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俺達は女の子なら縞パンか白いやつがいいって言った仲だったのに!

 筆記体変えて前書き書いてみようとしたんですよね。ところが環境依存文字だと投稿できません。


「いえ、気にしなくていい。より強くなるための修行だと思っただけだ」


 違う。何かがおかしくなったときに狂戦士だからと言い訳するためだ。


「ふぅむ。ボクも確かに魔剣使いからサポートに回ったおかげで魔力量は増えたな。しかしそれでも狂戦士とは、さすがギンロウだな!」


 快活で無垢な笑顔が心臓を突き刺す。歯を見せて笑うエルクロに対して、歯軋りしながら理性を保つ。


「それより、その恰好はなんだ?」


「似合うと言われたんだ。どうだ?」


 僅かに頬を赤く染めて、慣れない様子で内股になるエルクロ。


「ッ…………!」


 むずゆい。そんな言葉はきっとないが、そうとしか表現できない。痒さではない。


「ふっふ。この恰好で街を歩かされてだいぶ恥ずかしかったがその態度、素直じゃないな!」


 自信に満ちた様子でひらりと一回転すると、その勢いのままバク中。スっと、冷静さが逆に振り戻った。なんとか無表情を取り戻す。


 エルクロはいつまで経ってもエルクロだ。この無駄に自信過剰で微妙なナルシスト度合いは男のときから変わっていない。


 見た目が女になったって中身が変わるわけでは……わけではないはずだ。一瞬でも欲情仕掛けたことに罪悪感が圧し掛かった。


「……変わらないな。エルクロ」


「そう言ってくれるのが一番嬉しいぞ。おっと、だが惚れるなよ? 性的な対象とかは変わらないからな。身体の影響の所為か欲求は減ったが」


「冗談は止せ。お前に惚れるわけないだろう。ずっと一緒だったんだ。嫌なところも知っている」


 ――知っているうえで緊張は消えそうにない。ダメだ。心臓がバクバクする。だがエルクロはもともと男だ。これで好きになるのは結局のところ……では?


「くっ……」


 頭を抱えると、エルクロは勝気な態度で魔剣の柄を握り締める。


「一戦交えないか? そのほうがスッキリするはずだ」


「うんうんうんうん~。おじさんもそれがいいと思うなぁ」


 不意にルロウが話に割って入ると両翼を広げる。飄々とした態度で、エルクロの小さな肩を掴んだ。


「夕餉はこちらで受け取っておくさぁ……。二人で仲良く戦って欲しいからね。ほら、二人で汗液流し垂らして戦えばきっとさ。仲睦まじくなれるんじゃないかなぁ」


 そう言ってこいつは青い結晶体を、記憶スフィアを押し付けてくる。


「**るなら撮っておいて欲しいな?」


 結晶を鷲掴み、ルロウの頭部に振り下ろすと血飛沫と青い欠片が飛散した。キラキラと煌めき、花火のように散って行く。


「貴方はそれでも既婚者か?」


「いや、おじさん離婚自体はだいぶ前にしたしそのこと言わないで欲しい」


 トラウマを穿いたのか、ルロウは俯いてやさぐれた笑みを浮かべる。仕事をクビになったが家にも居場所がない父親のようだった。


「……いえ、すいません」


 ――なぜ俺が謝ってるんだ。


「それでギンロウ、どうする?」


 少女の身体になって以前のように魔剣を振り回すことはできずとも技術は健全なままだ。獰猛な眼差し。俺のなかで闘志に火がついた。


「そういうわけでサンゲツ。中庭を使います。回復役ユスティーツにも待機して貰えると助かります」


「……仲がいいな。羨ましいことだ」


「まぁ、昔から一緒に訓練してましたし」


 中庭まで向かった。互いに距離を取り、柄を握り締める。神殿の加護を侍から狂戦士にしてしまったため僅かだが自分の身体に違和感がある。


「ふん、いくらボクが女になったとはいえそっちは加護にも慣れない身体。勝機はこちらにあるぞ。…………ボクが勝てそうだし勝ったほうがなんでも好きな命令を一つできるとかしないか?」


 ふわりと長い黒髪が揺れる。クマの刻まれた赤い瞳が嘲るように俺を見上げた。


「勝てそうだからってその条件提示する奴初めて見ましたよ」


「負けそうだから言うやつもいないだろう」


 それもそうですが。


「……負ける気はありませんよ」


 ――待て。勝ったらなんでも一つ好きな命令をできる???? エルクロに? なんでも?


 不意に脳裏に浮かぶユスティーツ。彼が持っていた『ろくるえ』を俺だけが見ることもできるのか? いや、ずっと一緒に命を預けていた仲間に、それも元男になに考えてるんだ。


 しかし可愛いのは事実だ。別に恋愛感情とかではなくて、単純にそう。綺麗なものを眺める。たとえばガラス細工や花を見るのと同じでは?


(……ギンロウ。ボクでそんなことを考えてたのか? ……変態め)


 容易に想像できる色の低い女の子の声。体のラインが際立つ衣服。濡れた黒髪。刀を握る手に力がこもる。――負けられない。


「いくぞギンロウ! 【魔剣解放】」


 等身よりも巨大な刀身が鞘から抜かれる。魔力が赤く光輝しながら周囲に飛沫をあげた。鈍く光る漆黒の剣。


『ギャハ! 久々にオレの出番かああああッ!!』


 魔剣から粗暴な声が轟く。周囲に充ちる瘴気。エルクロが敵とみなした対象に付与できる身体能力低下の呪いだ。


「戦法は変わらず陰湿ですね」


「それがボクの持ちあ――『ギャハハハ! むっつり童貞野郎を斬り殺せエエエエ!!』」


 …………。互いに一歩も引かずの剣戟を交える。エルクロの魔剣の重量は刀で正面から受けることはできない。武術と魔法の両面に彼女が秀でているなら、俺ができる対処は剣術において上回ることだ。


 エルクロの小さな口から紡がれる火球の呪文と状態異常倍化の呪い。魔法を斬り伏せ、火の粉を振り払い柄で打突する。


 重い一撃を滑らせるようにいなし、魔剣を上方へ突き上げバランスを崩す。そして、足払い。


「そのやり口は何度も見たぞ。小賢しいや――『野郎を殺せッ! この身体はオレっちのモンなんだよおおおお! ずっと肌身離れず、野郎のころから一緒なんだぜえええ!?』」


 寸でのところでエルクロは地面を蹴って宙へ跳んだ。重量を武器にした重い一撃をそのまま振り下ろす


 エルクロの声が魔剣の叫びに掻き消える。俺達は一瞬見つめ合って、苦い顔を浮かべた。多分同じことを思っている。――剣がうるさい。


「そんな大振りの攻撃が当たるとでも?」


 咄嗟に攻撃を見て避けようとする刹那、身体が強張る。……白いワンピースであんな跳躍をしていたら、見上げた時に下着が見えてしまう可能性がある。いや、俺の動体視力なら必ず見ることができる。


 ――男物ならまだ問題はない。しかしもし、女物だったら? 俺はおそらく狂ったすえに敗北する。


 しかし見ずに回避できるほどエルクロは弱くない。


「ッ…………。ならば、心で視るまでだ」


 目を閉じて五感を拡張する。軽装近接職として必須の技術。


 【心眼】。集中力を限界まで研ぎ澄まし、空気の流れと音、気配。それに追随する共感覚で色さえも脳で視る。


 鋭い金属音が打ち響いた。


「狂戦士に転職しても侍の技術は完全に会得しているか。流石だなギンロウ。……ギンロウ?」


 俺はゆっくりと目を開けて、顔を手で覆った。瞬きさえできずに、彼女の姿を凝視する。


「エルクロ…………なぜ」


 技術を極めれば視覚以上に情報を得ることさえできる。


 だから斬撃を視覚以外で理解し、受け流した。エルクロの動き、服の靡く様。慣れない衣服による僅かな隙を見抜くことができる。


「俺達は女の子なら縞パンか白いやつがいいって言った仲だったのに! なんですか、その…………それは!」


 彼女の下着も、色も。視覚以外の情報全てで理解できて叫んだ。


 裏切られた気分だった。絶対に白だと思っていたのに。


「いや、……ボクもその話は覚えているし、同意するが」


「なら何故!? 縞なら水色は入っててほしいとまで言い合ったじゃないですか!」


 言い出したら止まらなかった。サンゲツが酷く冷めた目で見ているのが、見ずとも理解できる。


「そうだ。けどそれは…………見たい側であって、自分で履くのは……えっと、流石に恥ずかしかったな?」


 剣を降ろし、恥じるように脚を閉じて視線を逸らした。僅かに赤く染まる頬。したり顔が消え、困ったように赤い視線が俺を見上げ見詰める。


 あまりにあざとい。


「ぐッ……! 卑怯な――ッ」


 鼻腔を突き刺す鉄の臭い。出血の状態異常及び状態異常倍化の呪いによって破裂するみたいに顔と手が血に濡れた。


「隙だらけだッ!」


 エルクロが好機とばかりに大剣を振るおうとして、遠心力に振るわれる。以前ならできていたはずの一撃を不発し目を見開いてよろける。


「ちょ、危ない……!」


 咄嗟にエルクロの手を引いて、自分を下敷きにするように倒れる。どう考えても刃を潰してない武器で訓練するほうが危ないのに。


「うぅ……すまない。やはりこの身体で使いこなすのは無理か」


「痛……っう。気を付けてくださいよ。転職で加護内容も変わって――」


 むに? 柔らかな感触が顔に触れる。エルクロが慌てて半身を起こした。馬乗りのような状態のまま申し訳なさそうに長い髪を掻く。


「大丈夫だったか? まぁ仕方ない。今回はボクの負けでも……」


 太ももの感触が腰を撫でる。さっきの感触は――胸?


 いや、落ち着け。こいつはエルクロだ。もともと男だぞ。


 風林火山と唱えろ。――風林火山。あ、いえ、無理ですね。


 このままだとダメなとこだけが山の如しです。


 なんて自分を茶化して開き直ろうとして寸でで思い止る。這い上がる焦燥。顔を引き攣らせながら咄嗟に魔力を込める。


「ッ――――【背水の陣】!」


 手遅れになる前に妄言を叫び、防御力低下と攻撃力増加を即座に自身へ付与。誤魔化しながら地面へ頭を殴打することで見事に視界は暗転した。


 俺は自分との闘いに勝ったのだ。

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