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奇師奇喪-クシクモ-  作者: 最上 虎々
第一章 日々に至らず
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事案2784-コンスタンティノアのペトラ教会批判及びそれに伴う骨片暴徒化未遂

本事案は、中世の「魔術学院神聖ローマ帝国支部」に遺された文献を元に作成した事案報告書です。


よって、一部の情報が欠損しています。


欠けた箇所及びらしき文書を発見した術師は、誰であれ他の術師と可能な限り情報を共有し、全世界何処かの魔術学院大書庫及びそれに類する部署へ届け出て下さい。


「地下墓所の王・コンスタンティノア」は、かつてローマの地下墓所に姿を現した魔術師の霊です。

1563~1571年の間に、魔術師ロナとペトラ教聖職者ハネアによって祓われています。


コンスタンティノアは、ペトラの死を偲ぶ1ヶ月間(苦月くげつ)の終わりを告げる日。

ローマ市内に点在する「カタコンベ」と呼ばれる墓場の何処かに姿を現し、遺骨を拾い集めては、それを魔力で繋ぎ合わせた骨の巨人を地上に呼び出し続けていました。


コンスタンティノアの行動原理は不明ですが、少なくとも骨の巨人として蘇った遺骨は、全て教会によって理不尽に処刑された敬虔なペトラ教徒が埋められた地下墓所に安置されていたものです。


このことから、コンスタンティノアは教会に救いを拒まれた者に世俗化した教会へ復讐の機会を与えようとしていたのだろうと推察されます。


以下の文書は、上から「『背教記』からの抜粋」、「重要事件記録2784-背教者コンスタンティノアの手記」となっています。


本事案の研究及び調査を行う術師は、必ず目を通して下さい。


~コンステンティノア=アカルディ・『背教記』より抜粋~


人の女神ペトラは、もはや失われた。


私はかつて教会の枢機卿を務めていた身であるが、そうここに書き残しておこうと思う。


もはや教会は世俗の裏面となり果て、上に立つ者は一部を除いて殆どが「敬虔なペトラ教徒」ではなく「世俗で権力者になり損ねた者」となってしまった。


人の姿をとり、未来永劫の人が背負うべき罪という罪を一身に受け、神でありながら最大の呪いを受けた少女ペトラの栄光が記された書物、「ペトラ書」を知らぬペトラ教徒も少なくない。


やはり識字率の問題だろうか。

庶民が字を知らぬのでは司祭が教えるしか無い。

しかし司祭が教えるのはペトラ書、その好き勝手な解釈。

そして字を読めない庶民は、司祭を信じて「司祭の教え」に従う。


……だから、教会は身分が高い者の為の場として世俗化するのだ。


字が読めるだけの俗物が、ちょっとソレを読んだ程度で理解した気になって、司祭やら枢機卿やらを名乗るのだ。


……などと世迷言を言っている私だが、正直なところ私もペトラの教えを守ることができているかというと、そんな自信は全くもって無い。


何を隠そう、私は魔術師だからである。


私はペトラ書で禁忌とされる魔術を使う者、謂わば背教者なのだ。


かつてはそこそこ敬虔なペトラ教徒だった……筈の私が、あろうことか魔術師になったのだ。


神聖ローマ帝国では、「ペトラ教徒に非ずんば人に非ず」というような考えが当たり前のようになっている。

……にもかかわらず、教会を離れた思想を持つ者が以外にも多いのは……つまり、そういうことだろう。


そして今、私は地下墓所へ姿を隠して魔術の探求に耽っている。


カタコンベと呼ばれる、かつてのローマに迫害された初期ペトラ教会の教徒がペトラへ祈りを捧げていた、隠れ家のような場所だ。


だからこそ、あえてもう一度書いておきたい。


人の女神ペトラは、もはや失われた。


~以上~


~重要事件記録2784-背教者コンスタンティノアの手記~


晩年。


身体は衰え、心は静止し、私はもうじき死に至るだろう。


教会を離れて魔術の研究を始めた日から、はや数十年が経つ。


あれから毎日、私は生涯で手に入れたありったけの魔導書を何度も何度も読み漁った。


習得した魔術は大きく分けて三分野。


ソロモンの時代に体系化された四大魔術の双極、「魂魄魔術」と「深淵魔術」の基礎。


中でも私が生涯をかけて探求した魂魄魔術の、しかし危険性故に封印された一カテゴリーである「傀儡かいらい魔術」、それはもう素晴らしいものだった。

人を操り、獣を操り、生無き人形さえも思うがままに操ることができる。


ペトラ書にも記載があるシモンという名の魔術師が、子供達の人形遊びから見出したものらしいが……これは、さらに探求を進めれば「人工的に新たなる【欠損】を生み出す」こともできるのではないだろうか。


世迷言を集めたような日記において、私は自身を「魔術師コンスタンティノア」だとか、「背教者コンスタンティノア」と名乗っている。


しかしその実、私はペトラに未練たらたらなのだ。


もっと、ペトラを信じたい。


ペトラを信じる同士と共に在りたい。


しかし、もはや教会に「ペトラはいない」。


そして私の周りに埋まっているのは、かつてペトラを信じた同士。


地下墓所という空間は私にとって最高の教会なのかもしれない。


骨は傀儡になる、そして骨の主はかつての同志。


傀儡魔術をモノにした私がすることは一つだ。


「【再起の傀儡】」


強い意志や未練を残した遺骨を傀儡とし、その意志に任せて骨を暴走させる簡易的な傀儡魔術。


生前に遺骨の主であった人間の意志に反する命令は出せないという制約はあるものの、その分使用する霊力などのリソースが少ない術である。


聖職者の術は霊力を直接用いて行使するため、霊力を魔力に変換するという過程を踏まないのだ。


元聖職者であった私が体内で「霊力を魔力に変換する」ことに未だ慣れていないのは、そもそも聖職者時代にそのような「霊力の変換」という過程を踏まなかったためだろう。


そんな私にとって、使用するリソースが少ない魔術は非常にありがたい。


そして、敬虔なペトラ教徒の遺骨に、ペトラへの未練と教会への憎悪が宿っていない筈が無い。


私は、背教者コンスタンティノア。


教会を廃し、かつて在った「【欠損】」を取り戻す者。


教会よ、今に見ているがいい。


私の信仰と同志の未練が、お前達をペトラに還すだろう。


私達が、【欠損】に降り注ぐ【欠損】となろうではないか。


~以上~


コンスタンティノアの敗因は、遺骨の意志を完全に勘違いしていたためでしょう。


ペトラの教えを守ってきた敬虔なペトラ教徒には「復讐」という発想が無かった可能性が高く(ペトラの戒め、「争いを嫌え」に基づく)、コンスタンティノアによって術をかけられた、かつてのペトラ教徒の遺骨が大した被害を生まなかったのは戒めによる影響が大きいものと考えられます。


しかし、未だコンスタンティノアの存在は秘匿されるべきです。


傀儡魔術を用いて忌むべき相手へ復讐を果たさんとする、コンスタンティノアに準ずる者がこれ以上増えないように。


傀儡魔術はソロモン魔術体系から外れているということを、少なくとも正当なる魔術師たる貴方達だけでも忘れないように。


【欠損】。


本項目は西暦1982年に、魔術師「ロナ・フーリア」が執筆しました。


~事案2784-コンスタンティノアのペトラ教会批判及びそれに伴う骨片暴徒化未遂 以上~

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