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奇師奇喪-クシクモ-  作者: 最上 虎々
第二章 秘匿された魔術学院
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第18話 駆け出し悪魔と帽子の魔術師

5月1日午後6時、学生寮にて。


4月からは魔術学院の正式な新入生として扱われるにあたって、俺と瑠莉奈の部屋も多くの同級生が住まう寮と同じ建物に移っていた。


新しい寮は部屋の数が多く構造も複雑であるため、つい最近まで迷うこともしばしばだったが……最近はようやく慣れてきたところである。


入学式の後、クラスメイトの半数近くが退学を申し出たという。

カマキリ人間に怖気づいた学生達で、翌日の事務室は混雑したそうである。


無理もないことだ。

俺も河童や悪魔になった瑠莉奈と出会っていなかったら、きっと失禁も禁じ得ない程にビビり散らかしていたところだろう。


一方の真田はというと、やはり学院側に襲撃の許可は取っていなかったらしい。


蘆屋レベルとまではいかなくとも、それなりに地位のある魔術師にこっぴどく叱られたそうな。


「『これだから化け物は扱いに困る~』だってさ。アイツらもインチキみたいな魔術使ってるってのに、特殊能力者には秘匿存在だから差別しちゃって……やってらんないね。……せめてアンタ達だけは立派な魔術師になっても、秘匿存在にだって普通の人間と変わらない心を持っているヤツがいるってことを忘れないでおくれよ」


入学式翌日、朝のホームルームで教室へ駆け込んできた真田の話がコレである。


どうやら直前まで説教と始末書の提出に手間取っていたのか、その表情には相当な苛立ちが見えた。


「でも、突然暴れるのは良くないと思う」


「返す言葉も無いね」


帽子の魔術師こと「葛岡くずおか 霊音れいね」は、真田に鉄球のごとき正論をぶつける。


真田は諦めたような表情で教卓にもたれかかり、その日は授業が始まった。


そして、そんな日から1ヶ月が過ぎようとしている今日。


瑠莉奈と霊音は、俺の知らないところで交流を深めていたらしい。


そういえばベルも霊音も、瑠莉奈を「アガレス」の名で呼んでいた。


……どうやら、最高権力者と特定の悪魔に対する主人となる存在以外には秘匿されている情報や事件記録はあるものの、基本的に「ソロモン72柱」の情報は大方一般にも開示されているらしい。


尤も、襲名制であることは術師にしか明かされていないらしいが。


その証拠に、世界最大の百科事典サイトである「アレクサンドリア・パピルス」にも有り余る程に悪行やら伝説上での設定や能力が記されていた。


なるほど、だから二人ともその名前で呼んでいたわけだ。


……それもそうか。


俺は自分の使い魔が妹と同じ容姿・魂・人格・記憶を持つ存在であると気付けているがために、その悪魔を「瑠莉奈」と呼んでいる。


しかし、蘆屋も含めて皆は「『加茂 瑠莉奈』という人間」だった頃の瑠莉奈を知らないのだ。


名誉ある強き悪魔の名前として定着している「アガレス」の名で呼ぶのも、当然と言えば当然だろう。


しかし、本人はあまりそう呼ばれることを良くは思っていないらしい。


これは瑠莉奈から聞いた、昨日の話である。


4月30日。


「ねぇ、アガレスさま」


帽子の魔術師こと霊音は、廊下を歩いている私を見つけてか、背後からとことこと側へと駆け寄ってくる。


背は私よりも一回り高く、その容姿は女子大生のように少し大人びているにもかかわらず、その口調や振る舞いはやけに幼い。


去年の私(中学2年生)と同じくらい、或いはそれ以下かも。

でも、それにしては大人しいような?


「あの、霊音ちゃん。そろそろ私のことは『瑠莉奈』って呼んでくれてもいいんですよ?」


「えと……アガレスさまの、名前?アガレスさまに『アガレス』さまじゃない名前があるの?」


一瞬で「アガレスさま」と3回言う霊音。


「アガレスサマ」という響きが気に入ったのだろうか。

私は今まで何度か「瑠莉奈」と呼ぶことを勧めたつもりなのだが、頑なに霊音は私を「アガレス」の名で呼んでいた。


……そういえば、「瑠莉奈」という名前を出してもキョトンとしていたような。

何度も「瑠莉奈」という名前は教えている筈なのに、何でだろう?


「私、概念とか儀式とかで発生した悪魔じゃなくて、実は元人間だったので……ご主人様の道明『君』は、私の兄さんなんです」


「二人とも仲良し、普通じゃないとは思ってた。……兄妹だったんだ。じゃあ『瑠莉奈』って、本当に人間だった頃の名前?」


「そうなんです。……でも兄さんの妹として生まれ育ってきた身体はもう死んじゃいましたし、霊力と意識と情報の塊みたいなものだから……今の私も、人間だった時の『瑠莉奈』と同じ存在なのか、それとも『加茂 瑠莉奈』という人間を埋め込まれた模造品コピーなのかはわかりませんけど」


「……そ。でも、今のアガレスさま……じゃなくて、『瑠莉奈』が自分を『瑠莉奈本人だ』って信じられないなら、誰がそれを信じるの?それは道明には頼れない、自分だけの大事なこと」


口調や仕草は少女のようであろうとも、その精神は容姿相応か。


「……わかってます、私は『加茂 瑠莉奈』……。それだけは、ずっと覚えていなきゃですね」


「……ん。名前も立派な情報。絶対、忘れちゃダメだよ」


さらに深く聞いてみたところ、身体が無い悪魔や幽霊なんかは肉体や実体を持つ存在よりも相対的に情報が占める割合が大きいらしい。


怨霊なんかはその典型的な例なのだろうか。

私は改めて「加茂 瑠莉奈……か」と呟き、己の少し膨らんだ胸に手を当てる。


その後、霊音が私に寄ってきた元々の目的であった試作型人形に目をやった。

その人形は、どこか私に似ていたような気がする。

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