そこには双剣を手に、かのジャンヌ・ダルクのように前方……我々の方を指すベルの姿があった。


「皆の者、集ったな。……まず最初に、ありがとう。それと、すまぬ。……此度の作戦は、完全にわらわのためのものになる。わらわの勝手な目的に、そなたらを付き合わせることになってしまうのじゃからな。……本当に感謝する」


俺達の右には山村の姿が。


今日もペストマスクを装着し、隠密性高めの装備に固めているようである。


「此度の作戦は、わらわにとって一世一代の大博打ともいえるものになる。わらわは今、これからの長い長い、そなたらとは比べものにならない生の中でも同じようなことがあるとは思えない、あって良い筈が無い事案に巻き込まれているのじゃ。今のわらわは本来あるべき姿ではない。これは異常を正常に戻す作戦、異常の元凶となっている獣……もとい、白狼の魔術師こと『天羽』」


「「……は?」」


初耳である。


目を丸くする俺と瑠莉奈。


俺達は互いに目を合わせ、首を横に振った。


「「「ウオオオオオオオオオーーーー!!!」」」


一方、興奮する連盟員一同。


「……さあ、そなたら。では、手筈通りに頼む」


「「「ウオオオオオオオオオーーー!!!」」」


……初耳である。


手筈って何だ。


またしても何も知らない道明さんまっしぐらである。


次々と地下室を飛び出していく工作員達。


一方、棒立ちのままパチクリと丸くした目を合わせる俺と瑠莉奈。


「うーーーん……?」


「ええーーーっとぉーーー……???」


何も分からない。


当てにするつもりだった山村も、いち工作員としてどこかへと消えてしまった。


「ど、どうしよう……どうすればいい、のかな?」


「さぁ……?俺も何も聞いてないから……」


たった二人、取り残された俺達。


そこへ、今までステージの上に突っ立っていたベルが「待ってました」と言わんばかりにステージを飛び降り、俺達の目の前へ着地する。


「待たせたな。道明、アガレス。そなたらに何も説明していなかったのは、わらわに直接同行してもらうからなんじゃが……」


……それはつまり、白狼の魔術師と直接対決させられるということだろうか。


「待って下さいベルちゃん。それって……天羽って魔術師と直接対決するところに居合わせるってことですか?」


瑠莉奈が割り込む。


「そういうことになるな。……正直、今のわらわ一人で天羽に勝つことはほぼ無理じゃろう。じゃから、ソロモン72柱の悪魔であるアガレスであるそなたと、魂魄剣の扱いに長けた底知れぬ潜在能力とを持つ道明、貴様を呼んだのじゃ」


「……何だかとんでもない事態に巻き込まれたような気が」


「うーむ。貴様の妹と同じくらいか、それより少し強いくらいの悪魔と対峙すると言えば、事態の重さは理解できるか?」


瑠莉奈と同じくらいかそれ以上?

とんでもない。


それって、熟練の魔術師でも少ない人数だとボコボコにされるくらいのバケモノなんじゃあ……?


とても入学一年目に相手して良い相手とは思えない。


チュートリアルを終えたばかりの初心者に、ラスボス級の敵と戦えと言うのか。


「……それ、俺ついていって大丈夫か?足手まといにならない?」


「大丈夫じゃろ。わらわが見込んだ男じゃぞ」


「失礼ですけど……兄さん、そんなに強かったっけ?」


「それは本当に失礼だけど自信は無いよな、相手が相手だし」


ベルは俺の潜在能力を見込んでくれてはいるようだが、実際にその潜在能力は解放されていないからこそ「潜在能力」なのだ。


つまり今の俺はただビームソードしか使えない代わりにビームソードの扱いが他より少し上手いくらいの一年生、その程度なのである。


「……まあ、そこはわらわに任せておけ。基本の戦闘はわらわとアガレスの二人がかりですることになるじゃろうしな」


「私が前線に出ることは確定なんですね」


「そりゃあそうじゃろ。頼りにしておるぞ、アガレスよ」


「テキトーに承諾した私が馬鹿でした」


「さあ、行くぞ。転移陣を用意しておいたからのう、そこから目的地付近まで向かう手筈になっている」


「兄さん、危なそうだったらすぐに後退してくださいね。私が守るので」


「自分の身くらい自分で守るから大丈夫。お前も自分のことだけ考えて戦ってくれ。相手が相手だけに下手すると多分お前でも死にかねない」


「……わかった、頑張る!」


「やれやれ、仲睦まじいのう。わらわが呼んでおいて言うのもなんじゃが……死ぬなよ、二人とも」


「勿論です!」


「応ッ!」


俺と瑠莉奈は手を繋ぎ、転移陣の上に乗る。


「陣よ、わらわ達の魂を指針の先へ!!【魂魄転移】!!」


ベルが描いた陣、そこに描かれた方位磁針の針は振れ始め、やがて壊れた時計の針のように回り始める。


徐々に陣の外は霞んでいき、座標がズレていく。


アンチ・ビースト作戦。


悪魔アモンとの戦い、その火蓋が切って落とされた。

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