少女の姿で嘲るような眼差しを向けられるのは高火力な装甲無視攻撃
間違えて一瞬、この話をめっちゃ真面目なsfのほうに投稿しててチビりました。今日はもう一話夕方に投稿します。
ゆっくりと手を伸ばして、呑まれるようにゴクリと唾を呑む。――考えるな。……無理だ。考えるなってほうが無理だ。俺は(ダンジョンスラング)じゃない。
しかし退けない。背には浴場。文字通り背水の陣。無我の境地(魅了、洗脳に対する抵抗スキル)を発動させたうえで心臓は止まらない。
「……さ、触りますよ?」
「なぜ許可を取る?」
手拭いに湯と石鹸をしみこませ、無い勢いのままにエルクロの背に触れる。布越しでも理解できる滑らかな白い肌。華奢な少女の体躯でありながら確かに感じることができる筋肉質な体幹。
ムズ痒くて身震いした。時折、手に長い髪の一部が触れてこそばゆい。誤魔化すように乾いた笑いを零しながら必死に無を望み唱えるも、疾風怒濤の勢いで威風堂々山の如く。
恥ずかしさより嫌悪の域だ。兜割りをしてしまいたくなる。洗うのが背で助かった。
――もし、お腹を洗ってくれとか言われていたら……何を考えてるんだ?
「…………エルクロは、元の姿に戻りたいと思ってますか?」
強引な話題逸らし。さもなくば、背筋に沿って流れ落ちる水滴にさえ反応する状況だった。
「半々だな。慣れない体というのは楽しい。可愛い服も着れるしな。しかしどんな体にせよデメリットはあるだろう? ボクの場合は生憎それが、冒険者稼業に関わることだ。対策はしなければならない」
無垢な笑みが、湯気で霞んだミスリル銀の鏡に映る。罪悪感が圧し掛かる一方で、苛立ちも湧いてくる。……なぜこうも無警戒なんだ?
「ッん……! おい。もう少し気を使え」
まぁ、……いいか! 少女めいた声を前に、思考を放棄すると気が楽になった。今ならルロウの気持ちが少しわかるかもしれない。
ダンジョンに潜っている際に妻に浮気されたあげくに娘の親権を取られた際、いやぁ、こういうのも興奮するよね。まるで桃みたいだぁ……。と上の空でぼやいていた彼の気持ちが。
「いや、……あれは理解したくない」
おかげで正気を取り戻した。理で持って煩を制さねばならない。これは自分との闘いだ。
「それにボクは運がいい。……可愛いだろう?」
くいと、柔らかな頬を指で押して口角を上げる。生意気で、挑発的な微笑みが鏡に映った。
――プツンと。俺のなかで何かが切れる音がする。……無自覚かと思っていたが。彼女楽しんでないか? にわかな疑問が過ぎると、血が集まるような感覚がした。ギシリと、歯が鋭く軋む。
「エルクロ、もしかしてあなた楽しんでいませんか?」
「ぁえ……!? ま、まさか! ボクは危機的だと考えている。ひ、一人だけ楽しんでるわけないだろう……。パーティの負担になってしまったわけで、わけだからな?」
手があわあわと宙を掴む。泳ぐ視線。エルクロは焦るように立ち上がる。眼前に入るスラリとした体のライン。
「そろそろ二回戦と行こうじゃないか……! さぁ、蒸し風呂へ行くぞ」
「…………お腹の調子が悪いので扉前で少し待ってください」
見られないように誤魔化した。――深呼吸。心頭滅却を重ね掛けした後、刀匠の収まりが付き次第蒸し地獄へと足を踏み入れる。
「久々だな。サウナはボクの故郷にはよくあったが。極東にはないんだったか」
「ええ、あちらは湿度が高いですし、風呂文化があったのでわざわざ蒸し風呂は」
とは言え俺も彼女も故郷にいた時期はほとんどない。しかし彼女が心地良さげに蒸し風呂の木の匂いを吸う一方で、俺にそんな余裕はない。生まれの違いか?
「……ふふ。きつくなったらエルクロ様参りましたと言うんだぞ? そしたら共に初級氷属性魔法を浴びようじゃないか」
ぽんと、小さな音を立てて蠱惑的で、あどけない少女が隣に座る。……
生まれの違いではないな。彼女の所為だ。
俺は咄嗟に脚を組んだ。手拭いだけでは誤魔化し切れない可能性があった。拷問室みたいな温度と湿度が体力を奪う一方で、もはや自分のモノとは思えないぐらい――いや、よそう。考えるから考えるんだ。考えるべきではない。
「随分今日は余裕がないな」
隙あらばエルクロは煽る。元からある悪癖だったが、少女の姿で嘲るような眼差しを向けられるのは高火力な装甲無視攻撃に等しかった。
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