第12話 2と1 前編
あの模擬戦から3ヶ月。
今朝、ベルから蘆屋へ連絡が来たという。
「午後3時、模擬戦場にて待つ。貴様の僕、アガレスを連れて来い。貴様を打ち負かし、必ずや、わらわのモノとしてくれよう」
俺はあの日から、蘆屋によるサポートのもと、独自の方法で魔術の行使を試みてきた。
そして今は午後2時45分。
もうじき、決戦の時だ。
しかし。
「ウーン。どうしようネ、コレ」
「オワタ……ってやつですか?」
俺は、ビームソード以外の魔術を習得できていないのである。
にもかかわらず、ビームソードを極めることができた……なんてこともない。
つまりどういうことかというと……俺は3ヶ月の間、必死に練習して……ほんのちょっと、気持ち程度にビームソードが上達しただけの人ということだ。
「……ま、頑張ってきなヨ」
「勝てる気がしません」
俺はローブを羽織り、杖を持って蘆屋の部屋を出ようとする。
「ベルちゃんは、相手が誰だろうと容赦しないからネ。正直、勝率は絶望的だケド……精一杯足掻いて、妹ちゃんを守ってあげなヨ。キミの事だ。どうせ隠し玉くらい、用意してあるんデショ?」
「用意してないんですねそれが」
「ま、ガンバッテ」
諦められているのか何なのか知らないが、見送りに若干の適当さが見受けられるような……。
まあいい、こうなればヤケクソだ。
俺は瑠莉奈を呼びに自室へ戻り、こんな状況で何故か微笑みを浮かべている瑠莉奈を連れて模擬戦場へ向かう。
……もはや手段を選んではいられない。
小細工づくしで何とか足掻いてやろうじゃないか。
「ねえ、兄さん。……あんまり、考えすぎないでね」
「ああ。正直、もうヤケクソだ。好きなように、俺の在るがままに戦ってやるさ」
隠し玉こそ用意していないが、策が無いという訳では無い。
「……待っておったぞ。わらわから逃げぬとは、度胸だけはあるようじゃな。尤も、無謀なのは考えものじゃが」
無謀だと分かっていても、いくつかの策と小細工で立ち回るしか無いのだ。
「まあ覚悟しとけって。お婆ちゃん」
「フン、生意気なガキじゃ。……さあ、杖を構えよ。一対一の真剣勝負といこうではないか」
「【ビーム……」
「ごめんなさい、兄さん!」
ベルが喋り終わる前に杖を構え、ビームソードを展開しようとする俺の頭部に、鈍い痛みが走る。
急激に薄れていく意識の中で、俺は背後に目をやった。
「瑠莉……奈?」
刹那、瞳に映った妹の顔。
その瞳はどこか勇ましく、そこにいたのは生前の大人しい、悪く言ってしまえば弱々しかった、「加茂 瑠莉奈」と名のつく少女ではない。
正真正銘、ソロモン72柱の第2柱、大悪魔の名を継ぐ者。
アガレス、その四代目を担う者の姿が、そこにはあった。




