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エルクロはむしろ受け入れるように妖しい笑みを浮かべるだけだった。

 すっと差し出される手。


「…………?」


「おい、手だぞ。バカ」


 理解に時間がかかると苛立つように手を抓られた。


 屋台の煙と香辛料の匂い、そして人混みをかき分けて進んでいくと少しばかりひらけた場所に出た。食べ物と酒ばかりが並んでいた通りと比べれば人通りもマシだろうか。


 先ほどのむず痒恥ずかしいやり取りを誤魔化すみたいに、俺たちは異国の土産物や珍妙な品物ばかりを見て回った。


 見慣れない模様の陶磁器と布地。故郷の極東で着られていた着物にも似た衣服。読めない言語の本。家畜そのものや珍獣の剥製。


 買いたいと思えるものはまるでなかったが、興味を惹かれるものは多く売られていた。


「サンゲツとかルロウだったらいろいろ買ってたかもな。奴は無駄な物が好きだし、ルロウはなんでも食いたがる」


 ぼんやりと見て歩いているとエルクロが感慨深そうにぼやいた。


「……違いないですね。しかし俺たちにとっては――……嗚呼、なんだか上手くはいきませんね。……申し訳ないです」


「ええい、謝るんじゃない。ボクは可愛いと言われることは好きだし、ナンパされるのも嫌いじゃないし、まして親友にデートに誘われたとなれば、それなりに嬉しいのだからね?」


 ジトリと視線が強く物を言う。


 牙を見せた蠱惑的な笑みを浮かべながら、エルクロはすっと手から離れた。


 砂漠の踊り子が着ているような真っ赤な衣服を手に取って喉元に当てがう。シャラリと金細工が小さな音を散らした。


「ふふ、どうかね? ボクがこれを着たら君はメロメロになってしまうかね?」


「……どうでしょうか。気になるなら買ってみてはどうですか」


「ダメだ。そうではない。メロメロになってしまうかなってしまわないかで答えろ」


 無茶苦茶な言葉だがエルクロの真っ赤な瞳が真剣に睨み見上げている。……似合わない訳がないだろう。


 大きく開いた背中は白い肌を際立たせるはずだ。


 魔力で桃色の色彩を帯びる黒く長い髪も赤い布地と似合うはずだ。可愛いはずだ。綺麗なはずだ。


 だがそんなことを正面から言い切れるほど、俺は格好いい人間ではなかった。


 ――――言葉が途切れて満たす沈黙。込み上げていく罪悪感。


 エルクロはそんな無様な俺を見て、ふっ、と鼻で笑い飛ばした。


「……まぁ、きっと逆の立場でもボクは可愛いとは言えないだろうね。ボクだって本心も何もを曝け出せはしないものさ。哀れだからダサイと嘲ってやろう……」


 ケラケラと笑いながらエルクロは衣服をいくつか買っていった。


「…………けどもし君がボクに対する本心を打ち明けてくれれば……ボクも少しは話しやすいのだがね? …………それともそれっぽい雰囲気になるまでデートとやらを続けてみるかい? ボクはそれでもかまわないが――」


「ええ、それは続けます。デートはしましょう。こう見えても女の子とデートするの初めてなんですよね。なので続けましょう」


 エルクロがなぜか呆れるように静止した。手を握りなおすと大きく肩が跳ねて再起動した。


「……なんで君はそういうことは平気でつらつらと言えるのかね? 君の恥ずかしいポイントがボクには――」


「覚えてますか? 四年前にどっちが先に女の子とデートできるようになるかした賭けです。これで俺の勝ちですね」


「ああ……。勝負バカなだけだった。って、それボクをカウントするのおかしくないかね? ノーカンだろノーカン」


 ぎゃーぎゃーと顔を赤く染めてまで無効な勝利だと言い張るエルクロは、変わりない親友のままであり、同じ弟子同士であり、戦友であるはずなのに。


 ――俺自身も変わってしまったのか、もう元のように笑えなかった。


 無邪気な笑みに今度こそ釘付けにされて。


「…………俺は今のエルクロがいいです。いまのエルクロのまま変わってほしくないです」


 今まで言い出せなかった言葉がぽろりと零れ出た。


 狂わされるぐらい振り回されてきたが、それでもかまわない。


 むしろ望むところでさえあった。


「そ……それはどういう意味かね…………?」


 エルクロの声が僅かに上擦ったのがわかった。飄々とした笑みが僅かに緩んで、ニヤケ面になっているのもよく理解できた。


「男に戻れとは言いません。女になれとも言えません……。俺の女になれ、だとか……いっそ言い切ったほうが良かったのかもしれませんが。俺はエルクロにそれだけは押し付けたくありません。ですが――――」


 重く唾を飲み込んだ。


 エルクロは幼馴染だ。同じ師を持つ弟子同士だ。戦友だ。一緒に名誉だの金だのを求めて冒険者とやらにまでなった。


「……今の関係が歪かもしれませんが、俺にとっては心地よいです。変わって後悔するのが怖いぐらいです。……思いつめていたエルクロには申し訳ないですがね」


 醜い。醜い。醜い。心情の吐露。


「……へぇ?」


 だというのにエルクロはむしろ受け入れるように妖しい笑みを浮かべるだけだった。

 投稿遅れてごめんなさい”!!!!!!

 

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― 新着の感想 ―
つまり性自認があやふやなTSエルクロが良いのであって、完全に女の子になったエルクロより好きだという性癖暴露かな?
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